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〝ブキミ姫〟はご勘弁

 私とイサークが似ているかどうかという問題は、とりあえず置いておくことにして。


 イサークの前で白藤と言い合った後。

 私は『あー、ごめん。ちょっと放置しちゃってた』と愛想笑いを浮かべ、彼の方を振り返った。


 すると、


「姫さんには神ってもんが見えてる――ってことを知らねーヤツに、今みてーな場面を目撃されようもんなら……あんたの評判、すっげー悪くなんだろーな。……ってか、確実に陰口叩かれるぜ? たとえば、そーだな……『急にブツブツ言い出すブキミ姫』とかってよ。それが嫌なら、なるべく人前では話さねえ方がいいんじゃねーか? その、神ってえヤツとはよ」


 ものすごく真面目な顔をしたイサークに、腕組みしながら忠告されてしまった。



 どうやら、私と白藤の会話というものは。

 他の人には、私が〝何もない空間に向かってブツブツ話し掛けている〟ようにしか見えないらしい。


 しかも、急に大声になったりヒソヒソ声になったり、はたまた笑い出したり怒り出したりと、話し方も妙にバラエティに富んでいたりするので、いっそう不気味に映るのだそうだ。



「うぅ……。『急にブツブツ言い出すブキミ姫』……」



 あだ名にしては長すぎる気がするけど。

 省略されて『ブキミ姫』だけになったとしても、充分付けられたくないあだ名だわ……。


 ……うん。

 これからは気を付けよう。



 イサークの忠告を素直に受け入れ、私は大きくうなずいた。




「……あ、そーだ。それよりね? さっき藤華さんと話してたことなんだけど。今日からまた、私の護衛はイサークと雪緋さんにお願いすることになると思うから、そのつもりでよろしく!」


 蘇芳国の言葉を知らないイサークには、藤華さんとの会話の内容は全く理解できなかったと思うから、今のうちに伝えておく。


「は? マジかよ? 巫女姫やら正室のなんたらって人にゃあ、男は近付けらんねーって話じゃなかったか?」


「うん。それはそうなんだけど……。藤華さんが言うにはね? 巫女姫の護衛以外の男性を近付かせちゃいけないのは、神結儀前の数日間だけなんだって。イサークがこの話を聞いてるかどうかわからないけど、今回の神結儀は失敗しちゃったから。また最初から、日程を組み直さなきゃいけないそうなの。だから、正式な日取りが決まるまでは、他の男性が近付いたりすることは、少しくらいなら問題ないんだって。……あ。でも、ご正室の露草さんにだけは、やっぱり近付いちゃダメってことだったから……露草さんのいらっしゃる香華殿にだけは、絶対に近付かないように気を付けてれば、大丈夫なんじゃないかな?」


「へえ……そーなのか。だったらまあ、こっちとしてもありがてーけどよ。姫さんの護衛してる間は、あの陰険メガネ野郎と同じ場所にいなくて済むんだからな」


「あー……そっか。二人とも、今は外国からのお客さんの……えーっと、お付きの人用の部屋にいるんだっけ?」


「ああ。しかも同室だぜ、同室! 一国の要人以外に用意されてる部屋は、一室しかねえみてーでよ。……まあ、十人くれーは泊まれる部屋ってことだったから、べつに狭くはねえんだけど……。陰険メガネと! 同室! ってだけで、ジューブン気分悪ぃーんだよな」


「あ……ああ……。そう、なんだ……?」



 相変わらず、二人の距離は一ミリたりとも縮まっていないみたい。


 滞在期間中に、少しでも仲良くなってくれればなー……なんて思ってたんだけど。

 この感じじゃあ、やっぱりムリっぽいか……。



 密かに先生とイサークの関係修復を望んでいた私は。

 願望達成はかなり困難なようだと半ば諦め、引きつり笑いを浮かべたまま、そっとため息をついた。





 イサークと共に風鳥殿まで戻ってくると。

 すでに雪緋さんが待機していて、私の顔を見るなりパアッと顔を輝かせた。


「リナリア姫様!……よかった。ご無事に戻っていらしたのですね」


 大きな体の割に、とても俊敏に動ける雪緋さんは、軽やかな足取りで駆け寄ってきて。


「リナリア姫様が帝に囚われてしまわれたとお聞きした時は、全身から血の気が引きました。帝はもともと慈悲深いお方でいらっしゃるのですが、時折お心をお乱しになり、我を忘れてしまわれることがございますので……」



 へ、へえ~……。

 もともとは慈悲深いんだ?


 ……でも、『お心をお乱しに』とか『我を忘れてしまわれる』……ってのが、だいぶ引っ掛かるわ……。



 雪緋さんの言葉に、ちょっぴりドキドキしながらも。

 私は彼を安心させるため、ニッコリと微笑んでみせた。


「心配させちゃってごめんね、雪緋さん。でも、もう大丈夫だよ? 紫黒帝、さっき私に謝ってくれたし。二度とこんなことはしないって、約束もしてくれたから」


「さ、さようでございますか。それは誠にようございました」


「うん。……あ。それでね雪緋さん、今日から私の護衛は――」

「リナリア姫殿下!」


 突然割り込んできた、聞き覚えのある可愛らしい声に、私の心臓はドキーン! と跳ね上がった。


「よかったぁ……。ご無事でいらしたんですね! 帝に閉じ込められてしまわれたとお聞きしてから、わたし、心配で心配でっ」


 雪緋さんと似たようなことを言って、笑顔で駆け寄ってくる可愛らしい女の子は――。


 紛れもなく、萌黄ちゃん本人だった。

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