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刹那移り

「ねえ、神様。そーやって現れたり消えたりできるってことは……え~っと……あっ、そうそう! テレポーテーションができるってこと?」


 神様が神出鬼没な理由が知りたくて。

 さっきまでのムカつきも忘れて、思わず訊ねてしまったけど。


 神様はキョトンとした顔で私を見つめ、


「てれぽお……てしょん?」


 初めて聞いた言葉だったらしく、大きく首をかしげた。


「テレポーテションじゃなくて、テレポーテーション!……まあ、わかるわけないか……。えーっと、確か日本語では……瞬……瞬間……あっ、そーだ! 瞬間移動! 瞬間移動ができるってことよね?」


 日本語なら通じる気がして、そのまま伝えてみると。


「しゅんかん、いどう?」


 ……通じなかったらしい。

 神様は数回瞬きし、今度は逆方向に首を傾けた。


「……フム。その言葉自体は聞いたことがないが……。そちが申しておるのは、我の力のことじゃろう? この力に、特に名などは付けておらぬが……そうじゃのう。名を付けるとすれば……フゥム。刹那移り、といったところかのぅ?」


「せつなうつり?」



 う~ん……。

 そのネーミングはどーなんだろう?

 ……イマイチ、って気がするけど……。


 まあいっか。

 呼び方なんてどうでも。



「じゃあ、うん。とりあえずそれでいいや。とにかく、えーっと……その刹那移りって、私と一緒でもできたりする?」


「フムン? そちと一緒じゃと?」


「そう。たとえば、私と手を繋いでたとして。繋いだ状態でも、私と一緒に他の場所に移れたりする? それとも、手を繋いでたとしても、刹那移りできるのは神様一人だけなの? 私は置いてかれちゃう?」


「……なるほどの。そういうことか。……いいや? 手だけに限らず、我とほんの一部でも繋がっておれば、刹那移りすることは可能じゃよ。幼い頃の紅華も、よう我の胸に抱いて連れ出しては、あちこち見せて回ってやったものじゃ」


 神様は片手をあごに当て、懐かしそうにうんうんとうなずいた。


「えっ、そーなの? お母様って、神様にいろいろなところに連れてってもらってたんだ?」


「フム。そうじゃそうじゃ。――紅華は好奇心旺盛な稚児でのぅ。よう我にまとわりついてきては、表へ連れて行けー連れて行けと、ねだってきたものじゃった」


「へえー。お母様が……」



 お母様にも、そういう頃があったんだなぁ。

 ……当たり前だけど。


 子供にとっては、親の幼い頃の話って、すごく不思議と言うか……なんだか、くすぐったい気持ちになるものよね。



 ……っと、いけない。

 今はお母様の小さかった頃の話を、ノンキに聞いてられる余裕はないんだった。



「ごめん、神様! お母様の子供の頃の話は、また別の機会にゆっくりと聞かせて? 今は私、それどころじゃないから! なんたって大ピンチだから!」


「フムン? だいぴ…………なんじゃったかの?」


「大ピンチよ、大ピンチ! えーっとぉ……危機よ危機! 追い詰められた状態ってこと!」


「ほぉう? 追い詰められた状態、じゃと?」


「もーっ、しらばっくれないでよ! 神様だって全部見てたじゃない! 私が紫黒帝から、藤華さんの代わりに巫女姫になれって迫られてたのを! 忘れたとは言わせないわよ!?」


 すっとぼけてみせる神様にイラッとしつつも。

 そこはまあ、なんとかググッと堪えて、私は先を続けた。


「神様だって、勝手に巫女姫変えられたら困るでしょ? だって、要するに神結儀って、神様とお嫁さんの結婚式なんだもんね? 結婚するなら、断然藤華さんの方がいいでしょう? キレイだし優しいし、背もちょこっと高めで、スラッとしてらっしゃるし。おまけに、癒し系の美声までお持ちなんだもの。どこをどう比べたって、私より藤華さんの方が、お嫁さんにはふさわしいよね?」


「フゥム……。まあのぅ。藤華も稚児の頃より見てきてはおるが……。なかなかの美姫に成長したものじゃと、日頃より感心しておることは間違いないがの」


「でしょでしょっ? じゃあやっぱり、巫女姫は藤華さんで決まりだよねっ?」


「……フム。決まりなのかのぅ?……何にせよ、我が決めることではないからのぅ。いにしえより、人間が勝手に差し出してきたようなものじゃし」


「……あ。そっか。強い力のある人にしか神様は見えないし、声も聞こえないんだもんね。じゃあ、もしも神様が、過去にも『嫌』って言ったことがあったとしても、ほとんどの場合は誰にも気付かれなかったし、当然、取りやめてももらえなかったってことか……」



 うわ~、どーしよ。

 神様に帝のいるところまで連れてってもらって、『神様は私じゃ嫌だって言ってます!』って伝えようかと思ってたのに。


 ……そっか。


 みんなに神様は見えないし、声も聞こえないんだから。

 私がいくら『神様は嫌がってる』って言い張っても、嘘だと思われるだけなんだ……。



「えーっ? じゃあどーすればいーのぉ? 神様と話せるのが私だけじゃ、どーにもできないじゃなーーーい!」


 大声で嘆いた後。

 私は仰向けに寝転がり、天(この場合は天井だけど)を仰いだ。



 いくら紫黒帝が言い張ろうが、周りの人達が反対してくれれば、ムリヤリ巫女姫にされることなんてまずないだろう……とは思うけど。


 でも万が一。

 紫黒帝の意見が、誰にも反対されなかったら?


 それか。

 どんなに反対したくても、紫黒帝に逆らうのが面倒で、周囲の人達がしぶしぶ受け入れちゃったりしたら……?



 あーっ、ピンチ!

 いよいよ大大大ピンチだわーーーっ!!



 寝転がったまま頭を抱え、体を丸めて右に左に、ゴロンゴロンと大きく揺れる。

 そんな私を、しばらく黙って眺めていた神様は、


「これこれ。そちも異国の姫様なのじゃろう? 今の姿を他の者に見られでもしたら、いかがして体裁をとりつくろうつもりじゃ? 『これでも姫様とは』と、皆に呆れられてしまう前に――ほれほれ、体を起こすのじゃ。そちが巫女姫にならずに済むよう、我も知恵を絞ってやるから。ほれほれ、早う起きるのじゃ」


 そう言って私の上までやってきて、私の頬をツンツンつつく。


「だぁ~ってぇ~。いくら神様が、知恵を絞ってくれるって言っ――……」


 そこでハッと息をのみ。

 私は『えっ!? 知恵を絞る!?』と言いながら体を起こした。

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