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〝仲良きことは〟……?

 驚いて振り向くと、ゼエハアと肩で息をしているイサークが険しい顔つきで立っていた。


「えっ、イサーク? あなた、先生と一緒に下山したんじゃなかったの? 木工の超絶技巧がどーのって話は……?」


 疑問に思って訊ねると、


「んなもんノンキにやってられるワケねーだろッ!? 火事に気付いて慌てて引き返してきたんだろーがッ!! こんな時でものほほんとしてやがって!! まったく呆れたお姫さんだなッ!!」


 ものすごい早口でまくし立て、イサークは私をギロリとにらみ付けた。

 迫力に気圧され、思わず一歩足を引く。


「え……っと……。そっか。わざわざ引き返してきてくれたんだ? ありがとねイサーク。でも安心して? 火事はたった今、白藤――神様が消してくれたから。藤華さんも紫黒帝も無事だし。月花殿は、その……まっ黒焦げってゆーか、全焼しちゃったけど、ケガ人も出なかったみたいだし、もう何の心配も――」


「んなこたぁどーでもいいッ!! あんたはどーなんだって訊ーてんだよッ!!」


 強く両腕をつかまれ、イサークの顔が間近に迫る。

 その剣幕にビックリして、私はとっさに言葉も返せなかった。目をパチクリしながら固まる。


「この国が――この国の主がどーなろーが巫女姫さんがどーなろーが知ったこっちゃねえ!! あんたが無事かどーかが一番重要なんだよ!! あんたに何かあったら俺は――っ!」


 言いかけて、イサークはハッとしたように口をつぐんだ。

 気まずく視線をそらした流れで手を離し、私に背を向けて腕を組む。


「とっ、とにかく! あんたに何かあったらこっちの責任になるってこと、忘れてもらっちゃ困るんだよ! 守りきれなかったってことで牢獄にぶち込まれたり死罪になったりしたら、たまったもんじゃねーし! だから――っ! 危ねーことに首突っ込んだり、一人で勝手に動き回ったりすんじゃねーってことだ!」


「……あ……うん。ごめん……なさい」


 矢継ぎ早に言葉をぶつけられて驚いたけど。

 要するに、すごく心配してくれたんだよねと理解した私は、まずは素直に謝った。


 するとそこに、


「ほう? 山の下から見えたほどの火災が、こうも早く鎮火するとは。――信じられん。いったい何をどうしたら、ここまで速やかな消火活動ができるというんだ?」


 イサークの後を追ってきたらしい先生が、感心したようにつぶやきながら登場した。


「あ……っ。それはですね! ここにいる白藤が――……」



 ――っと、みんなには見えないんだっけ。



 私はぎこちなく笑みを浮かべて、どう説明したらよいものかと考えを巡らせた。

 先生は私の前に立つと、軽くため息をつき、


「まったく、計画が台なしだ。この大男に超絶技巧を学ばせ、我が国に持ち帰る算段だったはずが……急な火災で引き返す羽目になるとはな」


 ものすごく残念そうに言ってから、私をまっすぐ見つめる。


「……しかし、まあ……君が無事で何よりだ。この大男ときたら、火事を目にしたとたん『姫さんが危ねえ』だとか言い放ち、私など目に入っていないかのごとく、猛然と駆け出して行ってしまったのだからな。その速さたるや、獲物に向かって放たれた矢のごとし――といったところか。みるみるうちに見えなくなり、私など置き去りにされてしまった。この大男は、よほど君が大事とみえる」


「な――っ!……べ、べつに、そんなんじゃねーっつーの! 大事とかそーゆーことじゃなく――っ、姫さんに何かあったら、こっちが責任取らされるからだって言ってんだろーがッ!!」


 たちまち真っ赤になって、イサークが先生をにらみ付ける。


「フン?……まあ確かに、我が国唯一の姫君がみまかろうものなら一大事だ。お側についていながら何をやっていたのだと、君だけでなく当然私も処分を問われるだろう。だが……君がお姫様の身を案じるのは、本当にそれだけが理由なのか? 私には、それ以上の想いが含まれているようにしか思えんがね」


  先生はうっすら笑みを浮かべ、イサークを上から下までなめ回すように眺めている。

 ……なんだか、イサークの反応を楽しんでいるように見えるけど……。


「そっ、それ以上の想いって何だよ!? んなもんあるワケねーだろッ!! っざけんな!!」


 ムキになって言い返すイサークに、余裕の表情で受け止めている先生。

 私は『ああ』と手を打って、


「そっかそっか。仲良くなったんだね二人とも。……うん。よかったよかった」


 嬉しくなってニッコリ笑うと。

 すかさず二人から、


「んなワケあるかぁッ!!」

「何故そうなる?」


 とツッコまれてしまった。


「フフッ。まーたまたぁ。二人とも照れちゃって。――まあ何にせよ、〝仲良きことは美しきかな〟ってヤツだよね」


「だっから違うっつってんだろ!!」


「ハァ。相変わらずお気楽なお姫様だ。……ある意味羨望に値するが」


 今度はすっごく嫌そうな顔で抗議するイサークと、冷ややかな目つきでため息をつく先生。



 二人は否定するけど、やっぱり仲が良くなったんだとしか思えない。

 少なくとも、二人の声に以前のようなトゲトゲしさは含まれてないもの。


 きっとお互いに、心の距離が近付いてることを意識してないだけなんだ。


 ……よかった。

 本当によかったよ。



 まだ一人でギャーギャー騒いでいるイサークを、かーるく受け流し。

 私は大満足で、うんうんとうなずいた。

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