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巫女姫は名探偵?

 藤華さんがカイルの記憶喪失を疑い始めたのは、私がこの国に到着する少し前。

 私の護衛をするようにと、彼に告げた時だったらしい。

 いつもだったら、命じられたことは二つ返事で受け入れる彼が、珍しく頑なに拒んだんだそうだ。


 そのことを知り、ちょっと……ううん、だいぶショックだったけど。

 話の腰を折りたくなかったから、私は必死に平静を装いながら聞いていた。


 とにかく、私の護衛をしたがらないことを不審に思った藤華さんは、彼に理由を訊ねた。

 彼はスッと目をそらし、『特に理由はございません』と答えたという。


「翡翠がそのような態度をとるのは初めてでしたから、わたくしも戸惑いましたけれど。無理に押し付けるわけにも参りませんので、リナリア姫殿下の護衛の者は、雪緋がいない間わたくしの護衛を務めていてくれた、帝の従者に決まりました。けれど……」


 そこで思わせぶりに私を一瞥いちべつした後、藤華さんは続きを語り始めた。


「リナリア姫殿下がご到着したと、御所に連絡が入った折でしたでしょうか。翡翠が海の方角へ目をやりまして、落ち着きのない様子を見せ始めましたの。わたくし、やはり何かあるのだろうと思いまして。翡翠に一日(いとま)を与えたのです」


「え?……いとま?」


「ええ。これからリナリア姫殿下がご来訪あそばすというのに、そのように心乱れた様子では困ると伝えましたわ。本日は暇を与えるので、好きなように過ごして心のゆとりを取り戻しなさいと。翡翠は『承知しました』と申しまして、しばらく姿を見せませんでした。わたくし、きっとリナリア姫殿下をお迎えに上がったのだろうと思いましたわ。どのような理由でかはわかりかねますが、翡翠はリナリア姫殿下を強く意識していると、わたくしには感じられましたので。……ですが、リナリア姫殿下ご到着の折、翡翠の姿はどこにも見当たりませんでした。てっきり、お迎えに上がったのだと考えておりましたのに……」


 ハァ。――と控えめなため息をつき、藤華さんは憂い顔で斜め下に視線を流した。

 だけど、すぐに顔を上げ、私を真正面から見据えると。


「ですのに、騒ぎを聞きつけて帝の元へと参りましたら、翡翠がいるではございませんか! その上、リナリア姫殿下と萌黄までも。……お話を聞いてみますと、リナリア姫殿下とお会いになられたのは偶然だったようですけれど、後に萌黄から、リナリア姫殿下と翡翠が、お国の言葉でやり取りをしていたようだとの報告を受け、やはりと思いましたの。翡翠はリナリア姫殿下のお国の者――ザックス王国の民に違いないと。リナリア姫殿下とどのような繋がりがございますのかどうか、さすがにそこまではわかりませんでしたけれど……」



 藤華さんの話を聞き、私はしみじみと感心してしまった。

 そんなに早い段階で、私とカイルに、何かしらの繋がりがあることを見抜いてしまっていたなんて。


 たおやかな笑顔の裏で、いろいろなことを考えていたんだなぁ……と思ったら、ひたすら感動&尊敬しかなかった。

 これはもう、〝名探偵藤華〟と称してもいいんじゃないだろうか?


 ――なんて、私が一人で盛り上がっていたら。


「ああ、そうですわ。それからの翡翠の言動にも驚かされましたのよ? あれほど拒んでおりましたリナリア姫殿下の護衛役でしたのに、また急に、『やはり私にお任せいただけないでしょうか』と申し出て参りましたの。しかも、ゆうげの後から翌日の昼までを担当したいと申しまして……。わたくしも雪緋も、これには反対いたしましたわ。リナリア姫殿下でございましたら、わたくし共が反対した理由をおわかりいただけますでしょう?」


 いきなり話を振られ、私は『えっ?』と声を上げてしまった。


 藤華さんと雪緋さんが、ゆうげから翌日の昼までの護衛を反対した、理由?

 そんなこと急に訊かれても……。


 返事に困っていると、藤華さんは私の顔をじっと見つめ、


「リナリア姫殿下は、雪緋の事情を、全てご存知でいらっしゃるのでしょう?」


 少しだけ声を落として訊ねる。


「事情……?」


 一瞬、何のことだかわからなかったけど。

 雪緋さんが〝禁忌の子〟だってことを、知っているかどうかを訊ねられたのだと気付き、慌てて『はい!』と返した。


「なのでしたら、おわかりいただけると思いますわ。雪緋には特別な力がございまして、そのうちのひとつが、〝数日眠らずとも平常でいられる〟というものですの。ゆうげの後から翌日の昼までですと、半日以上眠らずにいなくてはなりません。雪緋以外の者にはとても務まらないということが、おわかりいただけますでしょうか?」


「ゆうげの後から、翌日の……?」


 改めて考えてみて、私は『あっ!』と声を上げた。



 ……恥ずかしい。

 そんな簡単なことにも、今まで気付かなかったなんて。


 護衛なんだから、夜に眠っちゃったら務めを果たしたことにはならないんだ。

 イサークとも、そのことが理由で船上で揉めたのに……。


 カイルが夜中ずっと側に……? なんて、余計なことで頭がいっぱいになっちゃってたから……。


 ああっ、もう!

 私のバカバカッ!!



 今さらながら、カイルが無茶しそうになっていたことに気付かされ。

 私の顔は青くなるやら赤くなるやらで、しばらくの間忙しかった。


 そんな私を見つめ、


「そのようなわけでしたので、リナリア姫殿下が翡翠と雪緋の護衛時間を逆にしてほしいとお申し出くださって、とても助かりましたのよ? リナリア姫殿下よりのお言葉でなかったら、翡翠も聞き入れてはくれなかったと思いますもの」


 ふわりと優雅に微笑んで、藤華さんは満足げにうなずいた。

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