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御所に戻れば

 湯浴みしてすっかりポッカポカになった私は、素早く着替えを済ませて大きく伸びをした。


「はぁ~っ、気分爽快っ。やっぱり温泉は最っ高だねぇ」


 上機嫌で独り言を言いながら、


『私が湯浴みしてから着替え終わるまで、岩陰に隠れてジッとしてて! ぜーーーったい、覗いたりしちゃダメだからね!?』


 ――と、よくよく言い聞かせておいた、白藤のところまで歩いて行く。


 着替えとタオルは、カイルに届けてくれるようお願いしたんだけど。

 白藤が〝刹那移り〟ですぐ近くまで連れてきてくれたにもかかわらず、


「ムリだ! やはり近付けない!――神よ! まだ側にいらっしゃるのでしたら、私の代わりにこれらを姫様にお届けしていただけませんか!?」


 なんてことを言い出して、その場から動かなくなってしまったんだそうだ。

 それで仕方なく、カイルの手から白藤が受け取って、私のところまで持ってきてくれたんだけど……。


 白藤ったら、またヘラヘラ笑いながら、


(リナリアとやらよ~。カイルとかいう者の代わりに持ってきてやったぞ~。せいぜい感謝するのじゃな~)


 とかなんとか言って、いきなり私の前に現れたもんだから……。

 私は再び、『キャーーーッ!!』と大絶叫する羽目になってしまったのだ。



 ……まったく、白藤ったら!

 突然人の前に現れるなって、何度言ったらわかるのよ!?


 それに、現れる前は〝お香〟で知らせるって話は、いったいどこに行っちゃったの!?



 ムカムカして、湯浴み後に訊ねてみたら。

 どうやらお香は、千草ちゃんから藤華さんを守ったときのドサクサで、失くしてしまったそうで……。


 白藤いわく、


(あの香は我のために作られ、神結儀にだけ焚かれる特別な香じゃからの。そうそう幾度もくすねてくるわけにはいかぬのじゃ。数にも限りがあるしのぅ……明らかに減っていたら大騒ぎになってしまうじゃろう?)


 ……だそうで。

 結局、〝現れる前にはお香で知らせる〟という話はなくなってしまったのだった。




 数分後。

 私は白藤に刹那移りで御所に連れてきてもらった。

 カイルは私と入れ替わりで、湯浴みをしてから、自分の足で御所まで戻るということだった。



 それは別に構わない。

 カイルは今日、藤華さんに促されて、私のところに来てくれたってことだったし。

 もしかしたら朝、湯浴みする暇もなかったのかもしれないし。


 でもどーして、私のところまで着替えを届けにきてくれなかったんだろ?

 すぐ近くまで来てたのに、『ムリだ』『近付けない』って、どーゆーこと?


 いったい、何がムリなの?

 どーして近付けないのよ?



 どうにもスッキリせず、私は一人で悶々としていた。

 すると、イサークと先生が私を見つけて駆け寄ってきて。


「おいっ、今までどこに行ってたんだよ!? 急に消えちまったからギョッとしたじゃねーか! さっき戻ってきたっつーカイルってヤツが言ってたが、マジで〝神の力〟ってーので紫黒帝んとこまで行って、また連れて戻ってきたのか?」


 怪訝顔で訊ねられ、私はコクリとうなずいた。


「うん、そーだよ? 白ふ――神様の力で紫黒帝とカイルのところまで連れてってもらって、またこっちに戻ってきたの。私は湯浴みしなきゃいけなかったから、神の憩い場まで運んでもらって、たった今、済ませて戻ってきたとこ。神様はみんなには見えないから、私だけ消えたように見えたかもしれないけど、そーゆーことだったの。驚かせちゃってごめんね?」


「はあ? 湯浴みしてただってぇ?」


 こんな時に何をノンキな――とでも言いたげなイサークに、私は慌てて説明する。


「だって、しょーがないでしょ? 神様が月花殿の消火をしてくれた時、大量の水を被っちゃって髪も服もビッショビショになっちゃったんだから。早く体を温めなきゃ体調崩しますよって、カイルが心配してくれて……。だから、こっちに戻る前に湯浴み済ませてきたの! ただのんびりしてたわけじゃないんだから!」


「……あー……。そー言われてみりゃ、あんたビショ濡れだったな。無事だってわかってホッとして、他んとこまで気にしてる余裕なかったぜ。……悪かったな」


 珍しく、イサークが素直に謝ってくれた。

 それまで黙っていた先生も、


「私もだ。君の髪や服が濡れていたことには気付いていたのだが……。同じく無事であったことに安堵し、他のことに気を配る余裕がなかった。……申し訳ない。君の体調を真っ先に気遣えない者など、教育係として失格だな」


 そう言うと、先生はきまずそうにメガネを外し、イサークに続いて謝ってくれて……。


「えっ?……あ、そんなっ。べつに、改まって謝らなきゃいけないことでもないですってばっ。私、怒ってるわけじゃないので。そこまで気にしなくてダイジョーブですよっ?」


 イサークはまだともかく。

 こんなちょっとしたことで、先生にも謝らせてしまうなんてと焦った私は、ふるふると首を振った。


「いや。君がどう思おうと、私の落ち度であることに変わりはない。国王陛下から君の教育を任されている者として、恥じなければならん」


「そ、そんな大げさな……」



 ひたすら反省しているらしい二人を前に、私は何を言っていいのかわからなくなってしまった。

 こちらがどんなに『気にしてない』と言ったところで、二人は納得しないんだろうし……。



 う~ん、困った――と考え込んでいるところに、


「リナリア姫殿下っ!!」


 いきなり可愛らしい声が響き、ハッとして振り返ると。

 案の定、萌黄ちゃんがこちらに向かって駆けてくるのが目に入った。

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