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叙任式はいつにする?

 武術大会で優勝する前に、カイルにはやらなければならないことがあった。


 それは――そう、騎士見習いから正式な騎士になること。

 つまり、騎士になるための試験に合格することだ。



 私が元いた世界での騎士については、よく知らないから何とも言えないけど。

 この世界――この国で騎士になるためには、まず、どのような騎士になりたいのかを明確にしなければならないらしい。



 たとえば、主としたい人(または、家や騎士団)がすでに決まっているなら、その人の騎士になることを宣言し、許しを得る。

 無事に許しを得られたら、試験に合格した後、直接主から叙任式をしてもらえるんだそうだ。


 叙任式っていうのは、簡単に言えば〝騎士の称号を与える儀式〟のこと。

 儀式は主の前でひざまずいて行うんだけど、その後、お披露目パーティーみたいなものまであるらしい。



 主の前で行う儀式っていうと、前にカイルから、


「騎士は主君に忠誠を誓う時、両手を組んで主君の前へ差し出します。主君は両手でその手を握り締める。これが主従関係を結ぶための儀式です」


 って風な説明をされたけど、これと同じと考えていいのかな?

 私がカイルに差し出された両手を握れば、儀式成立――ってことになるんだよね?



 確認のためにカイルに訊ねると、『はい、それで間違いございません』と笑ってうなずいた。

 そして遠くを見つめながら、


「それにしましても……私が姫様にその説明をさせていただいてから、もう一年以上経つのですね。なんだか信じられない心地がいたします」


 しみじみとつぶやき、私へと視線を戻す。

 私も小さくうなずいて、彼と同じ気持ちであることを示した。


「一年なんてあっという間だよね……。でも、叙任式の前に試験があるんでしょう? 騎士になるための試験って、どんなものなの?」


「試験と申しましても、そう難しいものではございません。主と数名の見届人の前で、剣術を披露すればよいだけのことです。そこで『問題ない』と判断していただければ、晴れて騎士になれる――というわけです」


「剣術を披露? どうやって披露するの?」


「ほとんどの場合は、試合形式で行われます。相手になってくださる方と試合をするのです」


「試合って……そこで勝てばいいってこと?」


「いいえ。必ずしも勝つ必要はございません。腕を見ていただくための試合ですので。相手になってくださる方は、騎士の中から選ぶことになっておりますし……その方が剣術に優れていらっしゃれば、負けることもあり得るのです」


「……そっか。これから騎士になろうっていう騎士見習いと、すでに騎士になってる人の試合だもんね。普通に考えたら、騎士の人の方が技術が上で当たり前か」


「はい、そういうことになります」


 納得してうなずいた後、私はカイルをじっと見つめて。


「でも……カイルは武術大会で優勝しなくちゃいけないんだから、その試験でも相手の人に勝てるくらいの腕になってなきゃ……だよね?」


「ええ、私もそう思っております。そこで簡単に負けてしまうようでは、武術大会での優勝など夢に等しいでしょう」


「その、カイルの試験と叙任式は、いつ頃になりそう?」


「二十歳になる年に試験を受けるのが一般的ではございますが、全ては主の都合によるところもございますので……。一年ほど前であっても、試験をさせていただける場合もあるそうです」


「え? 二十歳になってなくても受けられるの? じゃあ、えっと……カイルって、今いくつなんだっけ?」


「十八ですが、九月には十九になります」


「九月……ってことは、三ヶ月後か」


「はい」


「じゃあ、カイルはどうしたい? 二十歳になる前に、騎士になっていたいの?」


「それは……姫様のお気持ち次第です。私の主は姫様ですので。姫様が望まれるのでしたら、私はいつでも構いません」


「ええーっ、私次第なの?」


 なんだか責任重大のような気がして、私はう~んとうなってしまった。



 武術大会までは、まだ一年くらいあるし。

 それまでに騎士になってればいい(騎士見習いのままでは出場資格がない)んだから、急ぐ必要はないんだろうけど……。


 でも、武術大会間近に、叙任式だお披露目パーティーだってバタバタするより。

 もう少し前に済ませちゃってた方が、カイルも落ち着いて武術大会に臨めるかな?



 うん……だよね。

 やっぱり早めにやっちゃおう、叙任式!



「決めた! カイルの十九歳の誕生日が過ぎた頃、叙任式やっちゃうね。そうすれば、後は武術大会目指してまっしぐら! って感じで、大会前に気が散ることもなくていいんじゃない?」


 そう告げる私に、カイルはフッと優しく微笑む。

 それから片手を私の頬に当て、


「姫様のお望みとあらば、そのようにいたしましょう。私はいついかなる時も、あなたの忠実なしもべですから――」


 耳元でささやくように告げると、そっと私にキスをした。

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