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良い人アピール?

 露草さんが私を引き止めてまで語ってくれたことは。

 〝帝がいかにお優しく、愛情溢れた方であるか〟について。――正直なところ、これに尽きた。


 理由がどのようなものであれ。

 帝が正室に選んでくれたことを、露草さんはとても光栄に思っているのだそうだ。



 彼女は休み休みになりながらも、以下のようなことを熱く語った。



 忙しい中でも、帝は足しげく香華殿に通い、愛情深く接してくれている。


 ほとんど動けない自分のために、四季折々の花を贈ってくれたり、楽しい話を聞かせてくれたりする。


 珍しい外国の食物や美味しい食物が手に入るたびに、自分に分け与えてくれたりもする。



 とにかく、帝は常に露草さんのことを気遣い、大切にし、でき得る限りのことをしてくれているのだと――それだけはどうしても知っておいてほしいのだと、切々と訴えてきた。



 話に耳を傾けている間。

 何故か私は、妙な居心地の悪さを感じ、落ち着かなかった。



 落ち着かないと言うか、腑に落ちないと言うか……。

 う~ん……。うまく説明できないんだけど。


 露草さんは、どうしてここまで熱心に、帝がどれだけ良い人かってことを、私にアピールしてくるんだろう?


 ――そんな疑問が、ずーっと心の中にあって。

 聞いている間、引きつった笑顔になってしまっていたんだよね。



 ……だって、おかしくない?


 露草さんとは、今日初めてお会いしたのに。

 それなのに、ここまで〝帝がどれだけ良い人か〟について熱弁してくるってことは……。


 まるで私が、帝をよく思っていないんじゃないかって……そんな風に、露草さんに誤解されてるみたいじゃない?


 そういう誤解でもしていない限り。

 会ってすぐに、〝帝は良い人〟アピールをしてくることなんて、ないんじゃないかと思うんだけど……。



 まあ、最初にこちらから、『帝ってどういう人なんですか?』って質問をしていたなら、熱弁されるのもわかる気はするんだけど。

 訊いてもいないのに、ここまで強くアピールしてくるものかなぁ?



 ……あ。

 もしかして、帝から『良い人アピールしておいてくれ』って、頼まれてるとか?


 帝って、お母様のこと大好きだったっぽいもんね。

 その大好きなお母様の娘である私に、良い人だと思われたくて……嫌われたくなくて、いろいろ良い情報を伝えておくようにって、露草さんに頼んでおいたとか――……。



 ……なーんて。

 考えすぎかなぁ?

 ただ単に、ノロケたい気分だっただけなのかな?


 露草さんにとっては、今は帝が全てで。

 毎日が、帝中心の生活なんだろうし。


 話題が帝のことばかりになってしまうのも、ムリのないことなのかも……。



「申し訳、ございません……リナリア姫……殿下……。わたくし、話しすぎて……しまいました、かしら……?」


 ふいに。

 心配そうに訊ねられ、私は慌てて首を横に振った。


「いっ、いいえそんな――っ、そんなことありませんよっ? でも、あの……っ、露草さんがどれだけ帝のことをお好きなのかは、とてもよくわかりました!」


「……まあ……。いやですわ。わたくしったら……」


 『恥ずかしい』と小さな声でつぶやいた露草さんの頬が、ほんのりとピンク色に染まる。


 そんな様子からも、帝への強い想いが伝わってきて。

 私は『可愛いなぁ』なんて思いながら、フッと笑みをこぼしてしまった。



「でも、あの……。リナリア、姫殿下に……お会い……できて……嬉しゅう……ございましたわ。……帝も、あなた様に……お会いできる……ことを……とても、楽しみに……していらっしゃい、ました……し……」


「えっ?……そーなんですか?」


「ええ。……お出でくださる、と……お返事を……いただけたと……。瞳を、輝かせて……わたくしに……伝えて、くださいました……。本当に……とても……お幸せそう、で……いらっしゃい、ました」


「そ……、そーなん、ですか……」


 そこまで喜んでくれていたなんてと、今度は私の方が頬を熱くする番だった。



 私はあくまでお父様の代理。

 お父様の予定がギッシリ詰まってさえいなかったら、私がこの国に来ることはなかったんだよね。


 けど……帝はお父様のことがお嫌い? みたいだし。

 もしかしたら……ううん、もしかしなくても。

 お父様より、私が来るってわかった時の方が、数倍嬉しかったのかな……?



 チラッと、そんな考えが頭の隅をかすめたものの。

 お父様に申し訳なくて、すぐに頭を振って追い出した。


「リナ、リア……姫殿……下?」


 何か問いたげな露草さんの声に、私は曖昧な笑みを浮かべてごまかすと。


「それより、えっと……リナリア姫殿下って、長ったらしくて言いにくくありませんか? もしよろしければ、リアって呼んでいただきたいんですけど――」


 露草さんが私の名を呼ぶたび、辛そうだなと気になってしまっていたので、思い切ってお願いしてみた。


 彼女は大きく目を見開き、初めのうちは『そんな……。とんでもないことですわ』と恐縮していたけれど。

 しつこくお願いしていたら、最終的には『それでは……リア様、と』と、はにかみながら受け入れてくれた。



 それからまたしばらく、他愛ない話を交わし。

 切りの良いところでおいとまさせてもらって、私達は香華殿を後にした。

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