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4.婚約者になりました

「クリス、楽しんできてね。」

授業が終わるとレティーシャとフローラがニコニコしながら話しかけてきた。レティーシャは外交職を目指す侯爵令嬢、フローラは女性騎士希望の辺境伯令嬢、身分は上だが親友の二人にはフィルとの婚約、今日街で会う約束の事を話してある。

「ほらクリス、素直に嬉しそうにしなさいよ。」

「フィリップ様は綺麗だから、一緒に歩くのは気が進まないのよ。」

なるべく目立つところで会うようにと、今回は王宮に近いカフェで待ち合わせになった。グレース公爵家の夜会でのお披露目も決まっていて、必要なこととはいえクリスとしては気が重い。


二人に肩を叩かれて、玄関に向かうと何やらざわざわしている。

そこには公爵家の紋が入った豪華な馬車が停まり、前にはフィリップが立っていた。

「やぁ、愛しの婚約者殿迎えに来たよ。」

一瞬で青ざめたクリスはフィリップの差し出す手を振り切って馬車に駆け込んだ。

なんて事してくれるのか…泣きたい。


そこへ女性の声が聞こえてきた。

「もしかして、フィリップ・グレース様ですか?」

誰?公爵子息にいきなり話しかけたよ。

「そうだが…」

フィルの仮面が剥がれた、声が怖い。

「わたし、ルイス男爵家のシュガーと申します。お会いしたかったので嬉しくて」

馬車のカーテンの陰から覗くと、ピンクがかったブロンドのとても可愛い女の子がフィルをうっとりと見上げている。が、フィルは不機嫌なままだ。

「ご令嬢、男に突然話しかけるのは礼儀に欠ける、学校で教わらなかったかな?私は急いでいるので失礼する」


すぐに出せと御者に指示し、乱暴に馬車のドアを閉めた。フィルの怒りが馬車に充満していたたまれない。

「あの、フィリップ様…」

「フィルでいい!」

「今のシュガーさんだけど。まさか知り合いだったとか…」

「まさか、違う!」

「う〜ん、じゃ、パーティとかで見かけて勝手に想われていたとか…?シュガーさんが王子殿下に話しかけているのよく見るから、王子狙いかと思ってた」

学年が違うので詳しくはないが、毎回違う男性と歩いているとは悪評の多い子だ。これでは選ばれはしないだろう。


フィルがため息をつく。

「これだから女は…」

今みたいに興味のない相手から迫られるのが日常なら、フィルが女性を嫌悪するのもしょうがないかな。ちょっとフィルに同情する。

「公爵家嫡男で眉目秀麗な人生も大変だね」

「人ごとみたいに言うな」 

「人ごとだよ」


そうかと言って左手を握ってきた。

「ちょっ、フィル!」

「今日は手を繋いだまま歩こう、婚約してることを広めれば女も寄って来なくなるはずだ」

「いや私じゃ虫除けにもならないと思う…」

「大丈夫だ、ドレスを着ればクリスもご令嬢に見える。そういえば、オスカーみたいに寄ってくる奴はちゃんと振り払えよ」

「うーん、相手が侯爵子息だったから中々ね」

「これからは俺の婚約者だと言うんだ、王家以外には負けない」


あははと力なく笑う。手はまだ離してくれない。

「あの女は要注意だな、俺を『魅了』の力を込めて見つめてきた。俺には効かないが魔力の弱い者には通用するだろう」

「まさか、わざと?」

「意識してか、無意識かは判断できない。ともかくなるべく近づくなよ」

なんだか問題ごとが増えた気がする。


街を歩いた後フィルに連れて行かれたのは高級カフェで、メニューの金額を見て固まってしまった。フィルにデートでは必ず男の奢りだから心配するなと教えられた。小さめのケーキは今まで食べた中で一番美味しくて、あっという間に2つを完食してしまった。するとフィルが追加のケーキと紅茶のお替わりを頼んでくれた。婚約者になったからか、フィルが優しい…解消前提だけど。


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