EDEN管理局
透き通ったガラスのドアが、自動で左右に開いた。
その向こうに広がるのは飾りなど一つもついていないにも拘わらず、きらびやかに輝くエントランス。壁も床もピカピカに磨き上げられ、まるで鏡のようだ。
このように完璧に磨き上げるのも、AIによって管理されたロボットの仕事だ。人間には到底できない。
眩しさに目がくらんでいると、どこからか男の声が響いてきた。
「ようこそ。カイ・エンドウ様。EDEN管理局へ!」
その男は、エントランスの奥に立っていた。詰襟のスーツを着込み、髪をきっちりとまとめたその男は、恭しく礼をして大仰に両手を広げ、俺の方へと歩み寄った。
差し出された右手をおそるおそる握ると、倍以上の力で握り返された。
「私は管理局員、貴方様の担当をさせて頂きます『セルパン』と申します」
セルパンは、にこやかに告げた。貼りついたような笑顔にどこかうすら寒さを感じた。
「こちらへどうぞ」
セルパンは傍にある壁を指した。俺がその前に立つと、壁はひとりでに大きな口を開けた。
中に入ると小さなデスクとスツールが一人分用意されていた。促されるままそこに座ると、デスクの表面に小さな文字が何行にもわたって浮かび上がってきた。
その文面のタイトルには『E-D-E-N 入場同意書』と書かれている。
「では早速、ご説明させていただきます」
壁のディスプレイにEDENの資料を表示させ、セルパンは話し始めた。
「EDENとは、この国土減少期における居住区確保の問題を解決する画期的システム。居住スペースをオンライン上の仮想空間に移し、物理的制限を取り払うシステムでございます。システムログイン後はどこに入居されても結構です。その後のカスタマイズもご自由に。海の見える家でも、緑豊かな山小屋でも、喧噪と交流の多い都市でも……何をどうされようと、自由です。ここは、無限の夢を叶える場所ですから」
旧世紀にあったという戯曲の真似事のように、セルパンは大きな仕草で語った。大きな夢想を語られても、俺にとって絵空事のようで、まるで現実味が湧かない。
だがセルパンは、そんな様子などお構いなしだった。
「ログイン中は脳と体の各神経を遮断いたします。理由といたしまして、お体を保護するためです。無覚醒状態においても、体だけが動くといった事例もあります。それで事故に発展するケースも。そのような不測の事態を防ぐための措置とお考え頂ければと思います」
つまりログインしてしまえば、この体の生殺与奪の権は、すべてこの管理局なる者たちに委ねなければならないというわけだ。