表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
185/251

声の主、判明

 頭に響いた女性の声は、露草さんに違いない。

 そう思った私は、カイルと共に香華殿の近くまでやって来た。


 だけど、辺りはシンと静まっていて、何かが起こっているような気配は微塵も感じられない。


「う~ん……。外側から見た限り、事件やら事故やらが起こっている様子はないなぁ。露草さんに何かあったんなら、御付きの人達が大騒ぎしてるはずだし……。だとすると、さっき聞こえた声は露草さんじゃなかったのかな」


 自信がなくなってきた私は、うぅむとうなりながら腕を組んだ。

 カイルは私に視線を移し、かすかに首をかしげる。


「そうなのですか?……その女性は、『いけない』『やめて千草』とおっしゃっていたんですよね?」


「うん。そう聞こえたけど……」


「では、何かが起こったのは露草様ではなく、千草の方なのではないですか?」


「あっ、そっか。そーだよね。千草ちゃんに何かあったとするなら、場所はこことは限らないのか」


「ええ……。ですが、困りましたね。今ここに千草がいないとするならば、いったいどこにいるのか……。彼女の行きそうなところなど、私には見当もつきませんし」


「……だよね。もちろん私もわからないし……。あっ! 萌黄ちゃんならわかるかな?」


「ああ、そうですね。萌黄に訊ねればわかるかもしれません」


「じゃあ、月花殿に行ってみよう! あさげの片付けに行ったきり戻ってこないということは、藤華さんのところに行ってる確率が高いだろうし」


「あ……。申し訳ございません、お伝えするのを忘れておりました。萌黄と雪緋は今、藤華様からご用を申し付けられているはずです」


「えっ? 藤華さんのご用?……って何?」


 どうりで戻ってこないはずだと納得しながら訊ねると、カイルはかすかに頬を染め。


「いえ、あの……。実のところを申しますと、藤華様は……私と姫様を二人きりにしてくださるおつもりで、雪緋と萌黄にご用を申し付けてくださったのです」


「ええっ、私とカイルを二人きりに!?」


「……はい。何があったのかは知らないが、二人でよく話し合った方がよいとおっしゃいまして……。雪緋と萌黄は、わたくしがどうにかして引き留めておくから、その間にリナリア姫殿下の元へお行きなさいと。……藤華様は、全てお見通しでいらっしゃったのです。私が記憶を失っているということが、嘘だということも。私がザックス王国の者だということも。私と姫様が、どのような関係であったかということまで」


「ああ……。うん、そーだね。私とお話してくださった時も、そんなようなことおっしゃってた。私がこの国に来るってわかった時も、私達がこの国に着いた日も、カイルの様子が変だったんだって。それに、最初は私の護衛をするのは嫌だって言い張ってたのに、途中で『やっぱり私に任せてください』っぽいこと言い出したんだってね。藤華さん、すっごく困惑してたみたいよ?」


「えっ! 藤華様は、姫様にそのようなことまでお話していらっしゃったのですか?」


「うん。萌黄ちゃんから、私とカイルがザックスの言葉で話してたみたいだって聞いた時、やっぱりカイルはザックス王国の民に違いない、って思ったんだって」


「そ……そうだったのですか……。始めから、全てお気付きでいらっしゃったのですね……」


 顔のみならず、耳の方までほんのり赤らめつつ、カイルは片手で口元を押さえてうつむいた。

 必死に隠してたつもりだったのに、藤華さんには全部見透かされていたことが、よほど恥ずかしかったんだろう。


「あ……えー……っと……。でもっ、ほら! 藤華さんは巫女姫でいらっしゃるんだから、勘が鋭くて当たり前じゃない? 全部バレてたとしても、恥ずかしく思う必要なんてないよ! 私なんて、つい最近までコローっと騙されちゃってたし! べつに、カイルのお芝居がヘタとか、そーゆーことじゃないと思うなぁ~」


 落ち込んでいるらしい彼を、励ましたかっただけなんだけど。

 カイルは『芝居が……ヘタ……』とつぶやいた後、さらに深くうつむいてしまった。


「あ……あ~……」


 私自身は、カイルの芝居がヘタだなんて思ってたワケじゃない(と思う)のに。

 ついうっかり、余計なことを口走ってしまった。



 ああ~、もう!

 ホントに私ってヤツは!



 心の中で自分をぶん殴っていると、


(リナリア姫殿下!――いいえ、リア様! どうかお助けください! わたくしでは、もう萌黄を止められないのです――!)


 また、頭の中で声が響いた。


「――露草さん!?」



 ……だよね?


 露草さんとお会いしたのは、たった一度きりだけど。

 その時、私が『リアって呼んでください』ってムリにお願いしたら、最初は恐縮なさってたけど、『それでは……リア様、と』って、最後には受け入れてくれたもの。


 だから……私のことを『リア様』って呼ぶのは、今は露草さんしかいないはず。

 やっぱりこの声の主は、露草さんだったんだ!



「露草さん! 露草さんなんですよね!? 『お助けください』って、何があったんですか!? 『もう萌黄を止められない』って、いったい――?」


 心でも同じことを考えながら、カイルにも聞こえるよう声を出す。



 前に萌黄ちゃんが、『私の心が、すべてわかってらっしゃるんじゃないか』って言って、露草さんを怖がってた理由が、今わかった。

 彼女が薄々感じてたように、露草さんは能力者――精神感応能力者(テレパシスト)だったんだ!



(時間がありません! どうかそのまま、わたくしの言葉をお聞きください。そして萌黄を――あの子を救ってやってください!)



 再び頭に響いた声に、事情はまだよくわからないながらも、『わかりました』と返事した後。

 私はカイルに『ごめんね。後で説明するから、今は()()()に集中させて』と、頭を指先で叩いてお願いした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ