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姫推しの……

 萌黄ちゃんに『神の憩い場に行ってくるね』と伝えた後、私達は御所の外に出た。


 私が外に行く場合は、紫黒帝か藤華さんに、すぐさまお知らせしなければならない。

 ――ということが、いつの間にか決まっていたらしいので。

 萌黄ちゃんは今、藤華さんの元へと向かってくれているはずだ。



 やっぱり、()()かな?

 最初に外に出た時に迷っちゃったのが、〝お知らせしなければならなくなった〟原因かな?



 ……うん。

 きっとそうだよね。


 あの時の紫黒帝の取り乱しようったら、すごかったもん。

 周りの人達にもキツいこと言ったりして……最初に拝謁した時の印象とかなり違ってたから、ビックリしちゃったもんなぁ……。


 まあ、紫黒帝にしてみれば、私に何かあったら国際問題になっちゃうし、大好きだったお母様に顔向けできないって思って、必死だったんだろうけど。



 とにかく、もう二度とあんな騒ぎにはしちゃいけない。

 御所の人達――……ううん、この国の人達に迷惑掛けちゃうようなことは、絶対につつしまなきゃ!



「――ま、もうダイジョーブだろうけどね~。あの時と違って、護衛が二人もついててくれてるし」


 折りたたんだ大きめのタオルを胸に抱き、歩きながらうんうんとうなずいていたら。

 ふいに、前を歩いているイサークが立ち止まって、くるりと顔だけ振り向いた。


「あんたなぁ……。何度言やぁわかんだ? 一人でブツブツ言ってやがると、マジで妙なあだ名付けられちまうぞ? いーのかよ、『ブキミ姫』って呼ばれても?」


 思いっきり呆れた顔で、再び私に忠告してくる。


「や……っ! 嫌に決まってるでしょ、そんなあだ名!?」


「だったらブツブツ言ってねーで、黙って歩けよな。そんで、ここにも神様ってヤツが着いてきてんだとしたら、そいつもついでに黙らせとけ」


「えっ?……あ。そー言えば――」


 私はキョロキョロと辺りを見回した。

 白藤がいつの間にかいなくなっていたことに、今さらながら気付いたからだ。



 お香の匂いもしないし、私に見えないようにしてる……ってことじゃないと思うけど……。


 でも、わっかんないからなぁ~。

 あの人(あ、神か)ちょっと、信用できないよーなとこあるし。


 朝だって結局、お香の匂いで知らせてくれるってゆー約束を、ケロッとした顔で破ってたもんね?



 ……あ。

 でも……そっか。


 もしかしてまだ、お香を手に入れられてないのかな?

 保管場所は知ってるってことだったけど、やっぱり厳重に保管されてるんだろうし……。


 だから朝は、いきなり現れるしかなかった……のかな?



 ……む。

 むぅぅ~……。



 もしもそうなんだとしても、ちゃんと説明してくれればよかったのに。

 何も言わずにニマニマ笑ってるだけじゃ、こっちはなーんにもわかんないんだから。



「……ハァ。黙ったと思やぁ、今度はコロコロ表情変える顔芸かよ……」


 呆れ顔したイサークに、今度はため息をつかれてしまった。

 私は慌てて彼の顔を視界に捉え、『あっ、ごめん!』と謝る。


「べつにいーけどよ、顔芸くらいは。こっちはとっくに慣れっこだし……なっ、雪緋?」


「えっ?……あ、いえ……こちらからですと、リナリア姫様のお顔は拝見できませんので……。ですが……ああ……姫様の愛らしい百面相を、イサーク様は拝見できたのですね? うぅ……羨ましい限りです」


 残念そうな声が背後で聞こえ、私はヒョイッと振り返った。

 後ろを歩いている雪緋さんは、ガックリと肩を落とし、深くうつむいてしまっている。


「『愛らしい百面相』~?……雪緋、おまえ……どこまで姫さんに入れ込んでんだよ? 度が過ぎるとさすがに気色悪ぃぜ……?」


 ゲンナリといった風に、イサークは眉間にシワを寄せた。

 雪緋さんには悪いけど、私も『愛らしい百面相』ってセリフには、ちょっこっと引いてしまったので、


「えーっと……。雪緋さんが私をかばおうとしてくれる気持ちは嬉しいけど……何でもかんでも、褒めてくれなくてもいいんだからね? ダメなものはダメって、ハッキリ言ってくれていいし。私がお母様の娘だからって、気を遣いすぎないで?」


 なるべく傷付けないよう注意しながら、お願いしてみた。

 だけど彼は、両拳を握りながらガバっと顔を上げ、


「何をおっしゃいます! リナリア姫様が愛らしくていらっしゃるのは、真のことではございませんか! 私は決して、世辞を申しているわけでも、紅華様の御子であらせられるからと、気を遣っているわけではございません! ただただ率直に、真実を述べたのみです!」


 山の隅々にまで響き渡りそうな大声で、そう主張してきて……。


 普段は穏やかで物静かな雪緋さんからは、想像できないくらいの大声に。

 私もイサークも心底驚いて、数秒ほど固まってしまった。


「あ……。も、申し訳ございません……。ついムキになって、大声を張り上げてしまいました……」


 私達が固まってしまったことで、我に返ったらしい雪緋さんは。

 とたんに恥ずかしそうに声を落とし、前よりも深くうつむいた。


「え……っと……。あー……、うん。本気でそう思ってくれてるなら……それでいいってゆーか、あの……。あ……ありが……と」


「い、いえ! お礼など、恐れ多いことにございます……っ」


 お互い、妙に照れくさくて。

 しばらく立ち止まって、二人でモジモジしていたら。


「お~~~ぅい。いつまでそーやってる気だーーー? 湯浴みに行くんじゃなかったのかーーー?」


 完全に呆れ返っているような、イサークの声が降ってきた。

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