神様が言うことには
御所に戻り、風鳥殿へと移動してから。
私はイサークと雪緋さんに、昨日の晩、何者かに殺されそうになったことを伝えた。
心配させちゃうから、ホントは黙っておきたかったんだけど……。
白藤の言うように、私を殺そうとしてる子(犯人が子供だったとするなら、だけど)の能力は、ものすごく強そうだし。
昨夜は奇跡的に、一人でもどうにかなったってだけで。
これから先も幸運が続くとは思えない。
だから、正直に昨夜のこと話して、犯人を捕まえる、もしくは追い払う協力をしてもらおう!
――なんて思って、真剣にお願いしたのに。
「バッカヤロウ!! そんな危ねー目に遭ってたんなら、なんでもっと早く言わねーんだ!」
……と、イサークには思いっきり怒鳴り付けられ。
「殺されそうになったですって!?……ああ……申し訳ございませんリナリア姫様! 護衛役を申し付かっておきながら……何のお役にも立てなかった私を、どうかお許しくださいませ!」
……とか言って、雪緋さんには泣きながら土下座されてしまった。
心配してくれるだろうとは思ったけど、ここまでのことをされてしまうとは思ってなくて。
悪いと思いながらも、私はちょこっと引いちゃったりしていた。
「むぅぅ~……。だって、しょーがないじゃない。二人に余計な心配掛けたくなかったし……話そうにも、話す機会があんまりなかったってゆーか……」
「何が『余計な心配掛けたくなかった』だ! それこそ余計なお世話ってもんだろーが!……俺らは護衛なんだぞ? 護衛が護衛対象護れなかったら、その方がよっぽどキツイんだよ!」
「ええ! イサークさんのおっしゃるとおりです! 私共にとって何よりも辛いことは、リナリア姫様をお護りできないこと! それが全てなのです! ですからもう二度と、そのようなご遠慮はなさらないでください!」
二人同時にどアップで迫られ、思わず上体を反らしてしまった。
私は『まあまあ、二人とも落ち着いて』なんて言いながらなだめに掛かる。
「とにかくね、そーゆーワケだから。今夜は二人一緒に、外じゃなくて部屋の中で、私の護衛をしててもらいたいの。白藤――じゃない。えっと、神様が言うには、藤華さんも狙われてるっぽいってことだったから、そっちも心配なんだけど……。ま、藤華さんには神様がついててくれるらしいし、カイ――っ、……翡翠さんもいるし、まず問題ないでしょ」
腕を組み、うんうんとうなずいていたら。
雪緋さんが、おずおずといった感じで声を掛けてきた。
「あ……あのぅ……リナリア姫様? 『外じゃなく部屋の中で』護衛を……と、おっしゃっていようですが……。その……『部屋の中で』とは、いったい……?」
「へっ? 部屋の中は部屋の中だよ? ここ、ここ。ここのこと」
そう言って、私は両手で床を指し示す。
雪緋さんは、一瞬ポケ~っとした顔で私を見つめてから、ゆっくりとイサークの方へ顔を向けた。
同じくボケーっとしていたイサークも、雪緋さんの視線に気付いて顔を横に向ける。
視線がぶつかったと感じた瞬間、二人同時に私の方を向き、
「はあああッ!?」
「ふぁええッ!?」
……と、これまた同時に奇声を上げた。
「なっ、ななななっ、な、何言ってんだあんた!? この部屋でごっ、ごご、護衛しろって……っ、まだそんなこと言ってんのか!? 部屋ん中ではムリだって、船ん時も断っただろーが! とっくに諦めたかと思ってたぜ!」
「わ、わわわ私もっ! リナリア姫様と同じ部屋でなどと、そんな恐れ多いこと……! むっ、むむ、無理ですッ!! いかにリナリア姫様のご命令であらせられようとも、それだけは――っ」
イサークは微かに顔を赤らめつつ、雪緋さんはブルブル首を横に振りながら。
私のお願いに、真っ向から拒否の姿勢を示した。
……まあ、彼らの気持ちもわからなくはないんだけど。
白藤にもキツく言われちゃったしなぁ……。
――うん。
非常事態だもんね。
今回だけは、諦めて従ってもらうしかないか。
「えっと。二人の言いたいこともわかるんだけどね? 白藤――……ってゆー神様が、今回だけはどーっしても、部屋の中で護衛してもらわなきゃダメだって。外で護衛してたって意味ないって。犯人は、一瞬で場所を移動したりできるんだから、外で異変に気付いたとしたって間に合わないだろーって」
「ぐ……っ!……そりゃ、まあ……そーだけどよ……」
「確かに……その通りではございます……が……」
イサークは赤い顔のままそっぽを向き、雪緋さんは叱られた大きめの愛され動物みたいに大きな体を丸め、ショボーンとしている。
意外にも照れてるっぽいイサークと、大人の男性なのに妙に可愛らしい雪緋さんを前に、私はクスッと笑みをこぼしてしまった。
そのとたん、イサークがギロリとにらんできて、『てめえ! なに笑ってやがる!?』なんて言ってすごまれた(仮にも一国の姫に対して、『てめえ』とか言っちゃうのもイサークらしい)けど。
照れ顔で怒鳴られたって、ちーっとも怖くない。
だから私は思いっきりスルーして、
「これは私の命令じゃなく、神様の命令なの! 私だって、一応女の子なんだから、男性二人と同じ部屋に……ってことには、多少のためらいはあるけど……。でも! とにかく! 神様がすぐ近くで護衛してもらわなきゃダメだってゆーんだから、しょーがないでしょ!? どんなに嫌でも、従ってもらわなきゃこっちだって困るの! ねっ? わかったッ!?」
最後は念押しするように、ビシッと人差し指を突き出して言い放った。