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神の失態

 立ち止まった私の前に現れたのは、やっぱり白藤だった。


「姫様?」


 急に立ち止まった私を変に思ったんだろう。

 カイルも足を止め、心配そうな顔でこちらに駆け寄ってきた。


「いかがなさいましたか、姫様?」


「あ、うん。白ふ――……神様が、急に目の前に現れたの」


「神様が!? まことでございますか!」


 私の言葉をすんなり受け入れてくれたカイルは、私の周囲を見回す。

 ――もちろん、神を見られる力なんて彼にはないから。


(違う違う、そこじゃない)


 ツッコみたくなるような見当違いのとこばかりを、キョロキョロと探っている。


 う~ん……。

 カイルには悪いけど、今は悠長にツッコミ入れてる暇なんてないんだよね。



「白藤、藤華さんは無事なんでしょ!? 今どこにいらっしゃるの?」


 私は白藤に視線を戻し、確認しなきゃいけないことを真っ先に訊ねた。

 白藤は私の周りをぐるぐると回りつつ、


(藤華は無事じゃ。我が、人間には手出しできぬところにかくもうておるからの。じゃが、問題は他にあるのじゃ! ほれ、あの……何と申したかの? 常に露草に付き添うておるわらわがおるじゃろう? 藤華の――今はそちに就いておる、女の童の片割れじゃ。あの者が、藤華が一人でおるところに急に現れての、藤華をひとにらみしおったのじゃ。すると、藤華の周りを囲むように炎が燃え上がっての)


「ええっ、藤華さんの周りを!?」


(そうじゃ。すぐさま刹那移りで我の住処すみかに移したからの、藤華には傷ひとつ付けずに済んだんじゃが……代わりに女の童が、のぅ……)


 そう言うと、いつも偉そう(まあ、『神様なんだから仕方ない』と思うこともできるけど)な白藤にしては珍しく。

 どこかションボリと言うか、モジモジと言うか、私の顔色を窺うような様子を見せ始めた。


「めのわらわって、千草ちゃんのことでしょ? 彼女がどうかしたの?……ってゆーか……白藤、何かしたんじゃないでしょーね!?」


 嫌な予感がして詰問口調で訊ねると。

 彼は〝失敗をとがめられた子供〟のような顔つきで、


(我とて、あんなことはしたくなかったわ!……じゃが、仕方なかろう? 藤華を守ることに集中したせいで、力の加減を誤ったのじゃ。女の童が発した力から藤華を守るため、その力を女の童に向けて跳ね返してしまったのよ)


「ええッ!? 力を跳ね返したぁ!?」


 あんまりビックリして、声が裏返ってしまった。

 まだ小さい女の子に〝力を跳ね返す――ぶつける〟なんて、何考えてるのよ!?


「それでっ!? 千草ちゃんは無事なの!? ケガなんてさせてないんでしょーね!?」


 噛みつかんばかりの勢いでもって、白藤に迫る。

 彼は情けない顔で肩を落とし、


(それがのぅ……わからぬのじゃ)


 チラリと私を見、またそらしてから、小さな声で告げた。


「はあッ!? 『わからぬ』!?……どーゆーことよそれ!?」


 今の私は、きっと赤鬼か般若の面のような顔をしているのかもしれない。

 白藤がおびえるように体を丸めている。


(じゃ、じゃから……我が力を跳ね返すと、女の童の体が後方に飛んでの、庭の木に背をぶつけよったのよ。しまったと思うたが、まずは藤華の身を守らねばならぬじゃろ? 急ぎ我の住処に飛び、意識を失うてしまった藤華を横たえてから、再び様子を見に戻ったのじゃ。するとそこにはもう、女の童の姿はなくてのぅ……)


「姿がない!?……つまり、消えちゃってたってこと!? どこにもいなかったの!?」


(……うむ。そうじゃ)



 そんな……!

 千草ちゃん、いったいどこへ?


 庭の木に背中をぶつけたなんて……。


 白藤がどの程度の力で跳ね返したのかわからないけど。

 さっき『力の加減を誤った』って言ってたし、相当な力が加わっちゃったんじゃないのかな?


 大人――しかも神様の力が加わったら、小さな女の子にどれだけのダメージがあるんだろう? 考えるのも怖いくらいだよ……。



「ああ、もしもケガなんてしてたら……。それに、〝消えた〟ってより〝逃げた〟ってことだとしたら……あんなに小さな体で、どこに逃げるって言うの……?」



 御所の外に逃げたとして。

 外に、彼女の知り合いなんているの?

 かくまってくれる人なんているの?


 いないんだとしたら、千草ちゃんは独りぼっちになっちゃうよ。



「どうしよう……。早く捜さなきゃいけないのに、どこを捜したらいいのかもわからない……」


 ――その時。

 途方に暮れて立ちすくむ私の手を、カイルが両手でギュッと握った。


「姫様! 千草をご案じなさるお気持ちは痛いほどわかりますが、今は火を消すことを第一に考えねばなりません! どうかお気をしっかりお持ちください! 姫様のお側には、常に私がおります!」


「……カイル」



 ――そうだ。

 ここでモタモタしてる暇なんかないんだった。

 早く火を消さないと、大変なことになっちゃう!


 千草ちゃんのことはもちろん心配だけど。

 でも、今は火消しに集中しなきゃ!



「うん、だよね! 辛いけど、千草ちゃんの捜索は後回しにするしかない。――行こう、カイル! 白藤も、今はこっちを手伝って!」


 二人それぞれに声を掛け、私は再び月花殿を目指して駆け出した。

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