3.恋に落ちる
週末クリスティーナは父と、フィリップは1人でとある家の夜会に出席していた。この夜会で2人は出会い、恋に落ちる、というグレース公爵夫人の考えた設定だ。嬉しそうに娘と踊ったガーランド伯爵は
「クリス、ちょっと挨拶をしてくるよ」と告げて打ち合わせどおりクリスを1人にする。
壁際でフィリップを待つが中々近づいて来ない。フロアを見渡すと赤毛のご令嬢と談笑しているのが、目に入った。
(全く!無理して私の相手をする必要ないじゃない)
クリスは怒りながら、ケーキでも食べようとテーブルに近づくと前を塞がれた。
「やぁ、こんばんは」
主催者である侯爵家の次男、オスカーだ。
「こんばんは、素敵なパーティですね」
会釈をして通り過ぎようとすると、腕を掴まれる。
「折角いらしてるのだから、もっと楽しんでほしい。別室にも菓子を用意してあるから行きましょう」
「いえ、私は連れを待っておりますので…」
「少しの間ですよ、さぁ」
「失礼、オスカー殿、私のパートナーに何か用が?」
現れたフィルがオスカーの手を私から引き剥がす。
「フィリップ殿!貴方のお連れとは知らず、失礼しました〜」
たちまちオスカーが離れていく。
「ご令嬢、大丈夫でしたか?」
「はい、助けていただき、ありがとうございました」
「お役に立てて良かった。私はフィリップ・グレースと申します、お名前を伺っても?」
「はい、私はガーランド伯爵が娘、クリスティーナと申します」
「クリスティーナ嬢、馬車までお送りします」
「ありがとうございます」
流れるように出された手を取ると、私たちは庭に向かった。
「何で恋に落ちる前に他の男に捕まっているんだ!」
「突然話しかけられたの、貴方がご令嬢にデレデレして遅いからよ!」
「無下にできない家の娘で、仕方なかった。かえって上手く進んだから良しとしよう」
馬車の前で父が落ち着かない様子で待っていた。
再び小芝居をすると、今夜も手の甲にキスをされてフィルに見送られた。
翌日、公爵家の馬車でフィリップが我が家に来た。グレース夫人はノリノリで公爵閣下も送り込もうとしたので、私と母が全力で阻止した。
「馬車2台がやっとか、狭い庭だな」
「…お帰りですか?」
「まだ婚姻の申し入れが済んでない」
「私の通学と母の社交の為のタウンハウスだから、これで充分です」
公爵家の馬車が来たという状況作りで、時間を潰すためにフィルとお茶を飲む。
「王子宮の担当官に探りを入れてみたが、クリスも候補の上位だったらしいな」
フィルがじっと見つめてくる。何故私がと思ってますね、気持ちは分かります。
「私、魔力量が多いんです。家の魔石はいつも完全充填してるので家族にも使用人にも感謝されてます。」
「そうか、スチュアート王子は王族にしては魔力量が少ないと言われているからな、どれ」
「!何を…」
いきなり手を握ってくるなんて。
「動くな。確かに多いな、ふむ…俺との魔力の相性も良さそうだ」
「いらない情報だけど、そんな事もわかるの?」
「相性が悪い魔力は不快に感じる。」
「分かったから離して」
「なんだ男に手を握られた事もないのか」
当然だ、婚約者はいなかったしお付き合いしたこともない。さっきからドギマギして顔が火照っている、憐れむような笑いが悔しい。
「…学校に魔力の強い人はまだいるけど、だいたい婚約者持ちで。学校一と言われてる2年のシュガーさんは男爵令嬢だけど招待状が来ているそうだから、魔力にはこだわっているみたい」
「学校には記録が残る、調査済みという事か」
シュガーさんがちょっと特殊な令嬢でなければ、安心していられるのに…。
「そろそろいい時間か。俺はこれから中央教会に婚約届けを出しに行くが、クリス、本当にいいのか?」
「なんで?」
「円満解消しても婚約を交わした記録は残る、少しでも気になるならやめた方がいい」
「平気、王宮は避けたいし好きな人もいないし、フィルこそ好きな人と本当の婚約をすればいいのに」
「そういう相手はいないからな。王女に捕まるくらいなら、このままクリスと結婚してもいい」
「…全く嬉しくないからね、そのいい方。それに私は最初の日のこと忘れてないから!」
「ふうん、俺はよく覚えてないけどな」
優雅に微笑む顔が綺麗すぎる。年の差と経験の差は埋めようがないのが悔しかった。




