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自習は何をするべきか

 イサークと雪緋さんに、室内で護衛することをしぶしぶ承知させたまではよかったんだけど。

 次に私達に課せられたのは、〝ゆうげまでの時間をどう過ごすか〟という問題だった。


 雪緋さんに聞いたところによると、今は未の刻(昼過ぎ辺り)らしい。

 ――ということは、ゆうげまで、まだ四時間くらいはあるってことだ。


 ゆうげまでの四時間を、どうやって過ごせばいいのか……。



 う~ん……難問だわ。

 だって、この国の人達にとっての娯楽が何なのかが、よくわからないんだもの。


 ザックスにいた時なら、午前と午後に先生の授業とグレンジャー師匠の剣術の授業があって、合間に昼食とティータイムがあったし。

 授業のない日は、部屋でまったりしたりとか、城の庭園を散歩したりとか、先生に出された宿題をしたりとか、書庫の本を読んだりとか……って、結構やれることはあったけど。


 蘇芳国では先生の授業もないし……って、あッ!


 ……やっば~い、忘れてた。

 そー言えば先生、私が授業ないってことを知って喜んでたら、


「教わらなければ学べないのか、君は? 自ら学ぼうと思えば、学ぶ方法などいくらでもあるだろう。その歳にもなって、自主学習すら出来ないのか?」


 とかって言ってたっけ……。


 あ~っ、マズいヤバい!

 この国に来てから、自主学習っぽいことなんてなんっにもやってない!



「ああ……どーしよー? このままじゃ、帰国する時に先生になんて言われるか……」


 先生がキラーンとメガネを光らせて、


「なに? ひとつも自習をしていないだと?」


 とかなんとか言って、冷たい視線と言葉を浴びせてくる様子が脳内に浮かび、私は一瞬で真っ青になった。


「い、いかがなさいました? お顔の色が優れないようでございますが……」


 瞬時に私の様子に気付き、雪緋さんが心配そうに声を掛けてくる。

 イサークもすぐに反応し、


「あぁん? 顔色が悪いだぁ?……そー言や、そー見えなくもねーな。どーしたんだよ姫さん?」


 まじまじと私を見つめながら、不思議そうに訊ねた。


「あ……うん。ちょっとね。イヤなことを思い出して……」


「イヤなこと?」


 二人同時に訊ねられ、私はコクリとうなずいた。


「この国では、先生いろいろと忙しいから、授業はできないってことだったんだけどね? その代わり、自習しとかなきゃいけないはずだったのに、私ったらすっかり忘れてて……。どーしよう? 何の勉強すればいいかな?……あっ! この国で見聞きしたこと、テキトーにノートにまとめれば……って、ダメか。ノートなんてあるワケないんだった。ザックスで使ってる紙にしたって、かさばるからって持ってこなかったし。あーっ、困った! 自習って!? 自習って何すればいーのぉーーーっ!?」


 両手で頭を抱え、天井に向かってわめき散らす。

 イサークは呆れ顔で、雪緋さんはポカンと私を見つめていた。


 溺れる者は藁をもつかむ。

 ほとんどそんな気持ちで、


「ねえイサーク! 何すればいいと思う!? 先生にお説教されなくて済む自習とか自由研究とか……あっ、工作とかでもいいや! ねえねえっ、思いつくもの何かないっ!?」


 イサークの肩をガシッとつかみ、私は思いっきり泣きついた。

 彼は眉間にシワを寄せ、


「はあっ? 自習だの何だのって、俺にわかるワケねーだろーが。騎士学校ってのでは一応、そーゆー頭使う講義? っつーのもあるけどよ。いつもテキトーに聞いてるか、居眠りしてっかのどっちかだしな」


 なんてことを言ってきて、私を唖然とさせた。


「ちょ……っ、テキトーとか居眠りとかって……。あのねえ! イサークが騎士になりたいってゆーから、お父様に必死にお願いして、例外中の例外で騎士見習いの勉強させてあげられるようになったんじゃない! なのに、何なのよ居眠りって!? 真面目にやる気あるの!?」


「うっせーな、頭使うのは苦手なんだよ! そっちサボってる分、剣術やらの訓練はちゃんとやってるんだから、それでいーだろ!?」


「よくないわよ! 全ッ然よくない! 騎士になるために必要なことだから、普通の勉強――講義だってあるんでしょ? 体鍛えてりゃなれるってゆー簡単なものじゃないから、騎士学校みたいなものがあるの! なのにサボるって……。もうっ! ほんっと信じらんない!」



 ギルに恩を返すために騎士になりたいって、真剣に話してくれたから。

 私だって、その想いに応えたいって……力になりたいって思ったのに。


 勉強キライだから、サボったり居眠りしたりしてるなんて……。

 なんか、すっごくガッカリしちゃった。



 テンションだだ下がりの私を前に、イサークは気まずそうにそっぽを向いている。

 雪緋さんは毎度のごとく、私とイサークの間に挟まれ。

 ただオロオロと、私を見て、イサークを見て、また私を見て、イサークを見て……を繰り返していた。



 完全に場がしらけたところに。

 萌黄ちゃんがバタバタと駆け込んできて、


「たっ、たたた大変ですっ、リナリア姫殿下! 藤華様が帝にハイエツしていらした時に、『リナリアと、ゆうげの前に少し話したい』――とおおせだったそうです! ですからすぐっ、……お、お早くお支度願いますっ!」


 両拳を胸の前でギュッと握り、めいっぱい声を張り上げた。

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