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鬼気迫る神

 怖い顔で白藤に迫られ、昨夜、私が何者かに殺されかけた話をしてみせると。

 彼の顔色はますます悪くなって行って、なんだか心配になってきてしまった。


「あの……。襲われたって言っても、無事だったんだからダイジョーブだよ? 首ももう痛くないし。唯一困ったことと言えば、寝不足なことくらいで――」


「何を悠長なことを申しておる! たまたま無事であっただけで、殺されかけたことに変わりあるまい! 一度襲われたら、次は襲ってこないとでも思っておるのか!? むしろ逆であろうが!」


 心配させたくなかったから、とっさに大丈夫だとごまかしてみただけだったんだけど。

 今までのノホホンとしたイメージとは打って変わり。

 鬼気迫ると言った感じの白藤におののき、私は小さく縮こまった。


「失敗したとなれば、次はもっと確実に殺せる方法で襲ってくるに決まっておろう!?  ヘラヘラと笑っておられる状況ではないのじゃぞ! わかっておるのか!?」


 肩を強くつかまれたまま前後に揺すられ、目が回りそうになる。


 襲われたとわかれば、さすがに心配くらいはしてくれるだろうと思ってはいたけど。

 ここまで深刻に捉えてくれるとは……と感動しつつも、正直ちょっと引いてしまった。


「う……うん。そりゃあ、まあ……笑っていられる状況だとは思ってないけど。でも、あのぅ……また襲われた時のことを考えて、こっちもいろいろ用意して身構えてれば、次は確実に撃退できる……んじゃ、ないかなぁ?」


 愛想笑いを浮かべながら、恐る恐る言ったとたん。

 白藤はますます眉を吊り上げ、


「『いろいろ用意して』!?――いったい何を用意するのじゃ!? 短刀か? それとも他の凶器か? それらを用意して枕元に置いたとして、そちにそれらが扱えるのか? 相手を殺す気で立ち向かえるのか?――できぬであろうが! そちのような人間にできるはずあるまい!」


 さらに強く体を揺すられて、私の首はガックンガックンと前後に激しく揺れた。

 揺すられながらも、


「こ、殺す気、でっ――てっ、そんな――っ。さ、さすがに、そこっ、までは……っ。……そ、それに――っ、なにも、そこまで……っ、しなくっ――てもっ」


 必死に反論すると、白藤は揺すっていた手をピタリと止め、私に噛みつかんばかりの勢いで怒鳴った。


「甘いわッ!! そちはあまりに甘すぎるッ!! 殺そうとして本気で向かってくる相手に対し、手加減してやれるほどそちは猛者と申すか!? 腕に覚えがあるとでも申すのか!? どうせ、虫一匹殺したことすらないのであろう!? そのような者に、襲撃者の相手など務まるはずもあるまい!……我はまだ、そちにどれほどの力量があるか見極められておらぬが、断言できるぞ! そちは、人を傷付けられるほどの力など持っておるまい!? いや、持っていたとしても、その力を人を傷付けるために使ったりはせぬはずじゃ! 紅華がそうであったようにの!」


「えっ?……お母様が?」


「そうじゃ。そちの母はそういう人間じゃった。……我は何代にも渡り、この国の巫女姫を見てきたが……そちの母の紅華は、まず間違いなく、初代に次いで力の強い巫女姫じゃったよ。あの者が力を開放すれば、一度に数人を滅することも可能じゃったろう。じゃが……そちの母は、決してそのような力を開放することはなかった。強い力は確実に持っておったが、人のためになるような方向でしか使ったことはなかったのじゃ。……そちはその紅華の娘じゃからな。内面まではまだよく知らぬが……我にはわかってしまうのよ。そちは決して、暴力的な力は使わぬとな」


 白藤は優しい眼差しで見下ろすと、私の頭をそっと撫でた。


 なんだか幼児扱いされた気がして、無性に恥ずかしかったけど。

 彼の眼差しの優しさは本物だって信じられたから、私は特に言い返したりはせず、じっとしていた。


「しかし……そちがこの国を訪れることは、紅華の夢見の力によって知っておったが……まさか、命を狙われるようなことになるとはのぅ。さすがの紅華も、そこまでは予見できなかったのやもしれぬ。娘の危機を知っておったら、我に何かしら頼んで行ったであろうしの」


 私の頭を何度も撫でながら発せられた、白藤の衝撃的な言葉。

 聞き捨てならなかった私は、ピクリと反応してから慌てて顔を上げた。


「ちょ……っ! それってどーゆーこと!? 私が将来、この国に来ることになるって……お母様は、十何年も前に知ってたの!? 夢見の力って、つまりは予知夢のことだよね? お母様は……そんな遠い未来のことも、夢で見ることができたんだ……?」


 改めてお母様の能力の強大さを知り、私は恐れおののいた。



 そんなすごい力を持った人が、自分の母親だなんて……。

 誇らしいって感じる以前に、ただただ驚愕しちゃうってゆーか……ホントに私と血が繋がってるのかなって、疑わしくすら思えてきちゃう。


 だって私の能力なんて、白藤が見えるってことと……雪緋さんの過去を盗み見ちゃった時の透視能力? くらいだもんなぁ(しかも、使おうとすればすぐに使えるわけでも、力をコントロールできるわけでもないし)


 ショボい……とまでは言わないけど、『すごいでしょ』って胸を張れるほどのものでもないよね。



 ……でもまあ、正直なところ。

 超能力なんて、あげると言われても、まったく欲しいとは思わないんだけど。



 人間、普通が一番だよ。

 強すぎる力は不幸の素……って感じがする。


 だからこそお母様は、強大な力を持っていても、人のためになること以外は使おうとしなかったんだろうし。

 ふたつの未来を夢に見るってゆーお父様だって、その力があって幸せだ――って風には見えなかったもの。


 だから、私の力が大したことないものでよかった。



 よかった……んだけど……。


 白藤の言うように、私を殺そうとしてる人が、また襲ってきたとしたら。

 その時はどうすればいいんだろう?


 私も一応、剣の稽古はしてきてるけど……。

 あくまで稽古であって、実戦とは違うもんなぁ。



 う~ん……困った。

 紫黒帝に昨夜のことを打ち明けて、警備を強固にしてもらった方がいいのかな?


 ……あ。

 でも、犯人は一瞬にして消えちゃったんだっけ。


 一瞬で消える――逃げることができるってことは、現れることもできるってことなんだろうし。


 だとすると、どれだけ警備を厳重にしてもムダか……。



 ――なんてことを、真剣に考え始めた頃。

 表が急に騒がしくなり、私と白藤は入口の方を振り返った。

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