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女官見習いの主張

「と……『取らないで』って……」


 またいきなり、萌黄ちゃんから『ヒスイは藤華様のお気に入り』発言が飛び出し、私は返答に詰まってしまった。


 ここまで強く、そしてしつこく主張してくるということは。


 やはり、彼女の言っていることは真実なんだろうか?

 カイルは藤華さんの『お気に入り』ってことで、間違いないんだろうか?



 ……ううん。

 お気に入りならお気に入りで、べつに構わないんだけど。

 どうしてお気に入りだと、『藤華様のもの』ってことになるんだろう?



「ねえ、萌黄ちゃん? カイ――……翡翠さんが藤華さんのお気に入りだってことは、昨日も確かに聞いたけど。でも……どうして藤華さんのお気に入りは彼女の『もの』なの? 翡翠さんは翡翠さん自身のものでしょう? 誰かの所有物ってことにはならないよね?」


 ストレートに疑問をぶつけると、萌黄ちゃんはぐっと詰まった。

 だけど、すぐに私をギロリとにらみ、


「藤華様のお気に入りとは言いましたけど、〝お気に入り〟ってゆーのは、つまり……お、〝想い人〟ってことです! 藤華様の好きな人には近付いてほしくないんです! そう思っちゃうのは、藤華様の女官見習いとしてトーゼンじゃないですか! だって、だって……藤華様には、ぜったい幸せになってほしいですから!」


 主張を取り消すどころか、さらに強い想いをぶちまけてきた。

 今度は私がぐぐっと詰まり、どう返していいのやら、しばらくためらってしまっていたけど。

 どうにか気持ちを落ち着かせ、自分の考えを伝えるために口を開いた。


「萌黄ちゃんの気持ちはわかった。でも……それは本当のことなの? ホントに翡翠さんは、藤華さんの想い人なの? 彼女が萌黄ちゃんに、ハッキリそうだって言ったの? 萌黄ちゃんの思い違い……ってことはないの?」


「そ――っ、そんなことありません! 思い違いなんてことは……っ」


「……本当に? 絶対に間違いじゃない? 確実に、翡翠さんは藤華さんの想い人なの?」


「そうです! ぜったいそーに決まってます! だって、藤華様はヒスイとお話している時、とってもやわらかな表情をしてらっしゃいますもの! すっごくすっごく、ヒスイのことをシンライしてるショーコです!」


「……う~ん……。信頼してるっていうのと、一人の男性として好きっていうのとは、違うと思うんだけど……」



 そうは言ったものの。


 萌黄ちゃんはまだ幼いし。

 彼女の言う信頼ってものが、恋としての感情から来るものか、頼れる従者に対する感情から来るものか――。

 その微妙な違いが感じ取れなかったとしても、ムリもない気はする。



「えー……っと。でも……藤華さんは神結儀に臨むんでしょう? 神結儀って確か、神と婚姻を結ぶ儀式……ってことだったと思うけど? 生涯の全てを神様に捧げるっていう、誓いを立てる儀式なんだよね?……だとしたら、もし藤華さんが翡翠さんのことを好きでも、どうにもならない恋……ってことにならない?」



 そんな儀式ってものが、正しいと思うかどうかは別にして。

 これから神様と結婚しようっていう人が、他の人に恋してるっていう状況はマズいんじゃないのかな、単純に考えて?



 私の意見を聞いた後、萌黄ちゃんは悲しそうにうつむき、小さな声で『そうです』とつぶやいた。

 そして再び顔を上げ、


「でも、だからこそ……神結儀までは、藤華様のお気持ちを大事にして差し上げたいんです。ヒスイのことが好きだっていうお気持ちを、他の誰にもジャマしてほしくないんです。だから……お二人の仲を裂こうとするおつもりなんでしたら、たとえリナリア姫殿下でいらっしゃいましても、わたしはぜったいにヨウシャしませんから! どんなに高貴な方でいらっしゃいましても、テッテイテキにハイジョさせていただきますから、そのおつもりでいらしてください!」


 まっすぐに私を見つめ、宣戦布告めいた言葉を発した。

 私は一瞬ひるみつつも、即座に気を取り直し。


「萌黄ちゃんの気持ちは、よーくわかった。……でも、悪いけど信じられないよ。藤華さんが翡翠さんのことを好きだなんて。男性として慕ってるなんて。直接、藤華さんから言われたならともかく……私はまだ、完全に信じるわけには行かない」


「そっ、そんな――! わたしがウソをついてるっておっしゃるんですか?」


「嘘だとは思ってないよ。ただ……勘違いしてる可能性の方が大きいんじゃないかって、思ってはいるかな」


「――っ!」


 萌黄ちゃんは悔しそうに唇を噛み、膝の上の拳をギュッと握った。


 しばらくしてから顔を上げ、再び私をまっすぐ見つめると、


「わかりました! 信じてくださらないとおっしゃるんでしたら、わたし……藤華様に直接おたずねしてみます! 『藤華様は、ヒスイのことをお好きなんですよね?』って!」


 『それならどうだ』と言わんばかりに、大きな声で言い放った。

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