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伝えるべきか否か

 あさげを済ませた後。

 庭で談笑しているイサークと雪緋さんをチラチラと盗み見ながら、私は迷っていた。


 何を迷っているのかって?


 そんなの決まってるでしょ。

 昨夜、何者かに襲われて殺され掛かったことを、二人に話すかどうかをよ。



 護衛である二人には、話しておくべきなんだろうけど。

 犯人の特徴を訊かれたら、どう答えればいいんだろう? とかって考え始めると、どうしていいかわからなくなっちゃうんだよね……。


 萌黄ちゃんに似てた――なんて、言えるわけないし。

 その犯人の子は、瞬間移動(白藤に言わせれば〝刹那移り〟だけど)できるっぽいんだよね――なんてことも、なんだか言いにくいしなぁ。



 ……あ。でもね?

 二人が信じてくれないんじゃないかってことを、心配してるわけじゃなくて。


 そんなすごい能力を持った子がいる、って話になったら……また紫黒帝辺りが、『巫女姫に!』って騒ぎ出しそうじゃない?


 それがね……ちょっと心配なんだよね。



 だって。

 犯人とは言え、まだ小さな女の子だよ?

 その小さな肩に……国の重責なんて背負わせたくないじゃない。



 ……まあ、でも……お母様や藤華さんは、小さな頃から背負ってたわけだけども……。



 あ~あ。

 できることなら、今すぐやめてほしいんだけどな。巫女姫って制度(?)は。


 国のために、ろくに恋愛すらできず。

 神様と形式上の結婚させられたあげく、巫女姫の素質を持った人――次の巫女姫が現れるまで、自由の身になれないなんて。


 ……まったく!

 前に私がいた世界なら、大問題になってるわよ!

 この国、批判も中傷もされまくりなんだからね!



 いろいろ考えてたら、めっちゃ腹が立ってきて。

 腕組みして口をへの字にしてたら、


「おい。さっきから見てりゃあ、何やってんだあんた? 暗い顔してたと思やあ、ボケーッとした顔して。真剣な顔になったと思やあ、怒ったみてーに頬ふくらませやがってよ。……ほんっと、くるくるくるくるよく変わんなぁ、あんたの顔。見てて飽きねーぜ。――なっ、雪緋もそー思うだろ?」


 いつの間に部屋に入ってきてたのか、イサークに思いっきりツッコまれた。

 同意を求められた雪緋さんは、『はっ?』と裏返った声を上げてから、視線をあちらこちらにさまよわせている。


「い、いえ……。飽きないと申しますか……その……と、とても愛らしいと……お、思――っ、……思って……おりました……」


 だんだん声が小さく、体が丸く縮こまって行くものだから、必死に耳を澄ませてたんだけど。

 雪緋さんから、いきなり『愛らしい』なんて言葉が発せられ、私の顔は瞬時に熱くなった。


「はあ? 『愛らしい』だぁ?」


 呆れたような声を上げ、イサークは怪訝顔で雪緋さんを見つめている。

 きっと、『こんなガキを〝愛らしい〟とかって、見る目のねえヤツだな』――とでも思ってるんだろう。


 フン、だ。

 雪緋さんのような純粋な人でなきゃ、私の魅力なんかわかんないのよーっだ!


 ……この前は、『あんたが素っ裸で横切ったとしても、興味持つのは幼児趣味の変態ヤローだけ』……とか何とかって、人のこと幼児扱いしてたし。


 まったく!

 私のどこが幼児に見えるってゆーのよ!?

 こー見えても、胸のサイズは標準よりちょこっとだけう――っ、え……?



 ……あ。

 そー言えば、昨日も今日も温泉入れなかったんだっけ!

 バタバタしてたし、そんなこと考える余裕なかったからなぁ……。


 わ~っ、ヤダヤダ!

 一日お風呂入らなかっただけでも、気持ち悪くなっちゃうのよね……私って。


 べつに、潔癖症ってワケでもないんだけど。

 なんとなく落ち着かないってゆーか……。



「そーよ、温泉! 私、えっと……神の憩い場に行きたい!」


 両拳を握り、私が唐突に言い出したものだから。

 イサークも雪緋さんも、驚いたように体をビクッと揺らした。


「あぁ? 神の憩い場に行きたいってぇ?……ったく。脈絡のねえ姫さんだなぁ。ついさっきまで、雪緋に『愛らしい』なんざ言われて、まんざらでもねえ顔してたクセによぉ。今度は湯浴みしてーだぁ?」


「だってしょーがないじゃない! 昨日も入りに行けなかったし、今日もまだ行けてないんだから! イサークはしばらく入らなくても平気なんでしょーけど、私はそうじゃないの! 一日でも入らないと気持ち悪いのーーーっ!!」


 握った拳をブンブン振って主張すると、イサークは面倒そうな顔をして、


「あーあー、わかったわかった。連れてきゃいーんだろ、連れてきゃあ?……ったく。これだから貴族ってヤツはよぉ……」


 ブツブツ文句を言いつつも、これから神の憩い場に行くことを受け入れてくれた。


「ありがとーイサーク!……雪緋さんもごめんね? ホントならお昼から交代なんだから、私に付き合ってたらお昼過ぎちゃうかも……だよね? 体がキツいようだったら、護衛はイサークだけでもダイジョーブだけど――」


「いいえっ、私も参ります! 無駄に体力だけはございますので、どうかお気遣いなさらず!」


 言葉尻に被せるように強く主張し、雪緋さんは大きくうなずいた。


 本当に大丈夫かなと、チラッと思ってしまったけど。

 考えてみれば、雪緋さんは神の恩恵を受けし者(この国では獣人、だっけ?)の血が流れてるんだし。

 普通の人間の体より、ずっと丈夫だったりするのかも知れないな。



「そっか。……うん、わかった。じゃあ、戻ってきた萌黄ちゃんに『神の憩い場に行ってくるね』って伝えてから、三人で一緒に行こう?」


 また雪緋さんがうなずいたので、私もうなずき返しているところに。

 タイミング良く、萌黄ちゃんが戻ってきた。

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