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命令かお願いか

 生きる気力を失っていたかのような、カイルの後ろ向きな発言が聞き捨てならなくて。

 何か言わなくちゃと口を開き掛けた私の頬に、カイルはそっと片手を当てた。


「ああ……違います、姫様。今お話したことは全て、この国に流れ着いた時分のことです。未だに自棄のまま過ごしているわけではございません。ご安心ください」


「えっ? あ……なんだ、そーだったの? ごめんね。私ったら、心配でつい――」


 早とちりしたことが恥ずかしくて、私の体はカーッと熱くなった。

 カイルはクスクス笑いながら、私の頬を両手で包み、


「謝罪なさる必要はございませんが……。姫様は相変わらずでいらっしゃいますね。お気持ちがすぐさま表に出てしまわれるのですから。……ほら。お顔もこんなに赤くなさって。私の手にも、姫様の熱が伝わってまいりますよ」


 まるでからかうように顔を寄せ、艶っぽくささやく。


 ついさっき、キスをしたばかりだと言っても。

 互いの鼻先が触れるまで数センチにまでに迫った、カイルの顔がとてもキレイで。

 破壊力が半端なく、私はとっさにギュッと目をつむってしまった。


「もーっ、カイルのバカ! 顔が熱いのはあなたのせいよ! だから早く離れてっ」



 ……こんなに近くまで顔が近付くのは、約一年ぶりなんだもの。

 すっごく久々なんだから、恥ずかしいに決まってるじゃない!


 なのに、からかうような言い方したりして……。

 もーもーっ、カイルの意地悪っ。



「『離れて』?……それは命令ですか?」


「めっ、命令って……っ。そ、そんなオーゲサなことじゃないっ、けど……。や、やっぱり恥ずかしーから離れてっ。命令じゃなくてお願いぃっ」


「『お願い』……。では、離れなくても問題ありませんね」


「ええっ!?」


 意外な答えに驚いて目を開けると。

 彼は離れるどころか、もっと距離を詰めていて。


「主としての『命令』なのでしたら、私に拒否権はございませんが……。恋人としての『お願い』なのでしたら、受け入れるか受け入れないかは、私の自由のはずですから。それとも姫様は……恋人としての私にも、〝絶対服従〟をお望みですか? 対等な恋人関係は認めぬと?」


「えっ、えぇ……? 〝絶対服従〟?……そっ、そんなの望むワケないっ……けど……」


「それでは、このままでもよろしいですね。むしろ、もっと近付きたいくらいですし」


「えぇええっ? ちょ――っ、ちょっとカイルってばっ。ふざけないでっ」


 あまりの恥ずかしさに、彼の両手をつかんで顔から離そうと頑張ったけど。

 ……ムリだった。女の力ではとても抗えそうにない。


「姫様!」

「きゃ……っ!」


 頬から手が離れたと思ったら、今度は思い切り抱き締められた。


「カっ、カイルっ?」


「ああ……やはりダメです。欲望が抑え切れません。ずぅっとあなたを欲していたから、もういっときも離れたくない。一日中、こうしていたいくらいです」


「い――っ、いちにちじゅうっ?」



 ダメダメッ!!

 そんなのムリムリ!!

 ムリだからッ!!


 一日中抱き締められたままなんて……っ。

 私の心臓が持たないってばぁあああーーーーーッ!!



 カイルの誤解が完全に解けて。

 恋人同士になれたのは、もちろん嬉しいんだけど……。


 キスとかハグとか、一度にそんないろいろはムリぃーーーっ!

 恥ずかしすぎるんだってばーーーっ!


 もうちょっと少しずつ……一歩ずつ関係を深めたいってゆーか……。



 とっ、とにかくムリぃいいーーーーーッ!!

 早く離してカイルぅーーーーー!!

 心臓がどーかなっちゃうよぉおおーーーーーーーッ!!



「だっ、ダメッ!! 一日中とかムリぃっ!」


 頭から湯気でも出ているんじゃないかと思っちゃうくらい、体中も脳内も熱くなって。

 このままでは卒倒しかねないと、私は彼の腕の中でもがき始めた。


 だけど、当然のことながら彼は微動だにせず……。

 ここのところの運動不足が災いしてか、私は早々に息が上がってしまった。


「うぅ……。カ……カイルの……い、意地……悪ぅ……」


 息苦しさにクラクラしつつ、カイルの胸で荒い息を繰り返す。

 彼はささやくように『申し訳ございません』と告げた後、


「ですが、ご無理を承知でお願いいたします。……もうしばし、このままでいさせてください」


 切なげな声を漏らし、さらに強く抱き締めてきた。


「カイル……? どーしたの、ホントに? いつものあなたなら、こんな強引なこと――」



 『しないのに』と言いそうになった瞬間、旅立つ前夜の出来事が頭をよぎった。



 ……そーだった。

 あの夜の彼は、精神的に不安定で――。


 メチャクチャ強引なこと、されちゃったんだった……。



「も、もしかして……また、精神的に不安定……だったり?」


 心配になってきて訊ねると、彼はクスッと笑みこぼした。


「いいえ。あの夜のようなことは、もう二度といたしません。お約束いたします。……ただ、本音を申し上げますと……今すぐにでも、あなたに全てを委ねていただきたいとの欲望はございますが」


「すっ、『全てを委ねる』っ!?」



 そ……それってどーゆーことっ?


 も、もしかして……〝そーゆー〟ことっ!?



 心臓がバクバクし始めて、目が回りそうになったけど。

 また急に、私の肩に手を置いて体を離し、


「あくまでも私の〝欲望〟です。どうか、そのようなお顔をなさらないでください。ご心配なさらずとも、武術大会で優勝し、国王陛下のお許しをいただけるまでは、姫様の純血を奪うような行為は一切いたしません。ですが……口付けと抱擁をさせていただく権利くらいは、時折お与えいただけますね……?」


 答えを請うように顔を傾け、彼は熱っぽい目で覗き込んだ。

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