E-D-E-N
新西暦128年
度重なる大災害によって、世界はその姿を徐々に海の底へと消していった。いまや人類に残された大地はかつての70%となり、未だ縮小を続けている。
人類は国境を撤廃し、居住、農業、工業等、残された地球全土を大規模区画整理し、すべての生活を管理することでかろうじて生き延びていた。
そんな人類に、地を這うことを止め、仮想の国で暮らすことを提唱する者たちがいた。
その名は、EDEN――
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―仮想都市EDEN―
それは、誰もが望みを叶える事が出来る夢の都市だ。”夢”と呼ぶことには2つの意味がある。
一つは、そこが楽園と呼ばれる場所であること。そこではあらゆる労働・苦役・義務そして飢餓からも解放されるばかりか、望むものはすべて与えられる。
人々は、ただ己の望むままに暮らすことが許されているのだ。
もう一つは、そこが地上のどこにも存在しないということ。この世界での富も名声も、憎しみも喜びもすべて肉体と共に捨て去った果てにたどり着ける、オンライン上にのみ存在する楽園。それが”夢”と呼ばれる所以だ。
物理的な制限を一つも受けないデータ上の都市だからこそ、無限の望みを、無限に叶える事が出来る。それがこの楽園の謳い文句だ。
だが理想郷の門は、全ての人には開かれない。そこへ行くには、巨額の金か、輝かしい実績が必要だ。選ばれた民だけが受け入れられる、それが世の常だ。
EDENに迎え入れられる。それだけで、今の世では天国行きが確定したということを指す。彼らは自らの労働義務などはすべてAIに任せ、オンライン上の世界で悠々自適に暮らす。その人口は、いまや小国家に並ぶほどだ。
そして、この電子機器とAIによって労働の6割以上が管理され、オートメーション化が進んだこの時代において未だに肉体労働にいそしむ俺のようなオフラインワーカーは、いまや機械以下の扱いだった。
だから、この時が来ることをずっと望んでいた。
見覚えのあるシンボルマークが描かれたメッセージカードが贈られてきたこの時だ。
俺は、二つ折りになったそのカードをそっと開いてみた。
するとカードに記録された文字と画像の電子データが立体となってふわりと飛び出した。その文字は、こう躍っていた。
『Welcome to EDEN! to Kai Endoh』
カードを持つ手と同様に、心まで震えた。ようやく、この時が来たのだーー!