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お騒がせ神の忠告

 私の悲鳴に驚いて、またまた駆け付けてきてくれちゃった、イサークと雪緋さんだったけど。


 まさか二人にまで、裸を見られるわけには行かないし。

 白藤にはムカついてるけど、危害を加える存在じゃないってことは、すでに知ってるから。

 二人には、『急に神様が現れてビックリしちゃっただけ』と説明し、戻ってもらうことにした。


 最初は二人も、


「はあ!? ここにまで現れやがったのかよ、その神ってヤツ!?」

「かっ、かかか神が今っ、こ、ここここっ、こちらにっ?」


 なんて言って、ちょこっとパニック起こしてたみたいだったけど。

 とにかく、もう大丈夫だからと伝えたら、素直に引き返して行ってくれた。



 周囲から、鳥の声や川の音しか聞こえなくなると。

 ようやく私は息をつき、再び白藤へと顔を向けた。


「――で? 白藤は何の用なのよ? こんなところにまで現れたからには、用事だか言いたいことだかがあったんでしょ?」


 あれだけ言われても、まだ消えないところを見ると。

 きっと、何かしらの用事があるんだろう。


 ……ううん。きっとじゃなく、絶対。

 緊急に言いたいことだか何だかがあるはず!


 じゃなきゃおかしい!

 乙女の裸をタダ見しておいて、『特に用はない』じゃ済まされないんだからッ!



 両手と両足で体を隠し続けながら、私は白藤をこれでもかとにらみつけた。

 彼はノンキにフワフワ浮かんだまま、あごに片手を当て、考える人ポーズなんかしている。


「……フム。そうじゃのぅ。言いたいことはあるにはあるが……」


「あるが! なに!?」


「フムゥ~ン……。これはまだ、確実と言えることではないからのぅ。話せることは限られておるんじゃが……」


「は? 『確実と言えることではない』って、何のことよ?」


 煮え切らない態度の白藤にイラ立ちを覚えつつ、なんとか気持ちを抑え込む。

 彼は真剣な顔で私をじっと見つめ、思いも寄らないセリフを発した。


「昨夜、そちを殺そうとした者のことじゃが……。少しばかり、心当たりがあってのぅ」


「ええッ!? 白藤、犯人を知ってるの!?」


 思わず大声を上げてしまい、私は慌てて周囲を見回す。

 今の声を聞いて、またしても二人が駆け付けてきてしまったらと、心配になったからだ。


 だけど、しばらく耳を澄ませていても、彼らがやってくる気配はなかった。

 私はホッと息をつき、再び白藤に顔を向けた。


「心当たりがあるってどーゆーこと? 犯人は、白藤の知ってる人なの?」


「まあ……そうじゃのぅ。知ってはおるが、話したことはない」


「そっ……か……。でも、どーしてその人だと思ったの? 疑うからには、怪しいところがあったってことでしょう?」


「フムン……。じゃからのぅ、まだうっすらと怪しんでおるだけなのよ。確かにその者じゃと思えぬうちは、話すわけには行かぬでのぅ」


「う~ん……。まあ、そっか。確実にその人が犯人だってわかるまでは、私だって知りたくないもん。その人のことをずっと疑いながら、ここに滞在し続けるなんてイヤだし」


「じゃろう?……しかしな。実のところ我は、誰かが襲われることがあるとすれば……それはそちではなく、藤華の方じゃろうと思うておったのよ」


「えっ、藤華さんが!?……どーして? なんで藤華さんが襲われるかも――なんて思ったの?」


 訊ねたとたん、白藤の顔が明らかに曇った。


「……そやつの思念が、流れ込んできたからじゃ」


「しねん? しねん、って……感情とか、そーゆーもののこと?」


「そうじゃ。あの者の強い思念が我に流れ込んでくることが、これまでにもたびたびあったのじゃが……。昨日流れ込んできたのは、藤華に対する強い思念だったのじゃ。これはもしやと思うてな? 昨夜は藤華の周辺をウロウロしておったのよ。結局その夜は、何も起こらんかったがのぅ。よかったよかったと安堵しておったら、そちが襲われたと聞かされたじゃろう? さすがの我も、あれには肝を冷やしたわ」


「強い思念? 流れ込む……って、えっ!? それじゃまさか、白藤って人が考えてることまでわかっちゃうの!?」


 ギョッとして声を上げると、白藤はゆっくりと首を横に振った。


「あー、違う違う。全ての者の思念が流れ込んでくるわけではないのじゃ。相手は、特別強い力を持った者に限られておるしの。しかも、その者自身すら制御できぬような、強い思念のみが流れ込んでくるのじゃ。我も万能ではないからのぅ」


「特別強い力を持った人の……その人ですら制御できない、強い感情だけ……。あ~、よかったぁ」


 思わずつぶやくと、白藤は不思議そうに首をひねった。


「『よかった』?……何がよかったのじゃ?」


「あ……。う、ううんっ? なんでもないなんでもないっ。こっちのことだから気にしないでっ?」


 焦って思い切り首を振った。

 白藤は何か言いたげに眉根を寄せ、私をじーっと見てたけど、にへらと笑ってごまかす。



 ……だって。

 人間全員の心が読める――とかだったら、私の考えてることもダダ漏れってことじゃない。

 そんなの絶対ゴメンだし、白藤のことだって、まだ完全には信用できてないし――。


 ハァ……。

 ほんっと、白藤が万能の神とかじゃなくてよかったぁ~~~。



「まあよい。今は小さなことにかまけている暇はないでのぅ。そんなことより、リナリアとやらよ。我は藤華を守らねばならぬでな、そちのことまで気に掛けてはやれぬのじゃ。すまぬが、そちは先ほどの護衛らに事情を話し、寝ずの番でもしてもらってくれ」


「うん、わかった。私ならダイジョーブだから、白藤は藤華さんにずっとついててあげて?」


「うむ、そのつもりじゃ。しかし……よいか? 我の見立てによれば、あの者の力はかなり強力じゃぞ? ゆめゆめ甘く見ぬようにな。護衛とやらも外ではなく、常にそちの傍らに置いておくことじゃ」


「えっ? 傍らって……すぐ横ってこと? そこまで近くでなきゃダメ?」


「無論じゃ! 外で張っておっては、そちが襲われても気付けぬじゃろうが! そちを襲った者は、我と同じく刹那移りしたのじゃろう?」


「あ……そっか。そー言えばそーだった」


「やれやれ。襲われたばかりの者とは思えぬ気楽さよのぅ。さすがは紅華の娘と言うべきか……。まったく、肝が座っておる」


 呆れたように薄く笑うと。

 白藤は『充分気を付けるのじゃぞ』と念を押し、私の前から姿を消した。

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