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天敵来訪?

 声が聞こえた時にはとっくに気付いていたけど。

 振り向いた先に立っていたのは、やっぱり先生で。


 私とカイルは『先生っ?』『オルブライト様!?』とそれぞれ驚きの声を上げた後、慌てて数歩分の距離を取った。


「フン? 私が現れたとたんに離れるとは。一応君達にも、恥じらいという感情が存在していたとみえる」


 片手でクイッとメガネを上げたりしながら、先生は冷たい視線をこちらに向ける。


 よりにもよって、マズい人にマズいところを見られてしまったと焦りつつ、私は愛想笑いを浮かべた。


「せ、先生。えっと……どーしてここに?」


「たった今、説明したばかりだと思うが? 『護衛の大男に用があっ』たのだよ」


「あ……あー……。イサークなら、さっき裏山に行っちゃいましたよ? 日課の鍛錬をして、川で汗を流してくるそーです」


「ほう? まだ時間が掛かりそうかね?」


「えーっと……どーでしょう? もう少ししたら、戻ってくると思いますけど。……たぶん」


「なるほど。――では、ここで待たせてもらうことにしよう」


「えっ!?」


 先生は私達の横を通り、さっきまで私がうとうとしていた場所(縁側のようなところ)に、ストンと腰を下ろした。

 それから、私達には全く興味がない素振りで腕を組み、チラリとこちらへ視線を走らせると。


「どうした? 私のことなど気にする必要はない。先ほどの続きを再開したらどうかね? それまでに至った経緯や事情は知らんが、行方不明の恋人とようやく巡り会えたのだろう? 陛下より教育係を仰せつかった身としては、職務怠慢ということになるが……久々の逢瀬ということであれば仕方ない。今日だけ特別に、見て見ぬふりをしていてやろう。私に構わず、存分に抱擁でも口付けでも交わすがいい」


「……せ……先生……」



 ――って言われても!

 先生が見ている前で、そんなことできるワケにでしょーーーーーッ!?



「ほら、どうした? さっさと続きを始めたまえ。帰国後、陛下に献上する蘇芳国についての報告書に、本日分の君達のあれやこれやは書かずにいてやろうと言っているんだ。安心して睦み合うがよかろう。ただし――」


 先生はそこで言葉を切ると、カイルに視線を移した。


「我が国唯一であらせられる姫殿下の純血を奪うことだけは、謹んでもらわねばならんがな。……まあ、国に戻ってから、牢獄に入るか処刑されるかする覚悟があると言うのであれば、好きにするといい。君達の判断に任せよう」


「そ――っ、そんなことしませんっ! 急にやってきて、怖いこと言わないでください!」



 〝牢獄〟だの〝処刑〟だの言われた後で、そんな危険なことできるワケがないじゃない!


 カイルだって、『武術大会で優勝し、国王陛下のお許しをいただけるまでは、姫様の純血を奪うような行為は一切いたしません』って、ついさっき誓ってくれたばかりなんだし……。



 そんなことを思いながら、横目でカイルを窺う。

 彼はうっすら頬を赤らめながら、にらむように先生を見つめていた。



 ……あ。

 そー言えば、カイルも先生のこと、あんまりよく思ってなかった……んだっけ?


 ……ってことは……イサーク以外にも、先生と揉める可能性がある人が、増えちゃった……ってこと?



 考えたら、軽い頭痛がしてきて。

 私は『う~ん』と唸りながら、片手で額を押さえてしまった。


「――姫様、いかがなさいました? お加減がよろしくないのですか?」


 即座に体調を気遣ってくれて、心配そうに顔を覗き込むカイルに、薄く笑ってみせる。


「ううん。体調は問題ないの。だから安心して?」


「そう……なのですか? とてもそのようには――」


 本当に具合が悪いと勘違いされてしまったらしい。

 このままだと、『ご寝所までお運びいたします』なんて言って、お姫様抱っこされかねないと思った私は、


「ホントに大丈夫! ちょこっとだけ……ほんの一瞬だけ頭痛がしただけなの。もうすっかり治まったし!」


 慌てて首を振り、拳を握った両手を上げ下げして元気アピールした後、ニッコリと笑った。

 彼はまだ気遣うような表情をしていたけど、『大丈夫』『問題ない』という言葉を連呼していたら、なんとか納得してくれたようだった。


 それでも、


「ご無理なさらず、お加減が優れないようなことがございましたら、すぐにおっしゃってください。直ちにご寝所までお運びいたしますので」


 最後に付け足されたセリフを聞き、私は内心で『やっぱり』と苦笑いを浮かべつつお礼を言った。


「――で? 続きはしなくていいのかね?」


 しつこく突っ込んできた先生の言葉に、すかさず『しません!』と返すと。


「それでは、護衛の大男が戻ってくるまでの間、君達も暇になるな。もしも可能であるならば、元護衛の君――……はて? 私としたことが、すっかり名を忘れてしまったようだ。すまないが、改めて君の名を教えてくれないかね?」


 わざとらしく〝うっかり忘れた〟フリなどしながら、先生はカイルに訊ねた。

 彼はますます頬を赤くしながら、『カイルです。カイル・ランスと申します』と返す。


 きっと、屈辱的な扱いを受けたように感じているだろうな……と、私はヒヤヒヤしながら見守っていたけど。


「では、カイル・ランス君。君さえよければ、この国に来ることになった経緯や事情などをつまびらかに話してくれると、わざわざこちらから探る必要がなくなり、非常に助かるんだが……。どうかね? 話してくれるだろうか?」


 そう言うと先生はまた、指先でクイッと眼鏡のズレを直した。

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