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姫は自室で混乱中

「まだかな? まだかな? まだかな~~~っ? ああああっ、もう! セバスチャン! カイルは朝早くに出かけてったんでしょ? なんでまだ戻ってこないのぉおおおーーーっ!?」


 部屋中をグルグル歩き回りながら訊ねると、私は返事を待たないまま頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 セバスチャンはトタトタと寄ってきて、


「姫様、どうか落ち着いてくださいませ。まだ昼前でございますぞ? どのようなご用向きで、陛下がカイルをお呼びになったのかはわかりませんが、すぐ済むようなことであれば、わざわざ呼び寄せたりはなさいませんでしょう。カイルの帰城は午後になるかと思われますが……」


「午後!?……う~~~っ、そんなに待てないよーーーっ! 気になっちゃって気になっちゃって何も手につかないし、ティータイムのお菓子も喉を通らないしぃ~~~っ!!」


「そ、そのようなことを申されましても……」


 困り果てたように、セバスチャンは首を横に傾ける。

 しゃがみ込んでいた私は、


「あっ、そーか! 待つのが嫌なら、こっちから迎えに行っちゃえばいいんだ!――セバスチャン、すぐに馬車を用意して! 私も本城に行く!」


 すっくと立ち上がり、セバスチャンにお願いしてみた。


「姫様、またしてもそのような……。本城に参りますためには、事前に陛下にお知らせしなければなりません。そのお返事をいただきましてから、馬車の手配をいたしますので……どれだけ急ぎましても、結局は午後になってしまいますぞ?」


「ええっ、そんなにかかるの!? 自分の父親の住んでるところに行くってだけで、どうしてそんな面倒な手続きが必要なのよ? あーもうっ! ほんっと、イヤんなっちゃうな~っ」


 私はうつぶせの状態でベッドに飛び込み、足をバタバタさせた。

 姫らしくない、みっともない姿なのは百も承知だ。でも、そうせずにはいられなかったんだもの。



 昨日、本城でお父様に、『詳しく話を聞きたいから、カイルに城に来るように伝えてくれ』みたいなことを言われた時は、心臓止まるかと思ったけど。

 何の話を『詳しく聞きたい』のかまでは、教えてもらえなかったんだよね。



 お父様は穏やかな顔つきで、


「なに、世間話のようなことをしようと思っているだけなのだよ。蘇芳国に着く前に、乗っていた船が転覆したそうではないか。どの程度の大きさの船だったのか、我が国の船だったのか、それとも、我が国と交易のある他国の船だったのか。その辺りのことも、詳しく聞かねばならぬしな」


 なんて言って、神妙な顔でうなずいたりして……。



 雰囲気的には、それほど重い印象ではなかったけど。

 でもやっぱり、何を訊かれるか、言われるかわからないっていうのは……不安でしかなかった。(船の話はたぶん、ついでって感じなんだろうし)



「ああ~っ、気になるよ心配だよーーーっ! お父様ったら、カイルに何を聞こうとしてるのーーーっ?」


 私は再び足をバタつかせ、今度は手でもって、ベッドをバシバシと叩く。



 わかってる!

 行儀が悪いってことは、わかってるんだってば!


 でも、ただじっとしてるだけだと、ろくでもないことを考えちゃいそうなんだもの。

 心臓がバクバクして息苦しくて、ますます落ち着かないんだものーーーっ!



「もうもうっ、お父様ってば! 帰国してすぐ、混乱しちゃうようなこと言わなくたっていいじゃないっ! 旅の疲れが取れてからでもいいじゃないのぉーーーっ! 昨日はセバスチャンやシリルやニーナちゃんと、再会の喜びを分かち合ったり、旅の話をたっぷり聞かせてあげたかったのに! 心の余裕なくて、ちっともできなかったんだからぁーーーっ!」


 ボスボスと枕を叩きながら恨み言を漏らした後、私はガバっと起き上がった。


「……というわけで、昨日はまだ、混乱の真っ只中だったの。ろくに話もしなかったり、話しかけられても上の空だったり、食事が済んだらすぐに眠っちゃったりして、ごめんねセバスチャン?」


 今さらだけど、悪いことをしたと改めて反省した私は、セバスチャンに昨日のことを謝った。


「ホッホ。そのようなこと、謝っていただく必要などございませんよ。姫様が長旅でお疲れでいらっしゃることは、私もアンナもエレンも、もちろんのこと、他の者たちも承知しておりましたので」


「……うん。ありがとう、セバスチャン。アンナさんもエレンさんも、ごめんね? カイルが無事に戻ってきて、お父様の話はどんなだったのかをちゃんと聞いたら、私も落ち着けると思うから……それまでちょっと待っててね?」


 部屋の隅で控えてくれている二人の方を向き、謝罪と、今の気持ちを正直に伝える。

 二人は同時に首を横に振り、


「私どもに、そのようなお気遣いは無用でございます。どうかお気になさらないでくださいませ」


 アンナさんがそう言えば、エレンさんは、今度は首を縦に振って。


「はい。その通りでございます。姫様がご無事で、お元気でお帰りになられたことが、何よりのことでございますから」


「……アンナさん。エレンさん……」


 なんだかジーンとしてしまって、私は思わず涙ぐんでしまった。



 本当に、私の周りは優しい人たちばっかり……。

 恵まれてるなぁ……。ううん、恵まれすぎてるよね?


 こんなに良い人たちと巡り合わせてくれた神様や運命に、心からお礼を言いたい気分だよ……。



 しみじみと感動していると、控えめなノックの音がした。大声で話していたら聞き取れなかったかもと思えるくらい、控えめな音が。


「あ……はい! どなたですか?」


 先生だったら怖いし、一応、丁寧な言葉で返事をする。

 少しの間の後、聞こえてきたのは――。


「あの……シリルです。姫様に、お訊きしたいことが……あ、あるのです……が」


「シリルっ?――いいよ、入って!」



 ああ、私の可愛い可愛いシリル!

 ずっとずっと足りなかった萌えの対象!


 この数ヶ月、どれだけあなたに会いたい、抱き締めたいと思ったことか!

 今ようやく、その願いが叶うのね――!



 心配事が一瞬にして消え去った私は、弾むような足取りで、シリルを出迎えにドアへと向かった。

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