表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
203/251

過激なヤキモチの末に

 私って、やっぱりイサークや先生が言う通り、お気楽人間なのかもしれない。


 だって……。


 数日の間に、驚きの出来事が次から次へと起こったから……って言ってもよ?

 普通、殺されそうになったことを忘れる?


 しかも、ほんの数日前のことを……まともな神経の持ち主なら、忘れたりなんかしないよね?



 ……でも、私は忘れてた。

 すーーーっかり、記憶から抜けちゃってた。


 たった数日前に起こった、恐怖体験だったっていうのに。



 ……ダメだ。

 私ってホントに……人として、何か足りてないのかもしれない……。



(あの……リア様?……いかがなさいましたの?)


 ズズンと落ち込んでいる最中。

 私は、露草さんの心配そうな声で我に返った。


(あ……。ご、ごめんなさい! ちょっとボーッとしちゃってました!)


 まさか、『殺されそうになったことすら忘れてた自分に、思いっきり絶望してました』なんて、言うわけには行かない。

 私は慌てて謝って、露草さんに話の続きを促した。


 露草さんは、まだ少し心配そうな様子だったけど。

 ほんの少しの沈黙の後、また静かに語り出した。


(あの日、わたくしは……今度こそ、夢を見ているのだと思っておりましたの。……そう思いましたのも、いつもの夢とは少し、様子が違っていたからですわ。いつもの夢――わたくしが千草の体を借りて動いております時は、思うように動けておりましたの。ですのに……あの日に限っては、千草の体に入っている感覚はございますものの、少しも思うようには動けなかったのです。ただ、千草の目を通して、周りはよく見えておりました)


(それはつまり……千草ちゃんの体を借りてる時は、思うように動けてたはずなのに……その日だけは、千草ちゃんの中に入ってる感じはするものの、自分の思うように行動できなかった。体だけが勝手に動いていた――ってことですか?)


(はい、おっしゃるとおりですわ。……その時、わたくし思いましたの。わたくしが千草の体を借りて、思うように動けておりましたのは……その時だけ、千草が己の意識を手放してくれていたからなのだと)


(……意識を、手放す……?)


(ええ。――考えてみてくださいませ。わたくしの意識が千草の体に入っております時でも、あの子の意識はそこにあるのです。つまり……ひとつの体の中に、ふたつの意識が存在しているということですわ。そうすると――どうなるとお思いになられます?)


(――えっ?……あ……ええっと……)


 いきなりの問い掛けに、私が思い切りまごついていると、


(わたくし……取り合いになると思いますの)


 露草さんは、確信めいた口調で告げた。


(取り合い?)


(ええ……。体の奪い合い、とも申せますかしら。そうなるのが通常だと思いますの。けれど……千草は取り合いをしようとはせず、いつも、わたくしに体を譲ってくれていた。ですからわたくしは、千草の中に入っている時も、自由に体を動かせていたのですわ)


(ふぁ~……、なるほど。そういうことですか……!)


 私は納得してうなずいた。

 そんな私を、紫黒帝と藤華さんは、不思議そうにしげしげと見つめている。



 ……うん。まあ……無理ないよね。

 二人には、露草さんと私の声は届いてないんだから……。



(けれど……あの日に限って千草は、わたくしに体を譲ってくれなかったのです。戸惑っていると……急に、千草の想いがわたくしに流れ込んできて……)


 そこで露草さんは、辛そうに眉根を寄せた。

 千草ちゃんはその時、次のようなことを思っていたそうだ。



(許せない……許さない! 露草様を悲しませる人は、みんなみんな許さない……ッ!!)


(露草様というお方がいらっしゃるのに、藤華様のことばかり考えていらっしゃる帝も、絶対に許さない!! 露草様を苦しめ続ける藤華様も許さないッ!!)


(そして……帝に目をかけてもらってる異国の姫もッ!!……なによっ、萌黄と楽しそうにして!! 萌黄はわたしの妹なんだから……なれなれしくしないでッ!!)



「ええッ!?……私ぃ!?」


 うっかり声を上げてしまい、慌てて両手で口元を覆った。

 紫黒帝と藤華さんは、ギョッとしたように目を見開いている。



 ……う……マズい。

 いきなり自分の名前が出てきたもんだから、ビックリしちゃって、つい……。



 でも……そっか、知らなかった。

 どうして私まで狙われたの?……って、ずっと疑問だったんだけど。


 ……そっか。

 嫉妬――ってか、ヤキモチみたいなものだったのか……。



 ……そう言えば。

 千草ちゃんに、陰からジーーーっと見られてたことがあったっけ……。



 あれはそういうことだったのねと、改めて納得した私は、うんうんと何度もうなずいた。


 露草さんを強く慕うあまり、千草ちゃんは、紫黒帝と藤華さんに憎しみを抱くようになってしまって――。

 お母様の娘だからと帝に目を掛けてもらってるばかりか、妹の萌黄ちゃんとも楽しそう(?)にしてる私が、許せなかった……と。


 だから千草ちゃんは、まずは私を手に掛けようとしたのか。



 ……けど。

 それで首を絞めようとする……って、アリなの?


 ハァ~~~……。

 なんとも過激なヤキモチだなぁ……。



 めまいがしてきた私は、ため息をつきつつ片手でひたいを押さえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ