12 異世界でお馴染みのアレ①
「出来た……!」
そう、ついに完成した。体力を徐々に回復するポーションが。
体力回復ポーション(一定時間徐々に回復)
品質 A
体力をゆっくり回復するポーション
効果時間は一時間
総合回復量は通常の品質Aと同等
しじみのお味噌汁味
鑑定結果もばっちり。ポーションを煮詰めている時の良い香りで、成功した予感はあった。ドキドキしながら鑑定したけど、やっぱり無事に完成していた。
ここまで来るのは長かった。
体力回復系の薬草を掛け合わせたり、敢えていくつか魔力回復など他の効能の薬草を入れてみたり、試行錯誤の連続で。時間を見つけては実験を繰り返したものの、惨敗に次ぐ惨敗。いくら錬金術のスキルがカンストしていようが、たぶんそれは酷い失敗はしない、ということなのだ。
その証拠に、品質Cのポーションが山のようにある。
まあ簡単に全部作れてしまっては、ポーション作りもきっと楽しくない。こうして試行錯誤しながら出来の良いものを作っていきたい。
とはいえ、出来上がったこの体力を徐々に回復するポーション、端的に言えばコストがやばい。
品質Aの体力回復系の薬草を使っているのだけど、普通の品質Aのポーションを作るのに薬草は一つで済むのに、このポーションは五種類も使っている。入れる薬草の量は単純計算で五倍、価格は五倍以上になるのに、出来上がるポーションの量は変わらない。
何というか、価格がえげつないことになりそうだ。
ちなみにどんな薬草を掛け合わせても上手くいかなかったこれが完成したのは、偶然の産物だ。
「…………」
うん。ちょっと他人には言えない。レシピは秘匿決定だ。
まあこんなコストがやばいもの、レシピを公開したところで作ろうと思う人がいるとは思えないけど。
一応、本当にこのレシピで作れるのか検証しよう。
偶然が重なって出来たものだし、もう一度同じ材料で作ってみて、きちんと完成するかどうかの確認は必要だ。
使用する薬草は五種類。すべて品質Aのものだ。そして体力回復ポーションを作るのに向いている、という鑑定結果のもの。
内容は、ラチカ草、モリリモ草、キムキ草、チヨマ草、陽光草。前の四つはまだ値段が高くても入手出来るものだ。けれど問題は最後の一つ、陽光草だ。
これは精霊さんに貰ったもので、辺境の街でお店を探したり、取り寄せてもらおうとしても手に入らなかった。精霊さんに曰く、太陽に最も近い山頂で五十年ほど太陽光をたっぷり浴びた薬草……らしい。
籠にいくつも入っていたから、つい使っちゃったんだけど。
売っているのは見たことなくて、アイネに陽光草のことをちらっと聞いてみたところ、「二百十五年前に絶滅したって言われてる薬草のこと?」と言われた。
なのでその稀少価値は、恐らく金額に換算するのは難しいだろう。
うん。でもあれだ、レシピを公開しなければいい。多少高くても領主様なら買ってくれそうだし、陽光草を使ったのは黙っておこう。
ちなみにその陽光草、鑑定するとこうだ。
陽光草
品質 A
体力回復ポーションによく使われる薬草
長期間太陽の光を浴びた貴重な薬草
葉を噛むと疲労回復効果がある
こういった感じ。びっくりするほど貴重なものだったけど。
ポーションを作る前に試しに葉を一枚取って噛んでみたら、味はなかった。
この五種類の薬草を、他のポーションを作る時と同じように、よく洗って乾燥させた後に魔力を流しながら煮詰める。
そしてその煮詰めている途中で、お椀一杯分のしじみのお味噌汁を投入する。
……そう。薬草でもポーションでもない、普通のしじみのお味噌汁だ。
発端は、単純だ。
お昼ご飯に食べようと思っていたしじみのお味噌汁を、誤って煮詰め途中のポーションの中に落とした。以上である。
あの時ほど、しじみの殻を先に全部取っておくタイプで良かった、と思ったことはない。
そして捨てるのも勿体ないし、とりあえず最後まで煮詰めてみようと思った自分、グッジョブだ。まさに結果オーライとはこのこと。
「うん……出来てるね……」
同じレシピで作ったポーションは、無事に先程鑑定したものと同様の体力が徐々に回復するポーションになった。
あんなに苦労したのに……。
まあ、いい。完成したし、これを参考に他のポーション作りも出来る。