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思わぬ支援者

 先生に『近いうちに事に及んでしまう』と思われていたことに、ショックを受けつつも。

 ようやく落ち着きを取り戻してきた私に向かい、先生は意味深なことを言った。


「どうやら、君は何か勘違いしているようだな。私がセバス殿を通して君たちのことを陛下にご報告申し上げたことにより、強引に仲が裂かれるとでも思っているのか?」


「……えっ?」


 先生の問いに、私は思わず首をかしげた。



 ……さすがに、『強引に仲が裂かれる』とまでは、まだ考えてもいなかったけど……。

 ただ、()()()()()()()()()()()()()()()と思われていたことが、ショックで恥ずかしくて、居た堪れなかっただけなんだけど。



 でも……そっか。そういうことだってあり得るんだ。

 私とカイルの仲が、強引に裂かれる――……。



「イヤですそんなのっ!! せっかく蘇芳国で再会できたのに、またカイルと離れ離れになるなんて……そんなの絶対イヤッ!!」


 気が付くと、胸の前でこぶしを握って叫んでいた。


 カイルが行方不明と聞いた時の絶望と恐怖。

 あの時の思いが蘇ってきて、思わず声を張り上げていた。


 ハッとして周囲を見回す私の目に、驚いたように両目を見開いているみんなの顔が映る。


「あ……。ご、ごめんなさいっ、大声出して。カイルと別れさせられるって思ったら、つい……」


 慌てて謝ると、先生は呆れたように私を見つめ、


「だから、勘違いしていると言っただろう。陛下は君たちの仲を裂こうだなどとは、露ほどもお考えになってはいない。むしろ逆のようで、私も愕然とさせられたよ」


 やれやれと言った風に、軽く肩をすくめる。


「え……? 『むしろ逆』……って、どういうことですか?」


 先生の言葉の意味が読み取れず、私はキョトンとしてしまった。

 彼は少しいら立ったように眉根を寄せ、聞こえよがしにため息をつく。


「逆は逆、そのままの意味だ。陛下は君たちの仲を裂こうとは思っていらっしゃらない。どうにかして添い遂げさせてやりたいと、甘いことをお考えのご様子だ」


「……ええッ!?」


 あんまりビックリして、声が裏返ってしまった。



 だって、お父様がそんなこと……。

 私たちを『添い遂げさせてやりたい』なんて――そんな風に思っててくれたなんて、夢にも思ってなかったんだもの。



「そ、それって、本当なんですかっ?……冗談じゃなく?」


「冗談?――何故私が、くだらない冗談などをわざわざ言わなければならないんだ?」


 ものすごく不快そうに、先生がまたしても私をにらむ。



 冗談じゃない……ってことは。

 ホントのホントに、お父様が私たちを結婚させようとしてくれてるの?


 でも……いったいどうやって?



 この国では、まだ身分制度があるんでしょ?

 貴族は貴族――しかも、上級貴族は上級貴族同士、中級貴族は中級貴族同士――って風に、同等程度の階級の者同士じゃなきゃ、結婚できないんじゃなかったの?


 カイルは下級貴族の出身って聞いたけど……。

 一応、上級貴族ってことになってる私が、下級貴族のカイルと結婚しても大丈夫なの?



 もちろん、私は階級なんて全く気にしないし。

 下級貴族の彼とは結婚できないというのなら、一生結婚しなくたって構わない。


 結婚なんてしなくても、カイルとずっと一緒にいられるなら、それだけで幸せに決まってるけど……。



 でも、他の人たち――この国の人たちは、それを許してくれるの?

 国のことを考えれば、いつかは身分的に釣り合う人と結婚して、跡継ぎを残す……っていうのが、理想なんじゃないの?



 その時ふと、以前、先生から言われたこと、


『彼は今、騎士になるため修行中ということだが……騎士になれたところで、君との身分差がなくなるわけではない。婚姻は不可能だ。――とすると、どうする? 愛人にでもするか?』


『君は、この国の第一王女だ。己の感情だけで婚姻関係を結ぶなど、絶対にできはしない』


『それが耐えられないというのであれば、手に手を取って駆け落ちでもするか? 国を捨て、王を裏切り、多くの臣下を見捨て、幾多もの民の暮らしを守るべき義務も忘れ――愛のみに生きるか?』


『果たしてそれが可能だろうか? 当然のことながら、彼は騎士になるという夢は断たれる。さすれば、職はどうする? どうやって衣食住を満たす? 今さら君は、最下層の暮らしができるのか?』


 忘れていたかったセリフが次々に思い返されて、一気に不安が押し寄せてきた。

 だけど先生は、意外にも優しく微笑んで。


「まあ、そう不安そうな顔をするな。――大丈夫だ。つつがなく事は進むだろう。陛下や()()()()にお任せしていれば、少なくとも、身分問題は容易に処理できるはずだ」


「え?……()()()()って……?」



 お父様以外に、そんな頼りになる人が?

 ……だとしたら、よほど力のある大貴族なんだろうけど……。


 誰だろう? 私の知ってる人……のわけないか。

 この国の知り合いなんて、まだ森の城の人たちのうちの、ごく一部しかいないし。



 ……あ!

 そう言えば、マティアスさんは上級貴族なんだっけ?

 お父様が予知夢のことまで話せるほど、信頼を寄せていらっしゃるらしいし……。



 そっか、マティアスさん!

 彼のことなのかも!



 答え合わせをするつもりで、先生をまっすぐ見つめる。

 私の顔つきが変わったのを感じ、()()()()が誰か、私がわかったと思ったんだろう。先生は満足げにうなずいた。


「そうだ。()()()()とは、王家に次ぐ名門貴族であらせられるグレンジャー卿――いや、グレンジャー閣下のことだ」


「…………ふぇ?」


 全く想像もしていなかった人の名が先生の口から発せられ、私は間の抜けた声を上げた。

 そして数秒の後、


「え……えぇえーーーッ!? グレンジャー師匠が、王家に次ぐ名門貴族ぅうううッ!?」


 部屋中に響き渡るほど、私は絶叫してしまった。

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