嘘
「貴方がサンプルとして非常に優秀だからですよ。勤勉さに加え、知能も身体能力も高い。まさに理想的です。人類の未来のために模範データを提供してくれるものと信じております。そのための投資は惜しむべきではないと判断しました」
芝居がかった仕草でスラスラと美辞麗句を並べ立てる。だが、その誉め言葉に素直に喜ぶ気にはなれない。その言葉すべてが、耳の中を素通りしていくように感じていた。
「嘘だ……あんた達は、ただ俺を隔離したいだけだろう」
セルパンの流暢な言葉が、ぴたりと止んだ。俺に向ける視線はにこやかだが、その中に微笑みの感情らしきものをまるで感じない。
何故なら、サンプリングなど嘘だとわかっているからだ。
EDENの人口は、サンプルにしては多すぎる。たかがサンプル協力に対する謝礼も、過剰と言える。そして、たかがサンプルなのに、戻ってきた者が一人もいない。
奇妙という言葉を通り越している。
何より、EDENとの接続は不可能と言っていたのに、俺は両親の存在を検知することができた。
両親は昔から多忙だったため、互いの状態を知らせる目的で、脳内のチップから発する電波を拾う機器を作っていた。せいぜい覚醒状態か否かぐらいしか検知出来ないが、無事を確認できていた。
両親のチップはEDENに行って以降もずっと睡眠状態を示しているが、本来なら検知できないはずだ。
何が起こっているのか気になった俺は、管理局にオフラインワーカーとして入り込み、両親の手がかりを探した。そして、とあるデータ管理室で、「ENDOH 『Working』」という表記を見た。
両親は、既にEDENを出たのか。何故連絡一つ寄越さないのか。
逃げるようにその場を去った直後に、手元に届いたEDENへの招待状。
あれを見てしまった口封じにしか、思えなかった。
セルパンは、ただじっと俺を見つめていた。その瞳の奥ではいったいどんな理論が展開されているのか、知る由もないほど無機質な瞳だ。