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お騒がせ神は神出鬼没

 紫黒帝のことをあれこれ考えていたら、頭が痛くなってきてしまった。

 ……やっぱり、慣れないことはするもんじゃない。


 私、どっちかって言うと、頭より体を使う方が得意だから。

 頭脳労働は、先生に一任したいところなのよね。


 でも、今は先生に頼れる状況じゃないしなぁ。

 やっぱり結局は、自分で考えるしかないってことか……。



 まあともかく、ちょっとの間だけ頭脳労働はお休みしよう。

 紫黒帝の本意がどこにあるかなんて、ひたすら考えていればそのうちわかる――とかって、単純なもんでもないだろうし。


 巫女姫の件だって、そう簡単に『はい、交代~』って進められるような話じゃないでしょ。

 この国のトップが帝でも、独裁政権ってわけじゃないんだから。

 絶対、反対意見だってワラワラ出てくる。


 少なくとも、何日かは議論されるはずよ。

 今すぐ動かなきゃ、ムリヤリ巫女姫にさせられてしまう――ってことは、まずないと思うのよね。



「うん、そーよ! まだまだダイジョーブ。問題ない問題ない」


 自分に言い聞かせるようにつぶやきつつ、うなずいていた時だった。


「フゥン? 何が〝ダイジョーブ〟なのじゃ?」


 耳元で声がし、私はギョッとなって固まった。


 声と話し方で、誰だかはすぐわかった。

 ……けど、現れるたびに驚かされちゃたまったもんじゃない。文句を言ってやらなきゃ!


 私は声のした方を素早く振り返り、思い切り声の主をにらんでやった。


「ちょ――っ!……あ、あなたねえっ? か、神様だかなんだか知らないけど、毎回毎回断りもなく、急に現れたり消えたりしないでくれるっ!? 今だってビックリしすぎて、心臓止まるかと思ったじゃない!」



 ――そう。

 声の主の正体は、この国の神様。

 私が紫黒帝に目をつけられる原因になった、お騒がせの神様だ。


 紫黒帝が私にあーだこーだ言ってた時は、まだ近くでフーワフーワ浮かんで、ニヤニヤ笑いながら高みの見物してたクセに。

 紫黒帝の命によって私が囚えられた頃には、どこかに消えちゃってたのよね。



 ……まったく!


 私にだけ神様が見えてるってことがバレさえしなければ、こんな大事にはなってなかったはずなのに。

 この神様さえ気まぐれに現れたりしなければ、神結儀だって無事終わってたに違いないのにぃいいい……ッ!



 ギリギリと奥歯を噛み締めながら。

 私は『この疫病神』と呪文のように心で繰り返し、神様をにらみ続けた。


「うん? もしやその程度の顔つきで、我に凄んでおるつもりじゃあるまいな? フフッ。無駄じゃ無駄じゃ。我を恐れさせようなどと、千年早いわ」


 余裕の笑みを浮かべつつ、神様はまたフ~ワフ~ワと上昇して行く。

 私は『ダメだ。この神、完全に面白がってる』と思いながら立ち上がり、


「ちょっと! 人が大ピンチに陥ってるってゆーのに、なにノンキに笑ってんのよ!? 元はと言えば、全部あなたのせいでしょおッ!?……だいたい、神様だってんなら、ちゃんと責任取ってくれるんでしょーね!? 不思議な力、たくさん使えるんでしょ!? 自分の仕出かしたことの後始末くらい、してってくれなきゃ困るわよ!」


 ビシッと指差して、文句と注文を付けてやった。

 神様は『ほう?』と感心したような顔をした後、ニヤリと笑って降りてくると。


「やはり、血は争えぬものじゃ。言葉遣いこそ違うが、そうやって我に指図してくるところなぞ、紅華によう似ておるわ」


「えっ?……お母様に?」



 この神、やっぱりお母様と話せたりしたんだ……。


 でも、『血は争えぬ』はわかるにしても、『言葉遣いこそ違う』って……?



 ……あ、そっか!


 そー言えば、お母様って妙な話し方する人だったのよね?(雪緋さんが話してくれたところによると、だけど)


 確か……語尾に『じゃ』付けたりとかし…………て?



「ああッ!?」


 どこかで聞いた語尾だな、と感じた瞬間。

 パッと、目の前にいる神様の顔が浮かんだ。


「そーよ、その語尾! その語尾の付け方、お母様とおんなじだわ! もしかして神様……お母様のマネしてるのっ?」


 意外に思って訊ねると、神様はキョトンとした顔で私を見つめ。

 少し経ってからプッと吹き出し、ケラケラと笑いながら、私の周囲をグルグルと回り出した。


「真似? 我が紅華を真似ておると?……ククッ。どのように考えおったら、その結論に至るのじゃろうな? 我は、人間より遥かに長い時を生きておるのじゃぞ? 紅華誕生の折も、当然、すでにこの世に存在しておったわ。真似るとするならば我ではなく、紅華の方と考えるのが、正しい思考の流れではないかのう?――のう? そうは思わんか、紅華の娘とやらよ?」


「う……っ」



 ……まあ、確かに。


 お母様が幼い頃から神様と話せたとするなら。

 接しているうちに、神様の特徴的な話し方がお母様に伝染してしまった……と考えた方が普通よね……。



「うぅ……。ちょ、ちょっと間違えただけじゃない! そこまでイヤミったらしく、ネチネチと指摘してこなくてもいいでしょっ」


 照れ隠しで言い返す私に対し、神様はどこまでも余裕の笑顔だ。

 バカにされている気がして、最初はひたすらムカついたけど。


 ……不思議なんだよね。

 神様の笑顔を見ているうちに、そこには親しみや懐かしさ、慈しみなどの温かい感情が、にじみ出ているような気がしてきて……。



(考えすぎかな?……でも少なくとも、神様はお母様のこと、嫌ってはいなかった……っぽい?)



 何故だか、すごくホッとして。

 私はこのお騒がせ神様のことを、『少ぉーしだけ、大目に見てあげてもいいかな?』などと思い始めていた。

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