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超能力者疑惑

 部屋に戻る途中。

 私はまず、ずっと外で待たせてしまっていた雪緋さんに、頭を下げて謝った。

 彼は『そのようなこと……! どうかおやめください』と言いながら首を横に振った。


「御用がお済みになるまでお待ちすることも、私の務めのひとつです。リナリア姫様がお気になさる必要などございません」


「でも……。あんなに長居することになるとは思ってなかったから。露草さんはお話するのもお辛そうだったし、早めに切り上げたかったんだけど……。大丈夫だからって、何度も引き止められちゃったんだ。……ホントに、大丈夫だったのかな? 後で具合悪くなっちゃったりしたら、私のせいだよね?」



 露草さんとお話するのが、苦痛だったってわけじゃないけど。

 ひとつ話をするたびに休んで、またひとつ話すたびに休んで……って、ずっとそんな感じだったから。


 途中で具合が悪くなってしまったらどうしようって、そればっかり気になって。

 正直なところ、心から楽しむことはできなかったんだよね……。



「お話したいとおっしゃったのは露草様なのですから。もし、お加減が悪くなられてしまったとしても、リナリア姫殿下のせいであるはずがありません。ご心配には及びませんよ」


 今までずっと黙ったままだった萌黄ちゃんが、ようやく口を開いてくれた。

 私はホッとしながらうなずき、


「うん。ありがとう、萌黄ちゃん。……でも本当に、体調崩されたりしなければいいんだけど……」


 どうしてもそれだけが気掛かりで。

 私は香華殿のある方角を何度も振り返った。


 香華殿から私の泊まっている部屋までは、結構離れている。

 万が一何かあったとしても、駆け付けるまでに数分は掛かってしまうし……。


「大丈夫です! ご心配のしすぎですよ、リナリア姫殿下。千草もついてますし、隣の部屋では、数人の女官が控えているんですから。何の問題もございません!」


 両拳をギュッと握って力説してくれる萌黄ちゃんが、なんだか微笑ましくて。

 思わずクスッと笑ってしまった。


「な、なんです? どーして笑っていらっしゃるんですか!?」


 ムッとしたように軽くにらまれ、私は慌てて首を振る。


「う、ううんっ。ごめんね、笑っちゃって。……でも、香華殿ではずっと大人しかったのに、表に出たとたん、いつもの調子に戻ったでしょう? どーしてかなーって、ちょこっと気になって」


「――っ!……そ、それは……」


 萌黄ちゃんはバツが悪そうに目をそらし、組み合わせた両手を、しばらく落ち着きなく握ったり離したりしていた。

 だけど、思わせぶりな上目遣いで私をチラッと窺うと。


「あのぅ……。実はわたし、露草様が……えっと……こ、怖く思える時が……ございまして……」


「えっ!? 露草さんが怖い?」


 意外な言葉に、つい大声を上げてしまった。

 萌黄ちゃんは焦ったように手をワタワタさせ、再び私を軽くにらんだ。


「ですからっ、リナリア姫殿下! お声を……っ、お声をもう少し小さくしてくださいっ」


「あっ。ご、ごめん……。あんなに穏やかな露草さんが怖いなんて、ちょっとビックリしちゃって……」


 私は慌てて両手で口元を隠し、周囲をキョロキョロ窺った。



 ……うん、大丈夫。

 他の人の姿は見当たらない。



「ちっ、違うんです! 怖いってゆーのは、そーゆー意味ではなく……。え、と……」


 萌黄ちゃんは困ったようにうつむいて、その場でピタリと立ち止まった。

 私と雪緋さんも、つられて足を止める。


「萌黄ちゃん……?」


 どう言ったら伝わるのか、必死に考えている様子の萌黄ちゃんを前に、私と雪緋さんはそっと顔を見合わせて首をかしげた。



 ……仕方ない。

 彼女には、納得行くまで考えてもらうことにしよう。


 どうせ今日は、やることもなくて暇なんだし。

 いくらだって待ってあげられるってものよ。



 ――なんて、考えていたんだけど。

 思ったよりも早く、萌黄ちゃんは顔を上げて口を開いた。


「怖いっていうのは、あの……違うんです! ほんとに、そーゆー意味ではなく……。もののけが怖いとか、怒られるのが怖いとか、そーゆー怖さではなくて。ただ、あの……わ、わたしが何を考えてるのか、とか……すぐにわかってしまうよーな……。私の心が、すべてわかってらっしゃるんじゃないかって……そんな感じの……怖さが、あって……」


「え?……何を考えてるかが、わかる……?」


 瞬間、ヒヤリとした。

 寒くもないのに、一気に体温が下がってしまったかのような感覚が――……。



 え……っと……。

 それはつまり、心が読める……ってこと?


 露草さんは、超能力者なの……?



 ……でも、それって……。


 そういう不思議な力は、巫女姫である藤華さんにこそ、そなわっているものじゃないの?

 だからこそお母様は、藤華さんを次の巫女姫に選んだんじゃ……ないの?



 ……あ……。


 でも、そう言えば……。

 藤華さんご自身は、『わたくしの能力は、〝人ならざるものの気配を感じる〟こと』……確か、それだけだって言ってた。


 それってつまり、ちょこっと霊感がある……って、そんな感じの能力ってことよね?


 ちょこっと霊感があるのと、人の心が読めるのとでは……どっちがより強い能力を持ってるってことになるんだろう?



 ……やっぱり、人の心を読める方がすごそうだけど……。



 でも、だとすると、どういうことになるの?

 藤華さんより露草さんの方が、巫女姫にはふさわしい……ってこと?



 ……んん?

 じゃあ、お母様はどうして――。



 あ、そっか。

 藤華さん、こうも言ってたっけ。



『巫女姫に選ばれる条件は、〝不思議な力がそなわっているかどうか〟のみではございません。もちろん、そなえているに越したことはないのですけれど、極端なところを申しますと、まったくなくとも構わないのです』



 ……つまり、特別な力を持ってるってこと以外の部分では、露草さんより藤華さんの方が、巫女姫にはふさわしかったってこと?



 ……うん。

 そっか。そーだよね。


 どんなに強い力がそなわっていらしたとしても、露草さんはご病気なんだし。

 藤華さんのご様子から察するに、巫女姫のお務めってメチャクチャ大変みたいだから、露草さんにこなせるわけないもんね。



「なるほど、そーゆーことね!」


 どうにか納得できる結論に達し、私はパン! と両手を打ち鳴らした。

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