6 愛し子さんと精霊王様のぶらり辺境街歩き①
数日掛けて、中々の量のポーションが完成した。
アイネに作ってもらった料理の他にも、『ヘタレ草とチーズのサンドイッチ味』と『お肉屋さんのハンバーグ&レタスサンドイッチ味』と『大根と人参のお味噌汁味』を作った。どれも品質Cの体力回復ポーションだ。
お味噌汁味はノヴァ様のリクエストで作ったものだ。お味噌汁なら僕も作れるから、一回作って食べてからポーションを作ればいい。
ちなみにノヴァ様は、お味噌汁がとても好きらしい。
まさか、だから異世界人の黒髪率が高いとかないよね。いや、まさかね。
でも品質Cの味付きポーションで出来れば生活費は稼ぎたいなあと思っていたから、これは良いかもしれない。お味噌汁なら簡単に味違いを作れるし。
いつもながら不思議だけど、触るとポーションは常温なのに、いざ飲むとしっかりお味噌汁の味だしちゃんと温かい。
だからつまり、火のないところでも温かいお味噌汁が飲めるという優れものなのだ。
まあ勿論他のオムライスとかラタトゥイユとかも温かいんだけど、ポーション本来の食感……という表現はおかしいかもしれないけど、それと相違がほぼないお味噌汁は、受け入れやすいと思う。ほっとするよね、お味噌汁。
それはそれとして、僕は今たいへん悩んでいる。
というのも、アイネの手料理のお礼がポーション以外に思いつかないからだ。でもポーションだけというのはちょっと、ない。特に美味しい味のポーションはもとはアイネの手料理の味だし。
「うーん……」
結界の魔法が入った魔石なら確実に喜ばれるだろうけど、売り物で探すにもそもそも貴重なものだし売っているかもわからない上、アクセサリーはどういうものを贈ればいいのかさっぱりだ。
魔石を取りに行くにしても、一般的に魔石は魔物から入手出来るけど、僕には戦闘経験がまったくない。ついでに、僕の使う魔法が魔石に入れることが出来るかの実験もしていないから、とても現実的ではない。
お礼は早い方がいいから、それでは時間が掛かりすぎる。出来るかどうかもわからないしね。
「どうした壱弦。辛気臭い顔だぞ」
「ノヴァ様」
僕がリビングでぐだぐた悩んでいると、ノヴァ様がトーストをもぐもぐ食べながらやってきた。
この精霊王様、めちゃくちゃ我が家に馴染んでいるな。
さっき朝ご飯を食べたばかりなんだけど、ノヴァ様の胃袋は精霊さん同様、無尽蔵だ。
「お礼がしたいんですけど、何がいいのかさっぱりで。料理スキルSの手料理を振る舞ってくれた女の子なんですけど」
「ほう、あのポーションのもとになった料理か」
「はい」
「雌は大体綺麗なものが好きだろう。宝石かドレスか花でいいのではないか」
ノヴァ様ものすごく適当だなあ。あと、精霊の性別は男女じゃなくてオスとメスなのか。
アイネはやさしいから、ありがとうと言って何でも受け取ってくれそうだけど、ノヴァ様が言うように宝石やドレスで喜んでくれるだろうかと考えると、微妙そうだな。花だったら、もしかしたら喜んでくれるかもしれないけど。
「迷っているなら、街に出て探せば良い。オレも付き合ってやらんこともないぞ。そしてオレに街を案内して、荒れたままの庭もさっさと整えるのだ」
途中からノヴァ様の要望になっていないかな。気のせいだろうか。
でも確かに、街に出て探せば家でうんうん唸って考えているよりは有益かもしれない。
「わかりました、そうしましょう」
ついでにお肉屋さんに寄って、作ったポーションを飲んでもらって販売の許可を貰えたら貰ってこよう。
いつものように収納バッグを一つ持って出掛ける。
僕の家から街までは少し離れているけど、この収納バッグのおかげでどんなに荷物があってもほぼ身一つのようなものだ。だから買い物するのも歩くのも苦ではない。
しかし何故か一向に体力は増えない。
ノヴァ様も歩くのは苦ではないようで、ちょこちょこと僕の隣を歩いている。
それにしても見目が良い。艶々サラサラの黒髪に整った顔立ち、服は汚れ一つないきめ細やかな白だし、所作も綺麗。まるでどこかの貴族のおぼっちゃま……いや、王子様のごとく神々しいな。これ普通に街に行って大丈夫かな。
「……そういえば、ノヴァ様のお姿って、他の人には見えるんですか?」
人の形に見えても、そういえば精霊王様だった、ということを思い出す。
「オレの姿は普通は精霊たちと同じで、見えないぞ。だが折角街に行くんだ。勿論普通の人間にも見えるようにしている。安心してオレに話し掛けると良い」
「ノヴァ様、どう見ても平民には見えないんですけど、大丈夫ですか?」
可愛すぎて誘拐されたりとか、可愛すぎてストーカー発生とか、たいへん気がかりだ。
とはいえノヴァ様は精霊王様だから、とんでもない目にあうとしたら、まあ加害者側なんだろうけど。
「抜かりない。悪意ははじく」
「すごい。かっこいいですね」
悪意ってあわないように出来るんだなあ。結界の亜種みたいなやつかな?ああ、でも運∞も似たようなものなのかな。
「そうだろう、そうだろう!褒めても何も出ないがな。気分が良い、この魔石をやろう」
「わあ、ありがとうございます」
ノヴァ様、このチョロさで本当に大丈夫かな……。
とりあえずノリで貰った魔石はよく見ずにバッグに入れておいた。