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紫黒帝動揺す

 紫黒帝の話を聞いて、またひとつお母様情報が増えた。

 どうやらお母様は、本気で怒らせたら結構やっかいな人だったらしい……ってことが。


 腹を立てること自体は、ちょこちょこあったらしいんだけど。

 本気じゃない時の怒り方は、どれも可愛らしいもので。

 幼かった紫黒帝も、怖いと思ったことは一度もなかったんだそうだ。


 ただ、たった一度だけ、ものすごーーーく本気で怒っちゃったことがあって。

 いつも優しいお母様なのに、その時ばかりは、周囲の者も止めに入れないほどの凄まじさで、幼い紫黒帝を大声で叱り飛ばしたらしい。


 そしてその後三日ほど、口を利いてくれなかったんだって。


 まだ幼かったことと、お母様を怒らせてしまったショックがあまりにも大き過ぎたせいで、怒りの発端が何だったかは忘れちゃったそうなんだけど……。


 とにかく、そのたった一度の恐怖体験が、紫黒帝の記憶に深く刻まれてしまい……。

 お母様の娘である私も、きっと〝怒らせたら怖いタイプ〟に違いないと思い込んで、どうしたら許してもらえるかと、ずっと考えていたということだった。



 ……そっか。

 お母様って、怒らせると怖い人だったんだ?


 ちょっと意外だったけど、普段はすごく優しくて、激しく怒ったのはその一回だけ――ってことだそうだから。

 たぶん、幼い紫黒帝は、そーとードギツいことをしちゃったんじゃないかな?



 う~ん……。

 お母様が怒った理由か……すっごく気になるなぁ。


 でも、当の本人が忘れちゃってるんだもん。

 諦めるしかないよね……。



 ――ということで、別の話を振ろう。


「えっと。お母様がザックスに嫁いだのは、十五歳の頃だったそうですけど……その時、帝はお幾つだったんですか?」


「――ん? 朕か? 朕はその頃、七つであったな」


「七つ……ってことは、七歳。小学校一年生くらいか……」


「うん?……しょうがっこう?」


 紫黒帝の声で、心でつぶやいたつもりのことが、口に出てしまっていたことに気付く。

 私は慌てて首を振り、


「い、いいえっ。なんでもありません! ちょっと口がすべ――っ、いえ、えーっと……。わ、私の国の言葉がポロッと漏れちゃっただけのことですから! ど、どーかお気になさらないでくださいっ」


 苦しまぎれの嘘(と言っても、完全に嘘ってワケじゃないけど。以前いた世界での母国語ってこと)をつき、アハハと笑ってみせた。


 紫黒帝はキョトンとした顔で、私をじーっと見つめていたけど、


「そうか。そちの国の言葉か。それでは、朕にわかるわけがないな」


 納得したように微笑み、それ以上追求してくることはなかった。

 私は胸を撫で下ろし、次の質問に移る。


「お母様が十五の時、帝は七つだったんですね。じゃあ、藤華さんはお幾つだったんですか?」


「と、藤華か? 藤華は朕より一つ下であるから、六つであったろう」


「六つ……。そうなんですか。帝と一つ違い……」



 ――ってとことは、帝は二十四歳くらいで、藤華さんは二十三歳くらい。

 予想からそこまで遠くなかったけど、二人とも、やっぱり見た目若いなぁ。



 感心してうなずきつつ、私は次の質問を投げた。


「藤華さんは、お母様の夢見の力で見出されて、こちらに住まわれることになったんですよね? それは、お幾つの時だったんですか?」


「藤華がこちらに参った時か? それは……姉上がザックスにお渡りになる、少し前のことだったか。……うむ。五つか六つの頃であろうな」


「そうなんですか。すっごくギリギリに、次期巫女姫が見つかったんですね。……でも、そんなにお小さい頃から、お二人は共にお育ちになったんですから……仲はおよろしいんですよね?」


「はっ!?……な、なな――っ、仲であるかっ?」


 急に紫黒帝の声が裏返って、顔が真っ赤に染まった。

 何をそんなに動揺してるんだろうと、思わず目を丸くして固まってしまったけど。



 …………ん?


 ……あれ?


 あれあれあれぇ~~~?



 じっと見つめる間にも、紫黒帝の顔はどんどん赤みを増して行って。

 最終的には耳や首元、服に隠されていない全ての体の部分が、真っ赤っ赤になっていた。



「……帝? お顔やお体のあちらこちらが、赤く染まり切っていらっしゃいますけど……どうかなさったんですか?」


 必死に笑いを堪えながら訊ねると、紫黒帝は片手にしていた横笛を両手でギュッと握り、言い訳するように口を開く。


「ちっ、ちちち違う! これは、その……っ、と、特に意味はない! 意味などないのだッ!!」


「……意味はない、ですかぁ?」


 とうとう堪えられずにニンマリしてしまった口元を隠すように、片手をそっと唇に当てる。

 私の含み笑いの意味に気付いたのか、紫黒帝は私の視線から逃れるようにキツく目をつむり、


「ま、まことであるっ! 朕の顔色に意味などない! 朕は藤華のことなど何とも思っておらぬし、藤華も同様であろう!……で、あるから……その……。みょ、妙な勘ぐりなどするでない! 無礼であるぞっリナリア!」


 大声で言い返してきたものの。

 すぐに我に返った様子で、キョロキョロと辺りを窺った。

 そして誰も入ってこないことを確認すると、紫黒帝は私をそっと手招きし、『近う。近う参れ』と小声で命じた。

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