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巫女姫による謎追求

 ちょっと時間は掛かってしまったけど。

 私はようやく涙を引っ込め、藤華さんに心配させてしまったことを謝罪した。


 彼女は『お気になさらないで』と笑って言ってくれたものの、すぐにまた表情を曇らせ、


「けれど……まことにいかがなさいましたの? お泣きあそばすほどですもの。よほどのことがおありになったのではございませんか? わたくしのせいではないとおっしゃいますなら、他にどのような理由が……?」


 私の顔をじぃっと見つめて訊ねる。


「あ、いえっ。ホントに大したことじゃないんです。ただ、あの……え、と……翡翠さんがこの国に着いた頃、そんな大変な目に遭ってたなんて全然知らなかったので、ちょっと驚いてしまって」


 ヘタなごまかし方をしたら、かえって怪しまれてしまうかも……。

 そう思って正直に答えると、藤華さんはフッと表情を和らげた。


「さようでございましたの。翡翠のことを思い遣ってくださっていたのですね」


 しみじみした口調で告げ、納得したようにうなずく。

 それから少しうつむいて、何やら考え込んでいたんだけど、ふいに顔を上げ、


「あの……。ひとつだけ、お伺いしてもよろしいでしょうか?」


 何かを決意したかのように、藤華さんは私の目をまっすぐ見つめた。


「え?……あ、はい。構いませんけど……」


「それでは、お伺いさせていただきますわ。リナリア姫殿下は翡翠のことを――全てご存知なのではございませんか?」


「……えっ!?」


 一拍置いた後、私の心臓はドックンと跳ね上がった。

 まさか、藤華さんからそんなことを訊かれるなんて、思ってもいなかったから……。


「翡翠は取り調べを受けた折、『乗っていた船が転覆し、この国に流れ着いた。それ以前の記憶は全くない。名も生まれた国すらも覚えていない』と答えたそうです。わたくし達もそれを信じ、とりあえずの名はわたくしが与えました。……翡翠はよく働いてくれておりますわ。この国の言葉も信じられないほどの早さで覚えてしまいましたし、今では、まるで初めからこの国の者であったかのように過ごしております。その上、日々の鍛錬も欠かさぬまめさがございますし、人柄も穏やかで……用心深いところのある萌黄ですら、すぐに懐いてしまったほどです。けれど――……」


 そこで言葉を切ると、藤華さんは再び私をじっと見つめた。

 どうしたんだろうとドキドキしたけど、私は黙ったまま、彼女が話し始めるのを待った。


「……リナリア姫殿下が、この国にお出であそばすとわかった頃でしたでしょうか。明らかに翡翠の様子がおかしくなりましたの。お務め中にぼうっとしていたり、些細な失敗を日に幾度も繰り返したり。雪緋との鍛錬中も、急に動きを止めてしまうことがあったとのことですわ。そのせいで、軽い傷を負うことも増えてしまったとか……。そのような失態を繰り返すことは今まで一度もなかったのだと、雪緋も驚いておりました。リナリア姫殿下は、これらの事柄をいかにお考えになられますか?」


「えっ?……あ……えっと……」



 そんな……『いかにお考えに』とかって言われても……。


 カイルは記憶を失ってるんだもの。

 私がこの国へ来訪するってわかってから、明らかにおかしくなった……なんて、ただの偶然じゃないのかな?



「私には、単なる偶然としか……。だってカイ――……翡翠さんは、記憶を失ってるんですよね? だったら、私がこの国に来ることがわかったからと言って、彼には何の影響もないはずですし……」


 答えに困り、私は正直に思ったことを口にした。

 すると、


「そこなのですわ!」


 急に藤華さんが大声を上げ、私はギョッとして固まった。

 彼女は私を真剣な顔で見つめ、


「翡翠の『記憶を失っている』との訴えですが。わたくし、偽りではないかと疑っておりますの。……いいえ。今となっては、偽りであることはまず間違いないと思いますわ」


 何故かキッパリと言い切って、自信に満ちた表情でうなずく。

 私は驚いて目を見開き、しばらくは何も言えず、ただただ彼女を見つめ返すばかりだった。


 だけど、私がそうしている間にも、


「何ゆえに、わたくしがそのようなことを申し上げるのか、不思議に思っていらっしゃるようですわね。――よろしいでしょう。わたくしが、何ゆえに『記憶を失った』との翡翠の訴えを偽りだと思うに至ったのか。つまびらかにして差し上げますわ」


 藤華さんは、事件の全容を語る探偵よろしく言い放った。

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