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正室の容態急変

 月花殿は全焼してしまったから、御付きの人達はどうしているのか気になっていたんだけど。

 萌黄ちゃんに聞いたところによると、今は流麗殿にいるらしい。


 流麗殿は私の泊まらせていただいている風鳥殿の手前にあり、かつ、帝の正室が住まうはずの貴光殿の先にあるんだそうだ。

 流麗殿も貴光殿も、今は誰も使用していないらしいから、藤華さん達は当分――月花殿が再建されるまで――の間、そこで生活することになるだろうということだった。



 風鳥殿に一番近いところに藤華さんが暮らすことになるなら、異変があったらすぐに駆けつけられるし、ちょうどいいなと思ったんだけど。


 そもそも、私がこの国に招待されたのは、神結儀に出席してほしいって理由からだったんだから。

 当然、神結儀が執り行われる日が決まって、それに出席した後は、ザックスに帰らなきゃいけないワケで……。


 考えてみたら、『すぐ駆けつけられる』なんて言ってられる期間は、そんなに長くはないんだよね。



 それに……未だ行方の知れない千草ちゃんだけど。

 彼女がまた、藤華さんを襲いにくるかどうかもわからないし。

 どうして藤華さんを傷付けようとするのか、その理由もハッキリとはしていない。


 ただ、千草ちゃんは露草さんの御付き女官見習いで、露草さんのことを心から慕ってるみたいだから。

 理由として考えられることがあるとすれば、やっぱり露草さん関連なんだろうけど……。



「あっ、そう言えば露草さんはっ?」


 月花殿に向かう途中で露草さんとの会話(テレパシーだけど)が中断されたままだったことを、今さらながら思い出した。

 萌黄ちゃんに、今露草さんがどうしているか知っているかと訊ねたら、とたんに顔を曇らせて。


「それが……火災からお逃げいただいている途中、露草様のご容態が急にお悪くなられたとのことで……。今は、どなたにお会いすることもかなわない状態なのだと、露草様のお付きの方々がおっしゃっているのを耳にしました」


「ええっ、急にご容態が!?」


「はい。火は消えたので、露草様と御付きの方々は香華殿にお戻りになられたそうなんですけど。帝が藤華様をお助けするために、火の海に飛び込んでしまわれたとお聞きしたとたん、急にお苦しみになられたそうで……。それっきり、寝込んでしまわれたとのことです。今は、薬師を呼んで詳しく診てもらっているというお話でした」


「そ……そんな……」



 私とテレパシーで話してらした時は、確か最後に、『周りに他の者がいると意識を集中できないから、しばしらくお話できなくなる』みたいなことをおっしゃってたから。

 テレパシーでの会話が途切れたままなのは、きっと、なかなかお一人になれないせいなんだろうなって、気楽に考えてた。


 なのに……。

 まさか、そんな大変なことになってたなんて……。



 帝が藤華さんを助けるために、一人で火の海に飛び込んで行ってしまったと聞いて、自分が千草ちゃんを止められなかったせいだと、責任を感じてしまったのかな?


 それとも、帝のお命が危ないと心配になって……その心労が、お体に悪影響を及ぼしてしまったのかも。


 ……もし、そうなのだとしたら。

 今すぐ香華殿に行って、露草さんに『帝はご無事です。ご安心ください』って伝えて差し上げたいけど……。


 萌黄ちゃんが、『今は、どなたにお会いすることもかなわない』状態だって言ってたし。

 駆けつけたところで、どうにもならないんだろうな……。



「……あ、そっか! ねえ、白藤。お願いがあるの」


 あることを思い付き、私はまだ側でフワフワ浮いている白藤に呼び掛けた。

 白藤はゆっくりと近付いてくると、


(やれやれ、またか。そちはちと、人使いが荒すぎやしないかのう?)


 苦笑いして、そんなことを言った。

 でも、不機嫌になったり、ウンザリしてる様子でもなかったから、


「人使いが荒いのは百も承知だけど。今はあなたしか頼れないの。お願い! 露草さんがどんなご様子なのか、見てきてくれないかな?」


 悪いと思いつつ、手を合わせてお願いしてみる。

 ボヤかれるかなと思ったけど、意外にもすんなり応じてくれて、白藤は私の前から姿を消した。


 よかったとホッとしつつ、みんなの方へ視線を戻すと。

 イサークと萌黄ちゃんはぽかんとした顔、先生は怪訝顔で、こちらをじっと見つめていた。


「え?……ど、どーしたのみんな? 変な顔しちゃって……」


 思わずたじろいで訊ねる私に、イサークは首をかしげて腕を組み、


「いや……。姫さんには見えてんだろうけどよ、俺らにはその、神ってヤツは全然見えてねーから。姫さんが何にもねーとこに向かって、ブツブツ言ってるよーにしか思えねーんだよな。それがなんか……妙に落ち着かねーっつーかよ……」


 どうにも納得行かない様子で眉根を寄せれば。

 その横では萌黄ちゃんが、両手を胸の前で握りしめつつ、大きく何度もうなずいている。

 トドメには先生が、


「まったくだな。我が国の王族――つまりは君の先祖ということになるが。彼らの中には、超人的な能力を発揮する者が少なからずいたと、古い書物にも書かれてはいるものの……。実際目にするまで――いや、こうして目の当たりにしている今ですら。神などという者が実在し、その者を見、言葉を交わし合える君のような者がいるという事実を、正直なところ受け止めきれないでいるのだよ。……君には悪いと思っているがね」


 なんてことをしみじみと語った。

 私は彼らの反応に『まあ、そーでしょーね』と心でつぶやき。

 ただひたすら、曖昧な笑みを浮かべていることしかできなかった。

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