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信頼するということ

 昨夜私が襲われたのは、たぶん、深夜に近い時刻。

 感覚的には、夜中の二時か三時辺りだったんじゃないかと思う。


 だからって、今日もそれくらいの時刻に襲ってくるとは限らないし。

 襲ってくること自体、あるかどうかもわからないんだけど。


 それでもイサークと雪緋さんは、夜中の見張りを徹底させようと決めたらしい。


 まずはゆうげの後、雪緋さん一人が私の護衛を務めて。

 ゆうげ後から夜中のちょっと前くらいまで、イサークには眠っていてもらう。

 そして夜中近くになったら、起きてきたイサークと雪緋さんとで、朝方まで見張り続ける……ってことにしたんだそうだ。


 だから私と雪緋さんは、イサークが屏風の向こうで眠っている間、とりとめのない話をしながら時間を潰していて。

 いつの間にか話すことに夢中になっていた私達は、イサークが起きてきたことにも気付かず、キャッキャと笑い合っていたんだけど。


「おい」


 いきなり背後から声を掛けられ、驚いた私は『ふぁっ?』と奇妙な声を上げてしまった。


 慌てて振り向くと、イサークが頭をガシガシかきながら立っていて。

 何か言いたげな様子で、私達をじぃっと見下ろしている。


「あ。起きたんだ?――ごめんね気付かなくて。雪緋さんから、いろいろな話聞いて盛り上がってたから。イサークの気配なんて、これっぽっちも感じ取れなかったよ」


(……気付いてもらえなかったから、すねてるのかな?)


 そう思って、とっさに謝ってはみたものの。

 どうやらそういうことではなかったらしく、


「あーあーそーだな! やたら盛り上がってたよなぁ、あんたら!? お陰でこっちはちーっとも眠れなかったぜコンチクショウ!」


 彼は瞬時に目を吊り上げ、夜が更けてきているのにも構わず、思いっ切り声を張り上げた。

 私は焦って周囲を見回し、


「ちょ――っ!……もうっ、イサークってばっ。夜中って言ってもいい時刻なんだから、あんまり大きな声出さないでよっ」


 声を落としながら注意すると、彼はムッとしたように口を結んで腰を下ろした。

 だけど、さすがにマズかったと反省したのか。


「悪かったな、でけー声でっ。……けど、あんたらの話し声が耳についちまって、ろくに眠れなかったっつーのは事実なんだから、しょーがねーだろっ。あんたらもちっとは反省しろよなっ」


 今度は、ヒソヒソ声と言ってもいいくらいのボリュームで不満を漏らす。

 私と雪緋さんは『う……っ』と詰まってしまい、お互いに顔を見合わせた後、


「……ごめんなさい」

「申し訳ございませんでした……」


 それぞれが同時に頭を下げた。


 素直に謝られるとは、思っていなかったのかもしれない。

 イサークは『うぇっ?』と声を上げ、後方に手を置いて、体を少しのけぞらせた。


「べっ、べつに、頭下げなきゃなんねーほどのもんでもねーだろっ。……こっちも大声出しちまったし、よ……」


 バツが悪そうに横を向き、彼も反省の姿勢を示す。

 そこで私と雪緋さんは、もう一度顔を見合わせ、笑いながらうなずいた。




「そー言や姫さん、そろそろ眠んなくていーのか?」


 三人で話をしている最中、イサークが思い出したように訊ねてきた。

 私は目をパチクリさせ、


「え?……う~ん……。そりゃあ、眠った方がいいんだろーけど……。二人が近くで寝ずの番してくれてるってゆーのに、一人だけグーグー眠っちゃうワケにも行かないじゃない? できる限り、私も起きてようかなーって思って」


 そう言って腕を組み、うんうんとうなずいてみせる。

 イサークはジト目で私を見返し、ハァ~と大きなため息をついた。


「……ったく。まーたワケのわかんねーことを……。あのなぁ、姫さん。よーく聞けよ? あんたを危険から守り抜くのが、俺ら護衛の役割っつーもんなんだよ。それをいちいちありがたく思って、あんたまでこっちに付き合う必要なんざねーんだ。あんたは大国の姫らしく後ろでドッシリ構えて、大人しく護られてりゃいーんだよ。誰も文句なんざ言わねーから。……なっ? 安心して護られてろって」


「はい、私もイサークさんのおっしゃるとおりだと思います。……恐れながら申し上げますと、リナリア姫様はお優しすぎるのです。従者である私共の心にまで、寄り添おうとなさっておいでだなどと、その御心はとても尊くていらっしゃるのですが……。もしや、私共が護衛では心許ないとお感じになられているのではと……ふと、寂しさにとらわれてしまうこともあるのです」


「ええっ?……そ、そんな! 私、護衛がイサークと雪緋さんだけじゃ心許ないなんて、考えたこともないよ? いつもすっごく頼りにしてるよっ?」


 それだけは誤解されたくなくて、思わず声を張ってしまう。

 雪緋さんも慌てたように、


「は、はいっ。私も、決してリナリア姫様の御心を疑っているわけではないのですがっ。ないのですが、あのぅ……。そのぅ……」


 言いながら、声はどんどん小さくなって行く。



 ……そっか。

 私が眠らないでいると、彼らのことを頼りにしてない……って風に思われちゃうのか。


 もちろん、そんなつもりなんてこれっぽっちもなかったけど……。

 信頼を態度で示さなきゃいけないことも、時にはあるんだよね……きっと。



「……うん、わかった。私、二人のこと信頼してるから……ここは任せて、眠らせてもらっちゃうね?」


 ニッコリ笑って伝えると。

 二人はそれぞれ『おうっ』『はいっ』と返事して、やはり嬉しそうに笑った。

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