犯人を捕まえるたったひとつの方法
私の話を全て聞き終えると。
カイルは難しい顔で『子供……』とつぶやいたきり、沈黙してしまった。
当然だろう。
犯人が子供で、しかも女の子らしかった――なんて聞かされたら、誰だって困惑する。
彼の反応は想定内で、少しも動揺せずに済んだんだけど。
隣で聞いていた萌黄ちゃんは、どう思ったか。
むしろそちらの方が、私は気になって仕方なかった。
萌黄ちゃんが犯人であるわけがない。
朝会った時の彼女の様子を見て、そう確信したものの……。
彼女の妹の千草ちゃんには、そこまで信じ切れるほどの材料が、まだ揃っていない。
千草ちゃんを信じたいって気持ちは、もちろんある。
でも、聞いた話によると、御所で働いている女児は二人――萌黄ちゃんと千草ちゃんしかいないそうだし。
……とすると、消去法で考えたら、犯人は千草ちゃんってことになってしまうじゃない?
信じたくない。
信じたくなんかないけど。
どうすれば彼女の潔白が証明できるのか、その方法がわからない。
事件は深夜に起こってるんだから、夜間の見張り担当の役人さん以外は、みんな眠っていただろうし。
その時間のアリバイを証明するのは、すごく困難だ。
その上、犯人は瞬間移動の能力者ときてる。
寝床から犯行現場へ、犯行現場から再び寝床へ――という移動なんて、簡単にできたに違いない。
彼女は犯人じゃない、と証明してみせることも。
彼女が犯人だ、と証明してみせることも。
どちらも同じくらい難しく思えるから、ほとほと参ってしまうんだよね。
あ~あ。
私が名探偵だったなら、すぐに犯人は見つけられてたんだろうになぁ。
悔しいけど、そういう才能はこれっぽっちもないから……事件解決の糸口すら見つけられないや。
情けなく思いながら、ふと萌黄ちゃんに目を向けると。
彼女はムッとしたように唇をへの字に結び、両手をキツく握り締めていた。
「萌黄ちゃん? なんだか怒ってるみたいに見えるけど……どーかしたの?」
訊ねたとたん、彼女は私をにらみ付けるように見据えた。
「どーもこーもないです! わたしのいないところで、リナリア姫殿下がそんな恐ろしい目にあわれていたなんて……何もできなかった自分が、恥ずかしくて悔しくてたまらないです! それに……わたしと同じくらいの子供が悪人で、すぐに消えてしまったなんて、とても信じられなくて。その子供って、神通力が使えるんでしょうか?」
「神通力?……ああ、うん……そーかもしれないね。目の前でパッと消えちゃったんだもん。少なくとも、普通の人間じゃないと思うな」
「ですよね!? そんな恐ろしい力を持った人、いったいどこから……。山の下からでしょうか?」
「えっ?……山の下?」
「はい。だって、御所には子供なんて、わたしと千草くらいしかいませんから。だったら、山の下の民が御所に忍び込んだとしか、考えられないじゃないですか!」
……あ。
あぁ……そっか。
瞬間移動ができるなら、御所以外のところから忍び込むことだって可能なんだ。
なーんだ、そっか。
御所以外からの侵入者ってことなら、犯人は千草ちゃんじゃない場合も充分あり得るのか。
……そっかそっか。
あ~~~、よかったぁ~~~。
それなら、千草ちゃんを疑わなくて済むかもしれない!
ホッとすると同時に、そんな簡単な可能性にすら気付けなかった自分が、たまらなく恥ずかしかった。
しかもそのことを、子供である萌黄ちゃんに気付かせてもらったなんて……。
どうやら、私なんかより萌黄ちゃんの方が、よほど名探偵の素質を備えているらしい。
だったらこのまま、『萌黄名探偵! どうか犯人を見つけてください!』ってお願いしたくもなっちゃうけど。
……ダメに決まってるよね。
そんな危険が伴うこと、子供に任せられるはずないもの。
「う~ん……。御所以外から忍び込んだ誰かが犯人なら、捕まえるのは不可能に近いよね。容疑者は、この国にいる十歳くらいの全ての女の子……ってことになっちゃうし。……ああもうっ! どーしたらいーのぉーーーーーっ!?」
事件解決までの道のりは、果てしなく遠いことがわかり、私は頭を抱えてしまった。
これじゃあ、容疑者の特定なんてとうていできやしない。
――とすると、この事件を解決する方法は、たったひとつしかないことになる。
次に襲われた時、その場で犯人を捕らえる。この方法しか……。
「犯人、今夜も私を襲いにくるかな? くるとしたら……捕まえるチャンスはその時しかないよね!」
みんなの顔を順々に見つめながら、返事を待つ。
すると、真っ先に答えてくれたのはイサークで。
「おうっ、任せろ! 俺がぜってー捕まえてやる! 姫さんにゃあ、指一本触れさせやしねーぜ!」
心強い言葉と共に、不敵な笑みを浮かべる。
雪緋さんも大きくうなずいて、
「はい! リナリア姫様を危険な目になど、二度と遭わせはいたしません!」
胸の前に片手を当て、誓いを立てるように宣言した。
二人が護っていてくれるなら、何も心配いらない気がして。
嬉しくてニマニマしてしまっていたら、
「私もお約束いたします! この命を賭して、リナリア姫殿下を必ずやお護りいたしましょう!」
何故かカイルも、やる気満々って感じで加わってきて。
ギョッとする私達に向かい、ひときわ大きな声で断言した。