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護衛変更のお願い

 元気がないように見える私を、藤華さんはすごく心配してくれて。

 お加減が悪いなら薬師を呼びましょうかとか、雪緋を呼んで風鳥殿まで送らせましょうとか、いろいろ言ってくれたけど。

 笑顔を崩さないように気を付けつつ、『本当になんでもありません。大丈夫ですから』と丁重にお断りした。



 ……あ。

 そう言えば。


 雪緋さんとは、神結儀があった日の前日以来、会ってないな。

 神結儀が執り行われた日は、朝から萌黄ちゃんがあれこれやってくれてたから、カイルにも会わなかったし。


 二人とも、今頃どうしてるのかな?

 私の護衛役は、彼らのままなんだよね? 変えられたりしてないよね?



 心配になって、藤華さんに訊ねてみたら。


「本来でしたら、神結儀が終了するのは昼頃のはずでしたの。ですから、その時分には翡翠が風鳥殿へとお伺いしたそうなのですけれど……リナリア姫殿下のお帰りがあまりにも遅く思われたので、陽景殿までお迎えに上がったそうなのです。ですが……その頃には、リナリア姫殿下は帝に囚われておいでだったのですものね? そのことを伝えられた翡翠も雪緋も、たいそう心配しておりましたわ」


「そ……そうなんですか……」



 二人とも、やっぱり心配してくれてたんだ。

 囚われたのは私のせいではないにしろ、悪いことしちゃったな……。



「リナリア姫殿下が囚われたままの状態でしたら、二人ともお役目を奪われて、さぞかし困惑したに違いないと思いますけれど。帝が謝罪なさって、リナリア姫殿下もこうして解放されていらっしゃるのですから、お役目も今まで通りのはずです。リナリア姫殿下がご無事でいらっしゃることは、雪緋にも伝えておきますので、どうかご安心ください。じき、そちらに向かわせますわ」


 護衛は今まで通りだと教えてもらい、私は胸を撫で下ろした。


 でも、その直後に。

 雪緋さんはともかく、カイルに護衛を続けてもらうのは辛いな……と思い直す。



 ……だって。

 カイルはもう、過去のことは何ひとつ覚えていないんだから。

 私との間にあったことだって、すっかり忘れてしまっているんだから。



 新しい好きな人だって、いるのかもしれない。

 その人は、藤華さんなのかもしれない。


 藤華さんにも、好きな人がいるってことだったし……。



 相手はカイルじゃないって、藤華さんは萌黄ちゃんに説明してたみたいだけど。

 でも、昨日の雰囲気からすると……二人はもう、立派な恋人同士なんだとしか思えないよ……。



 カイルが側にいたら、どうしても〝抱き合っていた二人〟が、脳裏にチラついてしまう。

 忘れたくても、忘れられなくなってしまう。


 そんなのは辛いから……。

 辛すぎるから……。



「あの……藤華さん」


「はい? いかがなさいました、リナリア姫殿下?」


「護衛って、どうしてもこの国の人じゃなきゃいけないんでしょうか?」


「え?……いいえ。そのようなことはないと思いますけれど……。帝がそのようにおっしゃいましたの?」


「いえ。帝から直接は聞いてません、けど……。ただ、露草さんと藤華さんのいらっしゃるところには、雪緋さんと翡翠さん以外は近付けられないとのことで……」


「まあ。そういうことでしたの。……ご安心ください。わたくしに雪緋と翡翠以外を近付けられないのは、神結儀が執り行われるまでの数日間だけですのよ? リナリア姫殿下もご存知でいらっしゃるように、神結儀は失敗に終わりましたし……新しい日取りを定めなければなりません。それまでは、雪緋と翡翠以外の男性――しかも、リナリア姫殿下の護衛ということであれば、少しくらい近くに滞在なさっても問題ないと思いますわ。ただ……露草様のお近くに、他の男性を近付けたくないと思っていらっしゃるのは確かなことでしょうから……露草様のお住まいに近付かないことだけ徹底してくだされば、お許しいただけるのではないでしょうか?……何にせよ、最終的にお決めになられるのは帝でいらっしゃいますから。帝からお許しをいただけるような方でなくてはいけない……とは思いますわ」


「じゃあ、あの……雪緋さんは今のままでいいとしても。カイ――っ、……えっと、翡翠さんに代わって、ここにいるイサークに護衛を任せることはできますか?」


「ええ、それは……。リナリア姫殿下が、どうしてもそのようになさりたいとおっしゃるのでしたら、帝もお許しくださると思いましてよ? 帝には、昨日なされたことに対しての負い目もございますでしょうし」


「そうですか! じゃあ早速、帝にお願いしに行きたいんですけど……藤華さん、お取次ぎ願えますか?」


「ええ……はい。わたくしも、ちょうど帝の元へ参ろうとしていたところでしたので、それは構いませんけれど……。雪緋はそのままで、翡翠のみ……と思われましたのは、なにゆえでございましょう? 翡翠が何か、お気に触るようなことをしてしまいましたの?」


「えっ?……あ。い、いえっ違います! 翡翠さんは何にも悪くありません! ただ――っ」


「……ただ?」


「……ただ、あの……。えっと、翡翠さんは……翡翠さんは、その……き……キレイ過ぎる、と申しますか……」


「……は? 今……『キレイ過ぎる』……とおっしゃいました?」


「はい。あの……キレイ過ぎる人に側にいられると、それだけでもう、ドキドキしちゃって……。護衛うんぬんってゆー前に、心臓がバクバクしちゃって落ち着けないので。私にはやっぱり、イサークくらいふてぶてしくて、どちらかとゆーと、ゴツい感じの人が護衛してくれた方が、安心できる……んですよ、ね……」


「まあ……」



 その場しのぎの大嘘(キレイだと思ってるのは本当だけど)に、藤華さんは驚いたように目をまん丸くしていた。

 それから可愛らしくフフッと吹き出すと。


「翡翠がキレイ過ぎるから、護衛でいてほしくないとおっしゃいますの? 失礼ながら、とてもおもしろい考え方をなさるお方でいらっしゃいますのね。わたくし、つい笑ってしまいましたわ」


「は……はあ……。すみません、おかしな理由で……」


 ひたすら恐縮する私の前で、藤華さんは愉快そうに笑い続けていた。

 ひとしきり笑った後、


「けれど、翡翠がキレイ過ぎるとお感じになられるのは、わたくしもわかる気がいたしますわ。吸い込まれそうなほどに美しい瞳には、いつも見惚れてしまいますもの」


 うっとりとした表情でうなずく藤華さんに、私の胸はチクリと痛んだ。

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