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〝紫黒帝黒幕説〟浮上?

「リナリア姫殿下! ボーっとしてないで、早くなんとかしてください!」

 

 萌黄ちゃんの訴えにより、私は現実に引き戻された。

 

 

 カイルの発言については、もちろん気になるけど。

 今はこっちの方をなんとかしなくちゃ!

 

 

 私は萌黄ちゃんにうなずいてみせてから、大きく息を吸い込み、思い切り声を張り上げた。


「いー加減にしなさいっ、二人とも!! こんな小さな子の前で言い争うなんて、恥ずかしいと思わないのっ!?」


 カイルもイサークも、私の声にギョッとしたように振り返る。

 私は二人を交互に見やり、わざと深々とため息をついた。


「まったく、イサークったら。私がいない間、床でゴロ寝してたってワケ?……そりゃ、休むなとは言わないけど……隅の方でとか、座りながらとか、もっと目立たない休み方を考えなさいよね。堂々とゴロ寝なんてしてたら、翡翠さんに呆れられても文句言えないわよ?」



 雇用主として、一応、勤務態度が悪く見える人には注意しておかなきゃね。


 ……まあ、個人的な意見としては、私がいない間に何してようと構わないってゆーか。

 やるべき時にちゃんとやってくれさえすれば、ちょっとくらいサボってようが問題ないんだけど。


 でも、カイルみたいに真面目な人からしたら、そういう態度は許せないものなんだろうし……。



 う~ん……。

 カイルと言い先生と言い、イサークと反りが合わない人は結構多いみたいで、困っちゃうのよねぇ。


 ザックスにいた時も、イサークに対する不満やら苦情やらが、他の騎士見習いさん達からたくさん寄せられてたみたいだし。

 そのことでセバスチャン、しょっちゅう頭悩ませてたもんなぁ……。


 私はイサークみたいな人、決して嫌いではないんだけど。

 乱暴な言葉遣いのせいか、誤解されやすい人ではあるのよね。



 イサークを見つめながら、ウンウンとうなずいていると。

 彼はたちまち不機嫌そうに顔をゆがめ、今度は私に怒りの矛先を向けてきた。


「何だよ姫さん、あんたもこいつの味方すんのかよ!? こちとら今のうちにしっかり眠っといて、夜にあっかもしんねーっつー、敵の襲撃に備えよーとしてただけだろーが! それがそんなにいけねーことなのか!? あんたを全力で護ろーとしてた、こっちの方が悪いってのかよ!?」


「って、ちょ――っ! な、何言ってるのよイサークったら!」


 イサークの発言に焦った私は、チラチラとカイルの様子を窺った。



 ――もう! イサークのバカッ!

 昨夜私が何者かに襲われたってことは、カイルには言わないでおこうと思ってたのに!


 今のでバレちゃったかもしれないじゃない!

 ホントにどーしてくれるのよーーーーーっ!?



 どうか聞かれていませんように、サラッと聞き逃してくれてますようにと、祈るような気持ちでいたけれど。

 神に祈りは届かなかったようで、


「お待ちください。今、『敵の襲撃』がどうのと、おっしゃっていませんでしたか?」


 鋭い目つきでイサークを見やり、カイルが声を落として訊ねてきた。



(ああもうっ! やっぱり聞かれちゃってたじゃない! もうもうっ、イサークのバカバカバカッ!!)



 抗議するようににらみ付ける私を見て、ようやく自分の失言に気付いたのか。

 イサークは素早く自分の口を片手で覆い、カイルの視線から逃れるように目をそらした。


 だけど、今さらごまかせるはずもなく――。


「どういうことなのです?……敵の襲撃とは? リナリア姫殿下の御身に、昨夜何事かが起こったとでも?」


 ひとつ訊ねるたびに足を一歩前に出し、カイルは怖い顔つきでイサークに詰め寄る。

 イサークはジリジリと迫ってくるカイルから目をそらし続け、


「あ? て、敵の襲撃ぃ?……って、何言ってんだあんた? 俺ぁ、んなこと言った覚えはねーぜ? 聞き違いじゃねーのかぁ?」


 ……なんて、苦しい言い逃れをしている。


「ごまかそうとしても無駄です。この耳でハッキリと聞きました。――そうですよね、雪緋? あなたも聞いていたでしょう?」


「えっ?……あ、ええと……そのぉ~……」


 正直に答えていいものかどうか、迷っている様子で。

 雪緋さんは、私とイサークの間で視線をウロウロさせている。


 彼まで困らせては可哀想だと、私は観念してカイルに声を掛けた。


「あ……あのね、翡翠さん。実は、昨夜のことなんだけど……私、えーっと……誰かはわからなかったんだけど、部屋に侵入してきた人に、首を絞められちゃって……ね?」


「何ですって!? 首を――!?」


 サッと顔色を変え、カイルは私を振り返り。

 こちらまで近付いて両手で肩をつかみ、真正面から私を見据えた。


「首を絞められたとは、どういうことなのです!? 襲ってきたのは男ですか、女ですか!? 昨夜ということですと、リナリア姫殿下は帝に囚われておいでだったはず。まさかとは思いますが、帝が刺客に命を出されたという可能性は――!?」


 怖いくらい真剣な顔で訊ねられ、私は慌てて首を横に振った。


「まっ、まさか! 帝が私を襲わせるなんてあり得ないよ!……私が誰かに襲われたって話は、帝にはお伝えしなかったけど……。でもっ! 今朝だって、監禁したことについては『朕がどうかしていた』『申し訳なかった』って謝ってくださったし! 帝のご様子からして、演技だったとはとうてい思えないし! だから絶対、昨夜の件に帝は関係してないよ!」



 カイルに訊かれるまで、〝帝黒幕説〟なんて考えてもいなかったけど。

 そういう見方もできなくはないんだと、今さらながら気付かされた。


 だけど、帝は私を殺そうとなんてしない!

 それだけは信じられる!


 どうしてかって訊かれたら、うまく説明できないけど……。


 でもでもっ、私の勘は結構当たるし!

 まず間違いないって言っちゃっても、問題ないと思う!



 根拠のない自信に満ち溢れ、まっすぐ見つめ返す私に、カイルは一瞬眉をひそめたけど。

 すぐにフッと微笑んで、力強くうなずいてくれた。

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