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いつしか話は脇道に

「えっ!? 帝が藤華さんの命を救ったって……。どっ、どーゆーことですかッ!?」


 藤華さんの『帝は命の恩人』宣言(?)にギョッとし、慌てて訊ねると。

 彼女は私の目をまっすぐ見つめてから、ふわりと微笑んだ。


「紅華様がザックス王国にお渡りになられましてから、しばらく経った頃でしたけれど。わたくし、巫女姫としての責任や周りの人々からの期待などで、押し潰されそうになっておりましたの。その上この見た目ですでしょう? 風当たりも強うございまして……。今でこそ、冷たくされることはなくなって参りましたけれど、陰でいろいろささやかれることは、その頃は多うございましたわ」


「え? 見た目って……もしかして、藤華さんの髪色や瞳の色のこと……ですか?」


「はい。おっしゃるとおりですわ。この国の人々は墨色ですものね。わたくしのような髪色の者は、とても珍しいのです。珍しいからこそ、異様に思われてしまうこともございまして……」


「そ……そう、なんですか……」



 雪緋さんの場合とは違って、藤華さんはこの国の巫女姫という重要なお立場だから。

 髪色や瞳の色が珍しいからって、差別とか、冷遇されたりするようなことはないんだろうなって思ってたんだけど。


 ……そっか。

 そういうものでもないんだな。

 身分が高かろうが低かろうが、差別や偏見からは逃れられないのか……。



 なんだか、ズズンと気持ちが沈んでしまった。

 髪や目の色が違うってだけで、どうしてそこまで差別されなきゃいけないんだろう?


 外見がちょっとくらい違ったって。

 接してみれば――ほんの少し話してみるだけでも、藤華さんも雪緋さんも、すぐに良い人だってわかるのに。



 やりきれない思いでうつむいてしまっていると。

 藤華さんはふと遠くを見やり、寂しげな笑みを浮かべて。


「そのようなことがあるから……なのでしょうね。雪緋や翡翠に向けられる周囲の人々の冷たい言葉や態度も、我が身に向けられたもののように思えてしまって。二人には、特別な親しみを感じてしまうのですわ」


「えっ? 雪緋さんだけじゃなく、翡翠さんも冷たい目で見られてたりするんですかっ?」


「ええ……。雪緋も翡翠も、とても美しい髪と瞳の色だと思うのですけれど。〝少しでも他の者と違うところがある〟ということは、それだけで恐ろしく映ってしまうのでしょうね……。それでも雪緋などは、わたくしよりも早く紅華様に見つけていただき、従者としてお側で仕えさせていただくことで、周囲の冷たい仕打ちから逃れられたそうですわ。けれど翡翠は……乗っていた船が転覆してこの国に流れ着いた折には、髪の色も瞳の色も国の者とは違うということで、伺見(うかみ)なのではないかと疑われてしまったのです」


「え……? 他国の、うかみ?」


 初めて聞く言葉に、思わずキョトンとしてしまった。

 真剣な顔つきの藤華さんは、コクリとうなずく。


「伺見とは……そうですわね、どのように説明申し上げたらよろしいのか……。他国の様々なことを探り、母国に持ち帰る者……と申しましたら、おわかりいただけますでしょうか?」


「……他国の様々なこと……を、母国に持ち……って、ええッ!? 要するにスパイってこと!?」


 驚きのあまり大声を上げてしまい、私はとっさに両手で口元を押さえた。

 私の声に目を丸くしていた藤華さんは、


「すぱい?……ザックス王国では、伺見のことを〝すぱい〟と呼んでいらっしゃるのですか」


 感心したように、小さく何度もうなずいている。

 私は『ええ、まあ』と薄ら笑いを浮かべてごまかし、話の続きを促した。


「翡翠は捕らえられ、帝のご沙汰をお伺いするため、役人によって御所まで連れられて参りましたの。わたくしは、その者が伺見かどうか、怪しいところはないかどうかを判断するため、呼ばれておりましたのですが……。ひと目でわかりましたわ。怪しい者――伺見などではないと。ただ、様子がおかしいところはございましたし、体も心も深く傷付いているように思えましたので、この者のことはわたくしにお任せいただけないでしょうかと、帝にお願いいたしましたの」


「……そう……ですか……。体も心も、傷付いて……」



 ……知らなかった。

 カイルが、始めはスパイじゃないかって疑われていたなんて。


 じゃあ、もし……。

 もしも藤華さんが、カイルのことは『任せて』なんて、帝に頼んでくれてなかったら。

 ……今頃カイルは、どうなってたかわからなかったんだ……。



「リナリア姫殿下?……い、いかがなさいました? 何ゆえ涙など……。わたくし、何か……お気に触るようなことを申し上げましたでしょうか?」


 気が付いたら、涙が頬を伝っていて。

 ハッとした私は、心配そうに見つめる藤華さんに、思い切り首を振ってみせた。


「いいえ、違うんです! 藤華さんは何も! 気に障るようなことなんて、何もおっしゃってません!……私は……。この涙は、傷付いたからとかじゃ、なくて……。ただ、ホッとして……」


「ほっと?」


 不思議そうに首を傾げる藤華さんを前にして。

 私はどうにかして泣き止もうと、何度も何度も両手で涙をぬぐった。


 だけど、思うように涙は止まってくれず。

 しばらくの間、藤華さんをお待たせしなければならない羽目に陥った。

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