表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/251

時を知らせる鐘の音

 護衛役が、雪緋さんからカイルに引き継がれたまではよかったんだけど。


 今朝のことがあるせいか、私とカイルはろくに目を合わせることもできず。

 部屋の中と外とに分かれ、時はいたずらに過ぎて行った。



 ここが現代日本の、たとえば自分の部屋とかだったなら。

 これだけ周りが静かだと、時計の音しか聞こえないとか、そんな状況。


 でも、ここは日本でもなく、ザックスでもない異国だから。

 時計の音の代わりに、鳥の鳴き声だけが妙に大きく聞こえていた。


(う~ん……気まずい。このままゆうげの時間まで、一言も話せないままだったりするのかな?)


 私はなんとなく腕を組んだ後、大きなため息をついた。



 ゆうげまで、あとどれくらいあるんだろう?

 護衛交代してから、感覚的には三十分以上は経ってると思うんだけど……。


 昨日、萌黄ちゃんにゆうげの時間を訊ねたら、


「だいたい、とりの刻辺りです」


 って返事だったから、えぇっと……。


 ……〝とりの刻〟って、何時くらいなんだっけ?

 向こうの世界では、時代劇なんかで聞いたことはあるんだよね。


 確か、時間の区切りは一時間じゃなく、二時間だったような……。

 二時間単位で、なんとかの刻、なんとかの刻――って風に、数えるんだったと思う。


 一日は二十四時間じゃなく、十二時間として考える感じかな?

 それを十二支の順に数えて行けばよかったはず……。



 えーっと、たとえば。

 ゆうげの時間が酉の刻なら、酉の刻は午後六時前後……ってところかな?


 仮に、酉の刻が午後六時だったとしたら。

 十二支の順に数えれば、次は戌の刻ってことになるよね?


 二時間単位で数えるんだから、戌の刻は午後八時でしょ? んで、亥の刻は午後十時、申の刻は午後十二時……。


 でも、普通に考えれば。

 午前零時は子の刻のような気がする。

 そうすると、午前二時は丑の刻で……。


 あ!

 そう言えば、丑の刻参りの丑の刻って、午前二時だか三時頃って聞いたことあるな?


 んん~~~?

 二時だっけ? 三時だっけ?

 それとも私の記憶違いで、どっちでもなかったりする?



 うわ~~~っ、どーしよう?


 萌黄ちゃんに『午前零時って子の刻でいいの? んで、丑の刻は二時?』とかって訊ねたとしても。

 そもそも萌黄ちゃんは、一日を二十四時間として考える時間の数え方なんて知らないんだから、答えられるわけないもんね?


 うぅ~ん……わっかんない!

 子の刻って零時? それとも一時? それともそれとも、もっと別の時刻なの?


 二時間単位で数えるってわかってても、数える最初の時刻――開始時刻が何時だったかが全っ然思い出せないから、今が何時頃になるのかもわかんないよーーーっ!



 お手上げ状態で、頭を抱えてうずくまりそうになった瞬間。

 どこからか鐘の音が聞こえてきて、私はピタリと固まった。


 ゴーン、ゴーンと、一定の間隔で聞こえてくる鐘の音を、なんとなく数えていると。

 八回鳴ったところで、鐘の音は聞こえなくなった。



 ……あれ?

 そう言えばあの鐘の音、ちょこちょこ聞こえてきてたっけ。


 今まで、『風流だなぁ』なんてとぼけた感想抱いてたのみだったけど、もしかしてあの鐘って……。



「ねえ、萌黄ちゃん! 今聞こえてきた鐘の音って何? 何かを知らせる鐘だったりするの?」


 体を起こし、側でちょこんと座っている萌黄ちゃんに訊ねてみる。

 彼女はキョトンとした顔をした後、


「あれは、時刻を知らせる鐘の音です。鐘の音の数で、今が何の刻だか、わかるようになっているんです。今は八つ鳴りましたから、未の刻になったということですね」


「未の刻……」



 えーっと。

 カイルと雪緋さんが交代する時刻がお昼ってことは。

 交代してから、まだそこまで経ってないはずの今は、午後一時……って思っていいのかな?


 ……とすると。

 未の刻は午後一時、次の申の刻は午後三時、酉の刻は午後五時……ってことになるよね?


 ゆうげは酉の刻辺りなんだから、ゆうげの時間は午後五時前後、か……。



 あー、よかった!

 基準がわかれば、後は簡単!


 戌の刻は午後七時、亥の刻は午後九時。

 十二支ではイノシシが十二番目だから、次の十一時で最初の子の刻に戻る……っと。


 そっかー。子の刻は午後十一時からかー。

 午前零時からが子の刻じゃないんだ?


 ハァー、危ない危ない。

 思いっきり間違えるとこだったよ。



「鐘の音って、子の刻だったらひとつ、丑の刻だったらふたつ、寅の刻だったらみっつ……っていう風に増えてくの? 最後の亥の刻は、十二回鐘が鳴るってこと?」


 確認のために、もう一度萌黄ちゃんに訊ねる。

 彼女はコクリとうなずいて、


「はい、そうです。後は、一刻ごとに鼓の音が鳴ります」


「……へ? 一刻ごと?」


「はい。今、未の刻を知らせる鐘が鳴りましたよね? あと少ししたら、鼓の音が聞こえてきます。それが一刻を知らせる音です」


「一刻……。えーっと、それはつまり……?」


「次に聞こえる鼓の音は、未二刻を知らせる音です。その次に聞こえる鼓の音は、未三刻を、その次に聞こえる鼓の音は、未四刻を知らせる音になります。つまり、鐘の音で子から亥までの刻を、鼓の音で、その後の細かい時刻を知らせるようになっています」


「……へ……へぇ~……」


 正直なところ、よくわからなかったけど。

 それ以上のことを聞いても、たぶん、ハッキリとは理解できないような気がしたから、申し訳ないけど流すことにした。



 たぶん……十分単位とか、三十分単位とかを知らせる音は、鐘から鼓に変わる……ってことだと思うんだけど。


 その一刻っていうのが、十分区切りなんだか十五分区切りなんだか、はたまた三十分区切りってことなのか。

 確信は持てないけど、十分ごとに鼓叩くのはめんどくさいし、大変だろうから。

 三十分で一区切り……ってことなんじゃないかなぁ?



 ……ま、まあいっか。


 一生この国にいるわけじゃないんだし。

 二時間ごとに鳴る鐘で、とりあえず、子の刻とかのおおまかな時間は、わかるようになったんだから。



 萌黄ちゃんに不思議そうな顔つきで見つめられる中。

 私はうんうんと深くうなずいて、時間についてのお勉強(?)を早々に切り上げることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ