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紫黒帝の内緒話

 紫黒帝に手招きされ、手を伸ばせば触れられそうな距離までにじり寄ると。

 彼は真っ赤な顔のまま、右に左にとせわしなく視線を移し、


「よいか、リナリア? これから朕がする話は、他の誰にも言うてはならぬぞ? 朕とそちだけの秘め事であると心得よ。よいな?」


 声を落として、やたら周囲を気にしながら命じた。


 この国の一番偉い人から『秘め事』なんて言われてしまうと、なんだかドキドキしてしまうけど。

 これから紫黒帝が話すであろう内容は、だいたい予想できているし。

 最初から誰にも話す気だってなかったから、私は大きくうなずいた。


 紫黒帝は小さくうなずき返した後、心を静めるためか、目をつむって何度か深呼吸を繰り返し……。

 覚悟を決めたかのように、カッと両目を見開いた。




 結果から先に言ってしまうと。

 紫黒帝が私に打ち明けてくれたことは、ほぼ私の想像どおりだった。


 紫黒帝は六つくらいの時、お母様によって次期巫女姫――藤華さんと引き合わされたわけだけど。

 ひと目見た瞬間から、彼女に強く惹き付けられてしまったんだって。


 もちろん、二人はまだ幼かったから。

 恋だの愛だのという感情を、理解できていたわけではなくて。

 ただただ藤華さんの可愛らしさに、ポーっとなっちゃってただけみたいだけど。


 とにかく、恋だと意識した頃には、彼女が巫女姫であることの重要さも、よく理解していた紫黒帝は。

 国にとって大切な存在である彼女に、想いを伝えることだけは、どうしてもできなかったんだそうだ。


 でも、頭で理解はしていても、心は納得できていなかったから。

 神結儀が執り行われそうになるたびに、仮病やら悪天候やらで儀式を中止させたり。

 執り行うために必要な道具をこっそり隠したりして、周囲にバレない程度に、神結儀の妨害をしてきたんだそうで……。



「……って、ええっ!? 神結儀って、そんなに何回もやってた――ってゆーか、中止になってたんですか!?」


 さすがにこの告白には驚いて、私は大声を上げた。

 紫黒帝はバツが悪そうに視線をそらし、


「む……。まあ、そうだ。初めの神結儀は、藤華が十五の時であったからな。その後も、その……一年ごとに、執り行われる予定では……あったのだ、が……」


 だんだん語尾を小さくして行く様子は、叱られた後にゴニョゴニョと言い訳してくる子供のようで。

 失礼とは思いつつも、私はポッカーンと口を開け、まじまじと彼の顔を見つめてしまった。



 ……だって。

 藤華さんが十五の時から、一年ごとに神結儀が執り行われる予定だったってことは――……。


 彼女の今の年齢は、二十三くらいなんだから……今年も入れたら、九回?

 もう九回も、神結儀をぶっ潰してきてるってことじゃない!



「えっ? じゃあ、もしかして……今回『私を巫女姫に』とかって騒ぎ出したのも……神結儀を中止させるため、だったんですか……?」


 まさかとは思ったけど、一応、確認のために訊ねてみる。

 すると、彼は再び顔を赤くして、


「う、む……。まあ、そうとも言える……か」


 とかモニョモニョ言って、片手で口元を押さえながらうつむいた。



 え……。


 え、えぇえーーーーーッ!?

 私、神結儀をぶっ潰すために利用されただけだったのぉおおーーーッ!?



 ……まあ、密かに想い続けた相手を、いるかいないかわからないような存在(ごめん、白藤)になんて渡したくない……って気持ちは、わからなくもない……けど……。



 でもっ!

 思いっ切りこじらせた初恋を守るためか何だか知らないけど、関係ない人間を巻き込むのやめてもらえませんッ!?



 心で全力で訴えつつも、そのままを口に出せるワケもなく。

 私は大きなため息をついた後、ダランと体を脱力させた。


「す……すまぬ、リナリア。そちには多大な迷惑を掛けてしまった。その……朕のこと、さぞや呆れておるだろうな……?」


 チラチラとこちらを窺い、心許なげに訊ねてくる紫黒帝は、大人の男性にしてはとても可愛らしく見えて。

 実際、呆れ果ててはいたものの、思わずプッと吹き出してしまった。


「い……いえ。呆れてはいません……けど。ただ、その……っふ。フフっ。か、可愛らしいな……って」


 必死に笑いを堪えても、どうしても抑え切れなくて。

 私がクスクス笑い続けていると。


「な――っ!……か、可愛らしい……!?」


 紫黒帝は〝ガーン!〟と背景に効果文字でも入れたくなるような顔で、しばらく絶句した後。

 子供のようにぷうっと頬を膨らませ、私を軽くにらみ付けた。


「ぶ、無礼であるぞ! 朕を誰と心得る!? 朕に対し、そのようなふざけた態度を取る者など、そちの他にはおらぬわ!」


「……フ、フフ……。も、申し訳……ありま、せん。これでも……こ、堪えてるんですっ……けど」


 そうやって、ひとしきり笑ってから。

 私は何度かわざとらしく咳払いし、居住まいを正した。

 ピンと背筋を伸ばし、真剣な顔で紫黒帝を改めて見据えると、


「とにかく、帝がずっと藤華さんを慕っていらっしゃったことはわかりました。ご側室をお望みになられなかった訳も、それで納得できましたし。でも、そうすると……ご正室をお迎えになられたのは、どうしてだったんですか? しかもその条件が、〝病弱な娘であること〟だったっていうのは、本当なんでしょうか? 本当だとしたら……理由を教えていただけませんか?」


 ものすごく不躾かもしれないけど、どストレートな質問をぶつけた。

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