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16 妖精の国⑤


「あ、やっと帰ってきたわね。遅いわよ!」

 散歩を終えて椿の家へと戻ってくるなり、リディちゃんはお怒りの様子だった。正確な時間はどのくらいだったかわからないけど、結構ゆっくりしてしまったからなあ。

「ごめんね。湖が綺麗だったから、長居しちゃったの」

 アイネがリディちゃんにそう話す。僕はまあ、何ていったらいいものか。

 とはいえ、お気に入りであるアイネの言葉にリディちゃんはあっさり機嫌を直す。湖を褒められて嬉しい、というのもあるかもしれないけど。

「気に入ったのなら、また来ると良いわ!アイネは顔パスにしてあげる。イヅルもついでにね」

「ありがとう」

「ありがとう、リディちゃん」

 ついででもなんでも、立ち入り許可がもらえたのは喜ばしい。また来ようとか言っておきながら来れない、とか悲しいしね。

 でもここに来る為には、転移魔法を覚えないといけないかな。いちいちリディちゃんやノヴァ様を呼んで連れてきてもらう、っていうのも申し訳ないし、大変だ。

「おかえり。ゆっくり出来たかしら」

 頼子さんが心配そうに声を掛けてくれる。

 変なタイミングで散歩に行ったし、反応も気掛かりだっただろうし、なんだか申し訳ない。

「はい。もう大丈夫です。ありがとうございます」

 きっと頼子さんは、良かれと思って教えてくれたのだろう。

 いつまでも選ばないままではいられないはずだから。

「壱弦くんは、お抹茶も食べられる?」

「はい」

「そう、良かったわ。今日はリディちゃんがお友達を連れてくるって言っていたから、張り切って色々作っていたのよ。いっぱい食べて、ゆっくりしていってね」

 にこにこしている頼子さんに促されて見てみると、ちゃぶ台の上には色々なお菓子が置いてあった。僕たちが散歩に行っている間に準備してくれたようだ。

 抹茶のプリンやロールケーキなどの冷たいものが出してあるから、冷蔵庫で冷やしていてくれたのだろう。リリくんが頼子さんのお手伝いをして、僕とアイネの分のお菓子も色々と出してくれている。

 既にノヴァ様は食べていて、いくつか空のお皿がある。早いな。

 僕はノヴァ様の隣に座る。ノヴァ様は僕を見ると、柔らかく微笑んだ。

「お前はオレに、必要以上に聞かず、求めないな。話さないことに、どうしてだと問い詰めることもしない」

「そうでもないですよ。……ノヴァ様が僕に対して心を砕いてくださること、よく知っているつもりです」

 きっとノヴァ様は僕が考えているとおり、僕の知らないたくさんのことを知っていて、言わずにいることも山ほどあるのだろう。けれど、それで良かった。

 ノヴァ様は精霊王様なのだから。

「うむ。だからこそ、壱弦は我らの愛し子なのだ」

 珍しく、ノヴァ様に頭を撫でられる。

 こういう時、ノヴァ様は僕よりもずっと長く生きている存在なんだなと実感する。包容力というか、器が大きいというか。子供や孫のように思ってくれているのかな、と思う。

「お前がその心を穢さない限り、我ら精霊はいつでも見守り、力になろう」

「……はい。ありがとうございます」

 もしかしたら精霊さんは、あちらの世界でいう神様のような存在かもしれない。

 見えないけれど側にいて、見守ってくれている。願いごとをしたり、それが叶ったり、あるいはバチが当たったり。それでも、いつでも寄り添ってくれている。

 僕はノヴァ様に、精霊さんに、恥じない自分でありたいと思う。


「イチャイチャしてんじゃないわよ」

 ……リディちゃん、相変わらず辛辣だなあ。僕とノヴァ様が仲良く話しているのが何でか気に障ったらしい。

 アイネがお菓子に夢中で構ってくれないからかな。

「愛し子と仲良くして何が悪い。印をつけた相手に十年近く逃げられ続けたお前とは違うんだよ」

 ノヴァ様、それもしかしなくてもアイネのことだよね。確実に火に油だよ。

「あんたなんかにヨリコのお菓子は勿体ないわ!帰りなさいよ!」

「嫌だ。全種類食べる」

「何で精霊王のくせに意地汚いのよ!」

 この二人はまた低レベルな言い争いをはじめてしまった。なんかもう、きっかけは何でも良いんだね。

「おかわりもあるから、喧嘩しないで食べてね」

 頼子さんが宥めるけど、多分そうじゃない。

「イヅル、抹茶のわらび餅がめちゃくちゃ美味しい」

 そしてアイネはマイペースだった。この喧騒の中平然と食べているし、きらきらした眼差しで僕に感想を伝えてくる。

「あら、それならレシピ持って帰る?」

「えっ良いんですか?」

「勿論よ、嬉しいわ」

 ノヴァ様とリディちゃんは飽きずに言い争いを続けていて、アイネと頼子さんはお菓子の話をまったり話していて。お手伝いが終わったリリくんと僕はのんびり話しながら、色々なお菓子を食べる。なんとも平和というか。

 アイネがレシピを教えてもらっているということは、辺境の街に帰っても抹茶のお菓子が食べられるということか。嬉しいなあ。

 日本茶も可能ならお店で取り寄せてもらおうかな。お茶漬けとかも久しぶりに食べたくなってきた。

 梅干しのお茶漬けも良いし、鮭茶漬けも捨てがたい。お茶漬け味のポーションを作るのも良いかもしれない。

 よし、帰ったら早速聞いてみよう。



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