表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/251

月花殿の巫女姫

 拝謁を済ませた後。

 私は藤華さんと二人きりで話をさせてもらうため、月花殿を目指して歩いていた。


 当然、案内してくれる人も一緒。(でなきゃ絶対迷子になるし)

 紫黒帝にお願いし、藤華さんに使いの人を送ってもらって、すでに彼女からの了承も得ている。



 紫黒帝には、『藤華さんから本心を聞き出すため、二人きりで話をさせてください』と切り出した時、すごく心配そうな顔をされてしまったけど。

 とにかく『私に任せてください』と言い張って、二人で話す機会を作ってもらったんだ。



 案内役の人の後について行きながら、私は緊張を静めるため、両手をギュッと握り締めた。

 勢いで『任せてください』なんて言ってしまったけど。

 ホントは、本心を聞き出せる自信なんてこれっぽっちもなかったから……。


 でも。

 それでもどうしても、会わなきゃいけない。

 会って、まずはいろいろ話してみて、彼女の心を探らなきゃ。


 紫黒帝のためにも、私のためにも。

 話を前に進めるには、藤華さんの気持ちを知ることが、何よりも重要なことなんだから。



 ……うん。

 ためらってなんかいられない。

 頑張って、彼女の気持ちを聞き出さなきゃ!




「藤華様。帝の命により、リナリア姫殿下をご案内申し上げました」


 月花殿に着いたらしい。

 案内役の人が膝を付き、御簾の向こう側に声を掛けた。


「ご苦労でした。では、皆下がりなさい。リナリア姫殿下と二人きりでお話を――とのお約束です」


 中から藤華さんの声がして、お付きの人達が隣の部屋へと移動して行くのがうっすらと見えた。

 私をここまで案内してくれた人も、私に一礼してから廊下の隅に歩いて行き、待機の姿勢を示す。


「リナリア姫殿下、どうぞ中へ。次のお務めまでとの条件付きになってしまい、申し訳ございませんが……。それまでごゆるりとお話いたしましょう」


 藤華さんの声に導かれ。

 私は両手で御簾を上げ、部屋の中へと進んだ。



 私が泊まらせてもらっている風鳥殿と同じく、中には一畳ほどの畳が敷かれていた。

 当然、そこには藤華さんが座るんだろうと思っていたんだけど。

 私が座るよう勧められ、思いっ切り首を横に振った。


「いえっ、その……どうかご遠慮なくです! 月花殿の主は藤華さんなんですから、藤華さんがお座りくださいっ」


 辞退する私に、


「いいえ。帝であらせられるならば別でございますが、わたくしがリナリア姫殿下より上座に座らせていただくなど、あり得ないことですわ。リナリア姫殿下はザックス王国の第一王女。わたくしなどよりも、ずっとずっと尊いお方ですもの。ですので、どうかご遠慮なさらず、そちらにお座りくださいませ」


 藤華さんはそう主張し、さらに強く勧められてしまった。



 えええ~?


 ……そーなの?

 私って、藤華さんより上の身分……ってことになっちゃうの?


 でも巫女姫って、帝と並び立つくらいの人って言うか、この国にとって重要な人だと思ってたんだけど……違うのかな?



「先ほどから、戸惑っていらっしゃるようにお見受けいたしますが……。もしかして、紅華様とわたくしを、同じ身分だとお考えになっていらっしゃるのですか? もしもそうなのでしたら、思い違いをしていらっしゃいますわ。わたくしは巫女姫というお務めを与えられてはおりますが、出自は平民でございますの。それに比べて紅華様は、先の帝の第一皇女であらせられます。わたくしとは、身分が全く違うのです」


「え……。そ、そーなんですか?」



 一応、彼女の出自が平民と聞いてはいたけど。

 巫女姫に選ばれた瞬間から、貴族って身分になるのかと思ってた。


 そっか。そういうことじゃないのか……。



「ええ。ですからどうか、わたくしのことはお気になさらないでください」


 藤華さんはそう言って、ニコリと微笑んだ。



 う~ん……。

 でも、前にちょこっとお話した時は、私と同じ畳に座ってくれたよね?

 どーしてここでは、こんなに頑なに、私だけ畳に座れなんて……?



 疑問に思って訊ねると、藤華さんは以下のように説明してくれた。


「風鳥殿では、リナリア姫殿下がそのようにお示しくださいましたので、従ったまででございますわ。わたくしから同じところに座するようお願いするなど……まことに恐れ多いことでございますもの」



 な……なるほど。

 そーゆーことだったのね。


 だったら話は簡単!



「それじゃあ、もう一度こちらからお願いします。藤華さんも、私と同じところに座ってくれませんか?」


 私の言葉に、藤華さんは驚いたように目を見張った後。

 優しくふわりと微笑んで、


「それがリナリア姫殿下のお望みなのでしたら……」


 と言って立ち上がり、畳の方に座ってくれた。

 それで私もホッとして、同じ畳の片側に腰を下ろした。


「リナリア姫殿下は……やはり、紅華様によく似ていらっしゃいますわね」


 座ったとたん、藤華さんにしみじみと言われてしまい、私はキョトンとして首を傾げた。


「そー……なんです、か? 自分では、よくわかりませんけど……」


「似ていらっしゃいますわ。どのような身分の者に対しても、どのような境遇の者に対しても、分け隔てなくお優しいところも――」


「はあ……。でも、えーっと……それは……」



 身分とかって、あんまり意識しないで済む世界で、十年ほど過ごしてたから……。

 たぶん、そのせいじゃないかな?



 ――なんてことを思いながらも、口に出せるワケもなく。

 私は照れくささをごまかすため、片手をこめかみ辺りに当ててエヘヘと笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ