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18 おかえり、ただいま。③


 ノヴァ様はどうやら、一足先にこちらの世界にやってきて、母さんにこれまでのことを説明してくれたらしい。

 ちなみに今日は修学旅行に出掛けた、その当日。ちょうど今頃、飛行機の事故が起きている時間なのだとか。

 飛行機に乗っている僕は確かに僕だけど、言わば抜け殻のような状態らしい。僕が過去にとった行動そのままに動いているそうだ。

 なんだかノヴァ様の話は複雑すぎてよくわからないけど、とにかく辻褄が合うように調整されているみたいだから、今ここにいる僕は家族以外とは顔を合わせてはいけないそうだ。

 僕はあの異世界に行ってから普通に半年近く経過しているから、今は過去に来ていることになる。

 異世界からこちらに帰ったみんなも、基本的にはこの時間帯に戻ってくるみたいだ。異世界に召喚されたタイミングが分岐点、ということなのかな。


「壱弦。異世界でもちゃんとご飯は食べていた?」

 母さんからの問い掛けは案の定というかなんというか、食事の心配だった。

「うん。ちゃんと食べてたよ」

「私からすれば、今朝も普通に壱弦を見送ったんだけどね。少し背が伸びたかしら?」

「どうかな。測ってないけど」

「でも、良い時間を過ごせたのね」

 母さんはずっとにこにこしていて、嬉しそうだ。

「アイネちゃんと結婚するんでしょう?結婚式はどっちでやるのかしら。楽しみだわ〜」

「母さん……」

 改めて、母さんののんびり具合がすごいなあと思った。

 というか、何故根拠もなく当たり前のように異世界を自分自身も含めて行き来出来ると思っているのか。結構なことだよ、これ。

「壱弦。その魔石に魔力をためれば、まあ一年に一度程度は往復出来るだろう」

 ノヴァ様がこともなげに話す。

「そうなんですか?」

「ああ。その為には毎日大量に魔力を魔石に入れる必要がある。だが、チートはなくて良いのだろう?」

 満足げにノヴァ様は微笑むと、この世界に転移する時に手に持っていた、あの空っぽになったように感じた魔石をおもむろに持ち上げた。どうやら空の魔石に魔力を入れてくれたようだ。

「今回だけ、サービスだ。あちらで生きていくと決めたのなら、帰りの分くらいはな。……ああ、通信の魔石も手紙も通じるし届くから、安心すると良い。勿論、家族以外にはバレないようにな」

「ノヴァ様……」

 本当に何から何まで、至れり尽くせりという感じで。

 精霊さんがこっそり教えてくれたように、何一つとして僕にとって悪いことにはなっていない。

 ここには精霊さんは見当たらないのに、『ぼくたちの言ったとおりでしょ?』と可愛らしく悪戯げに笑っているように感じた。

「しばらくゆっくりしてから帰って来ると良い。お前は我ら精霊の愛し子。愛し子が幸せに過ごしてくれることが、長く無為に生きる精霊たちの唯一の癒しだ。えこひいきだろうが何だろうが、好きなものは好きだからな」

 そう言うと、ノヴァ様はぱっと消えた。恐らく、元の世界へと先に帰ったのだろう。

 ノヴァ様の言葉に甘えて、しばらく実家でゆっくり過ごすことにした。




 色々なことをのんびり話しながら過ごしていると、ついにテレビのニュースで飛行機事故のことが取り上げられた。

 自分が乗っている飛行機の話なんだよなあと思うと、何とも不思議な感覚だ。

 今回だけが特例で僕から見て過去の世界に来ているわけだけど、ノヴァ様が言うには次に訪れる時には歪みは修正されて、同じ時間を進んでいくそうだ。

 一応今事故にあっている僕はこの後病院へ運ばれ、入院し、怪我が治ってから退院して、そのまま高校は行かずに自主退学して海外へと行った……という流れに、数ヶ月掛けてなるらしい。

 そうすれば一年に一回、実家に異世界から帰って来ても堂々と出歩ける。

 この後異世界へと帰った時点で僕は異世界からの客人ではなく、きちんと住人になる。そうなれば時間の流れはどちらの世界も同一だから、ちゃんと年も重ねていけるそうだ。

 ノヴァ様いわく、今回はイレギュラーだからちょっと過去に来ているけれど、こんなことは二度とないそうだ。まあ当然と言えばそうだよね。


 と、玄関の方からすごい音がした。勢い良く扉を開けて、バタバタと走ってくる音。

「母さん!兄貴の乗った飛行機が!」

 あ、弟だ。

 リビングに入ってきた弟は息も絶え絶えといった様子で、僕を見るととても驚いた顔をした。

「ギャー!!兄貴のオバケー!!??」

「いや、生きてるから」

 真っ青になって絶叫した弟に、思わず笑ってしまった。

「アイネ。弟の遥都」

「ハルトくん。こんにちは」

「誰!?目が潰れそうなほどの美人なんだけど!?」

 とりあえず、僕の弟は動揺が抜けないようだ。


 その後父さんもニュースを見たのか早く帰ってきて、僕を見るなり、

「ああ……壱弦が……幽霊に……」

 と絶望した表情で呟いていた。

 変なところが似ている父子だよね。



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