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振り回されて

 完全に面白がっていると思っていた神様の、『我も知恵を絞ってやる』という言葉に驚いて。

 私は慌てて上半身を起こし、頭上でフワフワしている神様を仰ぎ見た。


「ねえ! 今言ったことって、ホント!? ホントに神様も、私が巫女姫にならずに済む方法、考えてくれるの!?」


 興奮して訊ねると、神様はフワリと床に降り立ち。

 バツが悪そうな顔をしてから、遠くに視線を投げて腕を組んだ。


「……ウム。こたびのことは、我もちと浮かれすぎたようじゃからのぅ。悔いておったのよ。……紅華の娘にも我が見えているとわかり、嬉しくなってしまっての。ついつい、よけいなことをしてしまったのじゃ。今さらではあるが……すまなかったの」


 急にしおらしいことを言って、神様はションボリとうつむいてしまった。

 意外な反応にギョッとした私は、座りながら後ずさって。


「ちょ……っ。どどっ、どーしたのよ神様ってば? いきなり謝ってくるとかって、素直すぎて怖いんですけどっ?……まさかとは思うけど……また何か、妙なことを企んでるんじゃないでしょーねっ?」


 内心、疑うのは失礼だとは思いつつも。

 今までのことがあるから、ついつい警戒してしまう。


 神様はちょっとムッとしたように口をとがらせた後、ガクリと肩を落として。


「紅華の娘よ、それはあまりな言い草ではないかのぅ?……確かに、我が藤華の舞に加わったりなぞしなければ、そちが我に気付いて大声を上げることもなかったじゃろうし、このような事態にもなっていなかったのやもしれん。……しかしな。我とて、そちを苦しめようと思い、このようなことを仕出かしたわけではないのじゃ。ひとえに、我の姿を見ることができる人間に出おうたのが久々であったから、浮かれてしまっただけなのよ。そこに悪意などありはせぬ。……紅華の娘であれば、その程度のこと察してくれると思うておったが……。フゥ。甘かったのぅ。親子とは言え、しょせんは別の人間じゃしの。紅華ほどの察しの良さを請うた我が、誤っておったのじゃ。そもそも、紅華とそちでは力の差が歴然であるからの。望みをかける方がどうかしておったわ。……のぅ? 許せ、リナリアとやら」



 ……む、むぐぐぐ……っ。


 何なのよこの神!?

 グチグチグチグチネチネチとっ!

 やたらお母様と比較して、こっちの劣等感刺激してきてくれちゃってぇええッ!



 ええ、ええ、どーせそーでしょーよ。

 お母様に比べたら私の能力なんて、ちっぽけなものでしかないんでしょうけど。


 でも、ここまであからさまに、『おまえの方が劣っている』みたいなこと、言わなくてもよくない!?

 どっちかと言うと図太い部類に入るかもしれない私でも、けなされれば、多少は傷付くんですからねっ!?



 悔しくて、ギリギリ奥歯を噛み締めていた私は。

 せめて一言だけでも言い返してやろうと、神様をキッとにらんだ。


 すると、


「表へ出たいのであれば、今が一番都合が良いと思うのじゃがのぅ? ゆうげが近うなれば、ここへも誰かしらがやってくるじゃろうて。――ほれ、早う早う」


 なんてことを言って、彼は私に向かって両手を広げる。

 言い返す気満々だったところに、いきなり肩透かしを食らって。


「はあぁ~ん?」


 ……思いっきり、間の抜けた声を上げてしまった。


 ハッと我に返った私は、顔を熱くしながら神様を軽くにらむ。


「は、『早う早う』って……。つまり何? 私と一緒にテレポ――じゃないっ、瞬……っでもなかった。えぇっと……あ、そうそう。刹那移り? してくれるってこと?」


「フム。そちが望むのならば、じゃが?」


「…………」



 神様はそう言ってくれてるけど。

 ここを抜け出したとして、次にどうするかが、まだ思いついてない。


 紫黒帝に『神様は私じゃ嫌だって言ってます』って伝えに行く案は、結局ダメになっちゃったし……。


 う~ん……どーしよう?

 抜け出すなら、神さまの言うとおり、ゆうげの前が一番いいんだろうけど……。



 ……ん? ゆうげの前?


 そっか、もうそんな時間なんだ?

 この国には昼食ってものがない(……ってわけでもないみたいだけど。萌黄ちゃんに聞いたところによると。ほとんどの場合ない、が正しいかな?)から、時間の感覚がイマイチつかみにくいのよね。



 ――っと、いっけない。

 抜け出して、それからどうするかを考えなきゃ。



 改めて〝抜け出してからの作戦〟を考え始めた時だった。


「これこれ。そうしていつまでも考えていては、機会を失ってしまうじゃろう。抜け出した後いかがするかは、抜け出してから考えれば良いのじゃ。――ほれ。早う参るぞ。そちはただ、我につかまっておればよい」


 神様が強引に私の手を取って、再びフワッと宙に浮かんだ。


「えっ? ちょ……っ、ちょっと神様っ?」


 足が床を離れ、焦った私は神様にギュッとしがみつく。

 彼はニヤリと笑って抱き締めると、


「我から離れるでないぞ?」


 ささやくような微かな声で、素早く耳打ちしてきた。



 こうなったら仕方ない。

 作戦ひとつ思いついてないけど、とりあえず外に出ちゃおう。


 することが何も思いつかなかったとしても、ゆうげの前に戻ってくれば、騒ぎにはならないだろうし。

 神様に頼めば外に出られるってことが確かめられるだけでも、めっけもんだろう。



「うん、わかった! お願いしますっ」


 私は神様に身をゆだね、ギュッと目をつむった。

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