意外すぎる告白
お師匠様が寂しそうに見えるのは何故なのか。
理由を訊ねようとしたとたん、
「ワシはその昔、エドヴァルド王に仕える騎士でのぉ。――姫嬢様は、そのことは知っておったかね?」
「……へ?」
逆に訊ねられてしまい、私はキョトンとなって首をかしげた。
「エド……ヴァル、ド……王?」
……誰だろう、その人?
お師匠様には悪いけど、初めて聞く名前だった。
『王』ってことは、私のおじいさんとか、ひいおじいさん?
「え~……っと、その……。わ、私の……お……おじいさん、とか……ですか?」
二択のうち、当てずっぽうで言ってみる。
「いんや。姫嬢様のひいおじいさん――曽祖父に当たるお方じゃよ。さすがに、そこまでは知らんかったかのぉ?」
う――っ。
……二択で間違えちゃった。
「す、すみません! ひいおじいさんの名前すら、まったく記憶してなくて……」
「ふぉあっほっは。べつに構わんよ。姫嬢様がお生まれになった頃には、あのお方は、天に召されておったんじゃからのぉ。知らなんでも、無理もないことさね」
お師匠様は、うつむく私の頭に柔らかく手を置き、軽くぽんぽんと叩いた。
私はその優しさに感謝しつつ、僅かに顔を上げて、お師匠様の顔を窺った。
「それで、その……ひいお祖父さんの騎士だったのが、お師匠様……で、そのひいお祖父さんが……えっと、どーかしたんですか?」
いきなり、ひいお祖父さんの話を始めたことには、何かワケがあるんだろう。
そう思った私は、単刀直入に訊いてみた。
お師匠様は、ニコニコと笑いながら、
「まあまあ、そう焦らんと。……ふむ。だが……そうじゃのぉ。その話をする前に、まずは、このことを伝えておいた方が、いいかも知れんのぉ。……あのなぁ、姫嬢様よ。あの騎士見習いの少年――カイルがのぉ、旅立つ前に、ワシのところに来たんじゃよ。『昔の話を聞かせて欲しい』、となぁ」
「えっ!? カイルが、お師匠様のところに?」
……初耳だった。
カイルがお師匠様に、わざわざ話を聞きに――なんて。
私の中で、カイルとお師匠様が、どーしても結び付かなくて、思いっ切り戸惑ってしまった。
カイルとお師匠様の共通点って言えば、『騎士』ってキーワードくらいしか思いつかない。
カイルは『騎士見習い』で、お師匠様は『元騎士』?……だよね?
それとも、今も『騎士』なのかな?
んん……?
そもそも、『騎士』って職業なの?
だとしたら、引退とか退職とか……そーゆーのはないのかな? 『騎士』になったら、死ぬまで『騎士』?
う~ん……ダメだなぁ。
騎士について、まだまだわからないことだらけだよ。
もっといろいろ、先生に教えてもらわなきゃ……。
ひたすら自分の無知っぷりを恥じてると。
お師匠様は、穏やかな瞳で私を見つめ、再び語り出した。
「あんな昔話を、どこから聞いて来たのかわからんが……。カイルはワシに、こう訊ねおったよ。『グレンジャー卿は、エドヴァルド王のお后であらせられたイリス様を、密かにお慕いしておられた――という話を、偶然耳にしました。それは誠でございますか?』……となぁ」
「…………はっ?」
お師匠様の口から、あまりにも意外なことが語られたものだから。
私はしばらく、バカみたいに口をポカーンと開けて、お師匠様の顔を、穴の開くほど見つめしまっていた。
カイルがお師匠様に、『エドヴァルド王のお后であらせられたイリス様を、密かにお慕いしておられた』かどうかを、聞きに来た?
……え? それってどーゆーこと?
お師匠様が……誰を『お慕いして』たって?
えっ……と……。
エドヴァルド王が、私のひいおじいさんなんだから……そのお后、ってことは……。
え…………え?
私の、ひいおばあさん?
お師匠様が、ひいおばあさんのことを……。
「えええええっ!? お師匠様が、私のひいお祖母様のことをすっ――、すすっ、す……好き、だったぁ!?」
す、好きって……。
好きって、つまりはこっ――こここ恋してた、ってことだよね!?
……だよねっ!?
ただの、普通の『好き』だったら、カイルだって、わざわざ聞きに来たりしないだろーしっ。
……ってことは……。
騎士であるお師匠様が、王の后――妻であるひいお祖母様に、恋してた……ってことは、つまり――……。
『道ならぬ恋』!?
もっとキッパリ言っちゃえば、『不倫』ーーーーーッ!?
えええええッ!?
なんかすっごく意外過ぎて、気持ちの整理がつきませんよお師匠様ぁああああッ!!
私は心底驚いて、
「まさかっ! お師匠様が不倫なんてっ!」
ついポロッと、心の声を漏らしてしまっていた。