5.フィリップside
公爵家の嫡男で容姿にも恵まれて生を受けたフィリップは少年の頃から淡々としていて、周囲の反応も冷静に受け止めていた。見た目だけで公爵家の後継は務まらない、俺の努力に目を向ける者はいないようだが…
座学も剣術も魔法も才能に溺れず練習を重ね、いつも上位の成績を保っていた。自分の見た目と家の名に惹かれて近づいてくる令嬢達には全く興味を持てなかった。
そんなフィリップが初めて恋をしたのは、軍役として近衛騎士団に入隊してからのこと、兄の為にと頻繁に差し入れを持って来る子爵令嬢。明るく皆に親切な彼女は第一隊の人気者でフィリップも惹かれていた。そんな彼女にフィリップが一番好きと囁かれ、内緒のデートを重ねすっかり舞い上がっていた。しかし婚約の申込みの為、父に話をしようと思っていた時に別な男との密会現場に遭遇してしまう。
たまには馬丁に任せたままの愛馬の手入れをしようと厩舎に近寄ると、馬具をしまう小屋からその声が聞こえてくる。
「ああ、パウル…」
「イザベラ、悪い女だな、フィルともいい仲のくせに」
「フィルは結婚相手なら最高ね。でも案外真面目だから遊ぶならパウル、あなたが一番よ…」
「では、もっとよくしてあげよう」
フィリップは無言で立ち去り、その後もいいよってくるイザベラを寄せ付けなかった。初めて公爵家の息子としか見られない自分が恨めしくなった。
軍役の後そのまま近衛騎士団に残るよう薦められたが、王女の存在が煩わしくなっていたので王子宮の上級事務官になった。王子と王女が仲が悪いのを知ってのことだ。期待通り王女は姿を現すことはなく、忙しくなる仕事に没頭して数年が過ぎたのに、また王女に悩まされるとは…
※ ※ ※
「勘違いされたら困る。」
過去しつこい令嬢に言い渡した事のある台詞だ。あるものは酷いと泣き出し、ある者はご挨拶したかっただけと嘯いた。怒り出したのはクリスが初めてだ、無理もない、勘違いしていたのは俺の方だった。
この婚約話はてっきり伯爵家からの申し出だと思っていた、だから試すような態度を取った。後で実際は家の母上の提案で、伯爵夫人は家格の違いを気にしているのを押し切って話を決めたと知った。母娘共に良識ある人間だったのに、あの態度はまずかった。
だが最悪から始まったため遠慮をやめたクリスとの会話はとても楽で、令嬢と話していて楽しいと感じたのは初めてだ。会うと必ず次の約束を取り付ける事にしたが、クリスは気が乗らないようだ。
少しずつ関係を修正しようとしているのだが、甘い言葉をかけると
『公爵家と婚姻したいなど、勘違いはぜったいに有りませんから安心してください。』
と必ず言われる、残念だがかなり根に持っているようだ。
口の悪い俺に対して攻撃していいと決めたらしく、見えない所で足を踏んだり蹴ったりしてくるので、肩を抱いたり挨拶のキスでやり返すと真っ赤になって動揺する。それが可愛いので次はどうお返しするか考えるのが楽しみになっている。婚約者らしく振る舞うためとベタベタに甘やかしたら、どう反応するのだろう。
計画を実行しようと待ち合わせを無視して、学校まで迎えに行ったのに、邪魔が入った。お陰でその後の時間は散々だったがケーキを食べるクリスの幸せそうな顔は可愛かった。
シュガー・ルイスとか言ったな、王太子の婚約者候補とは有り得ないが、魔力は強力だった。もし、俺に懸想しているとすれば、クリスに害が及ぶかもしれない。
そして王女にクリスの存在が知れるのも時間の問題だ、その前に俺からクリスに王女のことを説明しておかないと…
あれに頼み事をすると、ロクなことがないから避けたかったが…学校に入れない俺がクリスを守るためには、スチュアート殿下と共闘するしかなさそうだ。




