表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/95

7 やさしさに包まれたなら④


 この地下牢の中にいる騎士さんは、この国から見ると隣国の、僕を召喚した国の人だ。それがどうして、この辺境の街の牢に入っているのだろう。

 まさか僕を護衛した後、この国の騎士さんに見つかって捕まっていた?

 騎士さんたちはみんな元気がなく、どこかやつれているように見える。元々屈強な体をしていたけど、お別れしたあの時に比べてほっそりしてしまっている。

 僕を護衛してくれた騎士さんは、三人だった。

 牢の中では三人とも、正座をして背筋を伸ばして、目を閉じている。あの時着ていた立派な騎士の服ではなく、平民が着るような服を着ていて、顔も青白いけれど、やっぱりあの騎士さんたちで間違いない。

「領主様、こちらの騎士さんたちはとてもやさしい方です。隣国から僕をここまで連れてきてくれたんです。なので……」

「ああ、勿論聞いているとも」

 僕の話を聞くと、領主様は事情を察したように穏やかに微笑んだ。

「イヅルくんは不本意に誘拐された被害者だから、どうか庇護してあげてほしいと、彼らに嘆願されてね」

 僕の知らないところでそんなやりとりがあったなんて。だから僕には緩い監視程度で、家も買えたし住むことも許されていたのだろうか。


「……その、お声は」

 騎士さんがゆるりと目を開ける。真っ直ぐに僕を見るけれどその目には力はない。ぼんやりとしている。

 けれど、そうだ。

 申し訳なかったとぼろぼろと涙をこぼして、十分すぎるほどのお金をくれて、必要な知識を教えて、僕をここまで連れてきてくれた。その騎士さんだ。

「ああ……ずいぶんと顔色が良くなられた」

 一人の騎士さんが目を開けてそう話すと、嬉しそうに笑う。

「イヅル殿には本当に、申し訳ないことをしました」

「穏やかなご様子を一目見られて良かったです」

 他の二人もいつの間にか目を開けていて、弱々しい声で次々とそう口にする。食事をあまり食べていないと言っていたから、弱っているのだろう。

「あの、騎士さんたちはどうしてここに?」

「我らは不法入国しています。騎士として、罪から逃げるわけにはいきません」

 つまり僕を安全な場所まで送り届けた後、自首しに行ったということだろうか。

 はあー、と隣から深い溜め息が聞こえた。領主様だ。

「困ったものだよ。聞き取りはしたけど、すぐに隣国に帰ってもらおうと思っていたんだけどね。いくら言っても罪を償うの一点張りで。捕虜でもないし、監視付きで宿に案内しようとすれば牢屋でいいのだと頑なに拒むし。食事を出せば自分たちに食べる資格はないから領民に回してくれといって断るし」

「……つまり騎士さんたちは、自分からこれを望んで……?」

「ああ。私の本意ではない」

 なるほど。やさしすぎて良心の呵責に耐えられなかった騎士さんが、自分を戒めすぎてこうなっていると。

 領主様的には面倒な問題になる前に、国に帰ってほしかったのだろう。

 確実に原因の一端は僕だ。大元は勿論隣国、特に国王とかその辺りの人たちだけど。

「領主様、騎士さんたちは本来、もう牢に入っていなくても良いということですよね?」

「そうだ」

 つまり領主様は、この騎士さんたちを助けたかったのだ。

 何をしても頑なで、そんな彼らが唯一望んだのが僕の平穏。だからこそ、僕にならどうにか出来るのではないかと。


 収納バッグから、ポーションを取り出す。

 少しだけ考えて、品質Aの体力ポーションの、トマトケチャップのオムライス味にした。

 隣にいる領主様を見ると頷いてくれたので、差し入れることは良いらしい。だからポーションを三本、鉄格子の間から差し入れる。

「騎士さん。これ、僕が作ったポーションです。僕の好物のオムライスの味になっているものです。飲んでみてください」

 そう話すけれど、騎士さんは戸惑ったように眉を下げて、ポーションには手を伸ばさない。

「僕は今、とても幸せです。騎士さんたちが心を砕いて、身を削って、ここに連れてきてくれたからです。でもそのやさしい騎士さんが苦しんでいたり、亡くなってしまったら、僕はとても悲しいです」

「イヅル殿……」

 どうかわかってほしいと思う。

 今僕がここにいるのは、紛れもなく騎士さんたちの尽力あってこそだ。そうして今平和的に領主様と面会したり、自分の好きな味のポーションを作ったり、そういうことが出来ている。

 騎士さんは相当、考え込んだ。

 それからやがて、おずおずとポーションを受け取ってくれた。

 その表情には隠しきれない罪悪感が色濃く浮かんだままだけど、僕があれこれ言ったところで当人が受け入れるまではきっと時間が掛かることなのだろう。他人の気持ちはおしはかることは出来ても、完全に理解することはまず出来ない。

 だから僕は笑って、何度でもお礼を伝える。

「僕をここまで連れてきてくれて、ありがとうございます」

 騎士さんたちはタガが外れたようにたくさん、本当にたくさん泣いた。

 渡したポーションは時間は掛かったもののすべて飲んで、美味しいと笑ってくれた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ