5 精霊の愛し子⑥
「時に壱弦」
「何ですか?精霊王様」
「このものすごく良い匂いはなんだ」
……あっ。話し込んですっかり忘れていたけど、そもそも精霊さんは精霊王様に新しいポーションを飲んでほしくて連れてきたんだっけ。
「この匂いはポーションなんですけど、作ったばかりでまだ鑑定も試飲もしていないんです。今準備するので、少し座って待っていてもらってもいいですか?」
先に作っていたポーションは瓶詰めも済んでいるけど、味が完全にデザートだから、少しお待たせはするけど先にこちらを飲んでもらった方がいいだろう。
鑑定も試飲もまだのものを精霊王様には出せない。けれどどちらもさくっと確認するだけだから、数分も掛からない。
作業部屋には来客用のスペースなどはないけど、本を読む為のスペースは作っている。立派じゃなくて申し訳ないけど、そこにある椅子に座ってもらうように勧める。
「オレは忙しいが、愛し子の願いだ。待っていてやらんこともない」
「はい。ありがとうございます」
香りにそわそわした様子で、精霊王様は椅子に座った。良かった、待っていてくれるようだ。
素直じゃないような発言も、子供の姿だとただただ可愛いな。
精霊さんも精霊王様と一緒に待つことにしたらしい。精霊王様の側をぴょんぴょん飛び回りながら、待ちきれない様子でこちらを見ていた。
あまりお待たせしないように、さくさく鑑定してしまおう。
まずは一気に三種類、鑑定をする。
体力回復ポーション
品質 A
とても体力が回復するポーション
ラタトゥイユ味
体力回復ポーション
品質 A
とても体力が回復するポーション
トマトケチャップのオムライス味
体力回復ポーション
品質 A
とても体力が回復するポーション
ミネストローネ味
うん。三種類とも、きちんと出来ている。
味は……美味しい!
相変わらずポーションを飲んで、味はともかくとしても食感がしっかりあるというおかしな事態だけど、うん、やっぱり美味しい。
でもアイネに作ってもらった料理の方が、もっともっと美味しかったな。味はまったく同じと言っていいほどなのに、不思議だ。
いつも精霊さんが試飲するから、小さめのコップはいくつも常備してある。
けれど精霊王様は子供の姿とはいえ人間サイズだから、精霊さん用のコップでは小さすぎるだろう。お猪口くらいのサイズだから。
僕が使っているコップと同じサイズのものを出す。一応落として割れてしまった時とかの為に買っておいた予備だ。精霊王様の分は、それに注ぐ。精霊さんの分は、いつものやつに。
まずはラタトゥイユ味だ。
「精霊王様、これが体力回復ポーションのラタトゥイユ味です」
精霊王様のところにコップを持っていって差し出す。食欲をそそる香りがする。
「うむ、良い香りだ」
「ありがとうございます。あとはトマトケチャップのオムライス味と、ミネストローネ味と、パンケーキのベリーソースがけ味を今日作りました」
「いただこう」
精霊王様がポーションに口をつけると、待っていたのか精霊さんたちも一気にポーションを飲みはじめた。精霊さんは、待ても出来る精霊さんなんだね。
好きなものを好きな分飲めるように、瓶に詰めてしまってこちらに持ってきた方が良いかもしれない。そうしよう。
「うまー!」
「おいしい」
「なんということだ」
「こんなものがあるとは」
「おいしいねえ。おいしいねえ」
「まだまだおかわりもあるのです?」
「うん、まだまだあるよ。他の味もあるよ」
「そうだった!」
「なやましい」
「一度ぜんぶたべてからにするか」
「らたとぅいうおいしいよ」
精霊さん、ラタトゥイユの発音は難しいんだね。わからなくもない。
「いっぱいあるから、慌てなくて大丈夫だよ。それからこのポーション、精霊さんに貰った薬草で作っているんだ。ありがとう」
「どういたましまして!」
「ましまし〜」
「またお礼するね」
「こうごきたい」
「いつもありがとう」
お礼の気持ちを伝えると、精霊さんはとても嬉しそうに飛び回る。
瓶に詰めたポーションを精霊王様のところや精霊さんたちのところに持っていったり、精霊さんに可愛くおねだりされて注いであげたり、一気に騒がしい。
それにしても違う味のポーションも次々飲んでいく精霊さんの胃はどうなっているんだろう。あんなに小さい体なのに、ごくごくとすごい勢いで飲んでいるし。
いや、そもそも人型に近いからといって人間の体の構造と同じわけないよね。すごく力持ちだしね。