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10 透明な傷を塞いで③


「柚は細工の話になると、止まらなくなるのよね」

 はあ、と息を吐いて苦笑いをしたのは、まどかさんだ。

 アイネと柚さんが盛り上がるということは、必然、まどかさんと僕が放置されるわけだ。

「アイネが楽しそうで何よりだよ」

 僕としては、それに限る。

 この分だと、もしかしたら魔石の細工も柚さんにお願いするのかな。二人は随分盛り上がって細工について話していて、僕たち二人が入る隙間はない。

「ねえ、壱弦くん」

「なに?」

 話し掛けてきたのに、まどかさんは少し言いづらそうに表情を歪めている。

 まどかさんと関わった機会はあまりなくても、はきはきした人だなあという印象はあった。少なくとも、まどかさんが柚さんを引っ張っているのは確かだと思うし。

 少し迷ったようにしながらも、しばらくするとまどかさんは真っ直ぐにこちらを見てきた。

「……もし柚のアクセサリーをアイネちゃんのところのお店で売ってもらうようになるなら、どのくらいの期間になるかはわからないけど、辺境の街に滞在したいって思う。けど、壱弦くんはうちらと顔合わせるの、嫌じゃない……?」

 恐らくだけど、まどかさんは僕が国外追放された時のことを気にしているのだと思う。話したことがほとんどなかったとしても、一応クラスメイトだから心配してくれていたのだろうか。

 今にして思えばの話ではあるけど、あんなに突然で混乱している状況の中で、声を上げたり庇おうとしたりは出来ない。きっとみんな、自分のことで手一杯だったと思う。

「気にしてないよ」

 だからこれは、本当の気持ちだ。

 色々なことがあった。つらかったし、大変だったし、悲しかったけど、それらがあったからやさしい人たちに出会えて、精霊さんに大切にされて、大切にしたい人を見つけた。

 無駄なことなんて結局、何一つない。すべてが繋がって今の僕になっているのだから。

 アイネを見ているといつも、心が柔らかくなるような感覚がする。

 笑っていたり、楽しそうにしていると、僕もつられて簡単に笑顔になる。そうすると悲しみや痛みはびっくりするくらいに忘れて、笑っているんだ。

「壱弦くんは、変わったね」

「そうかな。あんまりそういう自覚はないけど」

 まあでも異世界に来なければ、こんな風にまどかさんと気さくに話すこともなかっただろうな。


「んー……でもどうにせよ、滞在許可証は取り直さないといけないかな。当面の宿も必要になるし」

「滞在許可証?」

「うん。マルシェの間だけのものしか貰ってないから、取り直さないと明日にはこの街から出て行かないといけなくなっちゃう」

 これ、と言ってまどかさんが滞在許可証を見せてくれた。

 以前僕が領主様のお屋敷に行く時に貰ったような、組み紐で括られた書類だ。

「辺境の街に定住してなくて、出入りする時は必要なんだって。魔法のかかった契約書みたいで、不法滞在とかしたらすぐわかるらしいの。泊まる時とかもこれを見せないと宿取れないって聞いたよ」

「そうなんだ」

 僕は定住コースだったから、それは貰わなかったんだなあ。それにしても、よく考えられているんだな、と思う。

 領主様が率いてしっかりしているから、安心して僕たちが暮らしている。その結果があの領主様の骨と皮具合だからもう少しお休みした方が良いのでは、という気持ちもあるけれど。……良いポーションを作るよう、頑張ろう。

「うーん……でも長期の滞在許可取れるかなあ」

 まどかさんが頭を抱えて悩み出す。

「辺境の街の領主様はきちんとされてるお方だから、事情を話せば大丈夫だと思うよ。僕のことも知っているし」

 少なくとも異世界から来た人を、話も聞かずに無下にする人ではないだろう。忙しいだろうけど、恐らく合間を縫って話を聞いてくれるはず。

「あたしのスキル暗殺者なんだけど、大丈夫かなー……?」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………暗殺者ですか」

「そう。気配殺して、近付いてドバーなやつ」

 ええと、……大丈夫かな?



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