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LIFE on LINE  作者: 真鳥カノ
4/9

実験

「ただ、ご同意前に一つご承知願いたい旨がございます」


 セルパンは少しだけ眉を下げ、声をすぼめて告げた。


「我々が提供するこのシステムは、国家も承認済みの臨床実験という側面がございます」


 それは周知のことだ。

 EDENは、開始当初は医療用のオンラインサービスだった。その目的は二つ。一つは難病や余命僅かの患者のターミナルケア。肉体の苦痛を失くし、快楽のみを得られるのだから、もっともな利用目的だろう。

 もう一つは、リリース当時未発達な部分も多かったAIの発達を目指した、思考データのサンプリングだった。住人の自由な生活を送る中で得られる思考パターン、脳波、分泌物……様々なデータを得る事で、AIはより人間に近い思考を取り込んでいったのだ。

 大陸が統一されて以降、人々は出産時に産院で脳に微細なチップを埋め込まれ、すべてのパーソナルデータがそこに随時書き込まれていく。それを計測するということだった。


 俺の両親はその研究者だったがゆえに、進んで身を投じた。最初期の被検体だったのだ。


 その後は金持ちたちの永久バカンスとして普及していったが、サンプリング自体は今も全ての住人に対して行われているらしい。

 俺に対しても、常に行動パターンや肉体状況、脳波などが管理されると説明した。必ず人類の未来を切り拓くために役立てる、と。


 別にそんなことは厭わない。俺が気がかりなのは、一つだ。


「EDENに行った後、いつ帰れますか?」


 セルパンは、初めて動きを止めた。貼りついたような笑顔から、急に口元が締まり、眉間に皺が寄って行った。


「帰るとは……このオフライン上に、ということでしょうか?」

「そうです」

「そんな必要がどこに?」


 そう訊ねる顔には、迷いは微塵もなかった。自分たちの提供する楽園こそが最適解だと、信じて疑わない顔だ。


「俺には妹がいます。体が弱く、傍についていないと……」

「ユナ・エンドウ様ですね。確か生まれつき心臓に疾患を抱えているとか。ですが、一度ご両親を見送られた貴方ならばご存じのはず。大事なご家族を取り上げる形になるのですから、残された親族にも十分な保証をする事になっておりますので、どうかご安心を」

「保証金なんて、あっという間に底をつく。それに金の問題だけじゃないんだ。そのサンプルとやらの協力なら惜しまないから、月に一度でいい、妹に会わせてくれ」

「それは、出来かねます」


 ぴしゃりと、戸を閉ざすように言った。


「この実験は長期間でのサンプリングを目的としております。1ヶ月程度で途切れては、正しい計測ができません。それにEDENとオフラインでは接続が不可能……面会も適いません」


 取り付く島もない物言いだ。だがセルパンは僅かに思考し、手元に呼び出したデジタルキーボードを操作した。すると、デスクに表示された同意書の文面が変化した。


「では条件を変更しましょう。我々が、貴方の代わりにユナ様の手術費、ドナーの提供、その後の継続的治療および生活手当すべてを手配します。いかがです? 貴方がEDEN行きにご同意下されば、それも可能です」

 

 どうあっても、俺をEDENへ連れて行きたいらしい。俺自身、ここまでのこのこ来たからには、ただでは帰れないことは承知している。それでも、この待遇は理解できない。


「どうして……そうまでして俺をEDENに入れようとするんです?」


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